大きな出来事が迫ると逃げてしまう癖がある

2023.05.21 Sun

目次

回答したカウンセラー

小野寺 リヒト

臨床心理士/公認心理師

小野寺 リヒト

臨床心理士・公認心理師。FP2級所持。
医療機関や一般企業の産業保健事業部等での勤務経験があります。心の悩みが気兼ねなく相談できたり、セルフケアの重要性が浸透した世の中になってくれたらいいなと思っています。読書と料理が好きです。
【得意な相談】
〇気分の落ち込みや不安に関する相談(上手な気持ちの切り替え方、最初の一歩になる行動の踏み出し方等)
〇人間関係に関する悩み(パートナー・親子・職場関係・友人等)
〇お金の相談(ついお金を使ってしまう心理、貯蓄・節約のこと等)

「大きな出来事が迫ると逃げてしまう癖がある」の相談内容詳細

相談者
相談者 みうみ
いまストレスを感じている「出来事」を事実ベースで抜き出してみてね。
「いつ・どこで・誰が・何を」を意識するのがコツだよ。
大きな発表などが近づくと、逃げてしまったり、自暴自棄になったりことが多いことに困っています。そのなかでもいま、一番困っているのは就活です。本格的な就活が近づいてきて、情報を集めたり、試験勉強をやらなければいけないのに、どう頑張っても拒否反応がでてしまいできないです。ついついYouTubeで動画を見たりゲームをしてしまいます。後で恥をかいたり、自分が困るということは分かってはいるのですが、就活が怖くなってしまいました。今現在キャリアサイトだったり、大量に届く企業からのメールを見れない状態です。
逃げてしまう理由としては、東京で働くか地元で働くかが宙ぶらりんなのと、そもそも就活が吐きそうなくらい嫌ということだと思います。
第一希望としては一人暮らしをして東京で就職をしたいと考えているのですが、親からは「やめておいた方がいい」と言われています。(具合が悪いと何もできなくなること、逃げ癖があることを知っており、いきなり1人で知らない街で暮らすことを懸念してます)
逃げ癖があることでやりたいことができず、また逃げてしまうのループのように思います。
「1」についての「感情」を%で表現してみてね。合計で100%にならなくても大丈夫。直感で書いてみよう。
不安70%、焦り10%、悲しみ10%。
「1」について浮かんでいる「考え」を教えてね。
・自制心が無い。自分を律することができない人間で無責任。
・逃げる癖は、自分が少しでも愚痴や不満、困っていることをこぼすとなんでもすぐに「そんなのやめてしまえ!」とキレる父が関係しているとも思う。
・やりたいけどどうがんばっても出来なくて、焦るばかりで苦しい。
・やらないで済むなら、やらないでいたいという甘えた気持ちも少しはある。
・自分は責任感は人一倍強く、普段はこん詰めて真面目に取り組んでいるつもりだけど、だからこそ一度でも怖い、逃げたい、辛いと思うと止められなくなり、逃げてしまうのかな、と思っている。
・一度人に「休んでばかりで無責任だ」と言われて、揉めたのでそれ以降また逃げる癖がついた気がする。
いろんな視点から捉えるために、上記の回答の「別の可能性」を考えてみよう。
・やりたくないことを無理に続けることは、体に悪いように思う。もっと他の可能性をさがすか、妥協点を見つける。
・自分の特性だと受け止める。1月ごろは毎年調子が悪い。
・今は出来なくても、一度恥をかけば、また就活を再開できるようになる。(他の就活生の様子を見るなど)
いま専門家に聞いてみたいことは?
私は自分を律することができないから、責任から逃げてしまうのでしょうか。
逃げ癖があることで、やりたいことができなくなる。逃げ癖を直したいです。
この調子だと就活はおろか、責任を持って働くことも出来ないのではないかと考えています。特に大きな仕事や案件に対して、直前になると逃げ出してしまうのではないかという不安があります。
年齢、性別、職業
21歳 女性 大学生
既往歴
現在不安障害で心療内科に通院しています。
悩みの内容の自由記述
大学受験の時も、3年生からパタリと勉強のペースが落ち、勉強があまりできなくなってしまったことがありました。(焦りや不安でスマホゲームに逃げてしまった)
できない自分をずっと責め続けて、辛かったですが、体調が元気になったらすぐ家を出て自習室など勉強する環境に置くことで、大学は無事目指していたところに合格しました。
嫌なことから逃げても、ギリギリになったら無理やり時間使ってやっているのと、運で結果的にどうにかなってしまっていることが逃げ癖の原因だと思ったりします。
相談者 みうみ さんの自分史

自分史はまだありません。

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「大きな出来事が迫ると逃げてしまう癖がある」への回答

  • みうみ さん、ご相談をよせてくださりありがとうございます。臨床心理士・公認心理師の小野寺です。

    大きな出来事が迫ると逃げてしまう癖があるので何とかしなくては、とのご相談ですね。

    その具体例として就活を挙げてくださいましたね。ご相談をよせてくださったのが1月の中旬で、これを私が書いているのが5月頭ですから4か月以上お待たせしてしまいました。この間、随分と状況が変わってしまったことでしょう。お返事遅くなり申し訳ありません。

    タイムリーにお返事ができていれば就活に関して具体的なアドバイスなどができたかもしれませんね…。ただ、本質的なお悩みは「大きな出来事が迫ると逃げてしまう」にあるでしょうから、就活が終わっても役に立つようなことをお話できるように頑張りたいと思います。

    精神論はあまり役立たない

    まずお伝えしたいのは、「大きな出来事が迫ってきたときに逃げるのをやめるのに、『頑張る』に代表される精神論は基本的に役には立たない」ということです。

    「どう頑張っても拒否反応がでてしまいできない」とのことですが、それはそういうものであり、 みうみ さんは一切問題はありません。

    まして「自制心が無い」わけでもなく「自分を律することができない人間で無責任」なわけでもありませんからご安心ください。自制心がないことと逃げてしまうことにはそれほど大きな関連はありません。「気合い」や「根性」も同じです。いくら気合いや根性を入れたところでできないときはできません。

    人の気分や感情は、行動の統制(やると決めたことをやる)に対して当てにしてはいけないほどいい加減で揺らぎの多いものなのです。

    「心理カウンセラーの癖に人の気分や感情を否定するのか」と言われてしまいそうですが、これは否定しているわけではなく、気分や感情の性質を正しく記述しているのだとご理解いただければ幸いです。

    やると決めたことをやる際に、たとえそれが大きな出来事であったとしてもそれから逃げないようにする際に、頼るべきは「外部の力」です。人間の感情、気合い、意志の力に任せてもうまく行く見込みは立たないのです。

    「外部の力」とは、つまりは「環境」であり「仕組み」であり「工夫」です。せざるを得ない状況を作ることができれば、人間の不確かな要因に「するかしないか」の権を握られずに実行することが可能となります。

    逃げ癖を出にくくするための工夫4選

    では、「外部の力」を借りるための具体的な方法について見ていきたいと思います。次の4ステップがあります。ステップだけを淡々と記述しても納得感が薄いかと思いますので、「どうしてこうすることがいいのか」の根拠もお伝えできればと思います。

    ■問題を細分化する「シェーピング」

    初めにするべきことは、問題を小分けにすることです。大きな出来事が迫ってきたときこそ、この作業が大切です。

    たいていの人はいきなり42.195km走り切ることはできません。まずはウェアとシューズを買い、youtubeでランナーの走りを観察し、買ったウェアとシューズを履いて軽くストレッチだけを行い、休日に1kmだけ走ってみて…など、スモールステップでやっていって初めてフルマラソンを完走できるだけの体力をつけることができるようになるものです。

    それとまったく一緒で、 みうみ さんもまずは起きた「大きな出来事」を細分化していくことが重要です。くれぐれも気合いや根性でフルマラソンを走り切れると考えないことです。

    「今現在キャリアサイトだったり、大量に届く企業からのメールを見れない状態」とのことですから、「パッと浮かんだ一つの企業のHPの理念を見る」とか「企業メールを一日1件だけランダムで選んで読む」とか、そのような工夫ができるといいかもしれませんね。

    こうやって問題を細切れにしてできることから取り組んでいくことを「シェーピング」と言います。

    難しく大変な問題も、シェーピングをすることで解決しやすくなることが科学的に明らかになっています。

    ■ルールを決める「if-thenルール」

    細分化ができたら、続いては実行するための手がかりを用意することです。そしてその手がかりに基づくルールを決めるのです。

    たとえば「特定のキャリアサイトだけ見るようにする」であれば、「緑色のものが目に入ったらサイトを見るようにする」とか、「15時にアラームが鳴るように設定しておいて、そのアラームが鳴ったらサイトを見るようにする」などのルールです。この例で言えば、「緑色のもの」や「アラーム」が実行のための手がかりとなります。

    上記のような「こうしたら、こうする」という実行計画のことを「if-thenルール」と呼びます。

    if-thenルールは目標達成のための強力なツールとなります。強力すぎて普段意識しないところでも使われているほどです。

    想像ですが みうみ さんはたいてい決まった手順で歯を磨いているのではないでしょうか? 例えば朝起きたらまっすぐ洗面所に行って、歯ブラシを取って、歯磨き粉をつけて、歯ブラシを口に運ぶというな手順で。

    もしそうなら、それは知らず知らずif-thenルールに従っていると言えます。「朝起きた」を手がかりに、「洗面所に行く」というルールがあり、「洗面所に行ったら歯を磨く」というルールに従っているのです。

    こうやってルールに従って行動することを「窮屈だな」と思うかもしれません。しかし、この窮屈さこそが、「逃げ癖を直したい」気持ちに寄り添ってくれるのです。

    どうして逃げ癖が出てくるかというと、「やらなくてもいいのでは?」と考える余白が生まれてしまっているからです。

    ルールに縛られていない、ということは、「その都度何をするか自分の判断にゆだねられている」ということを意味します。そうすると、人間は弱い生き物ですから「今日くらいはやらなくてもいいんじゃ…」と考えてしまい、結果やらなくなるのです。

    もし歯磨きに対してルールを決めずに「磨きたいときに磨けばいい」としてしまったとしたら、きっと磨かない日も出てきてしまうことでしょう。

    「毎日やる」のと「たまにやる」のとで、どっちの方が継続しやすいかといえば、「やるやらない」の判断が入り込む余白がない分、「毎日やる」の方が案外継続しやすかったりします。

    ルールは「窮屈」ですが、この縛りこそが人の行動を継続させる力になるわけです。

    ■自分へのご褒美「トークンエコノミー」

    実行することができたら、是非ご自身にご褒美をあげてください。

    些細なもので構いません。「やれた」と思えたら好きな音楽を聴くとか、アロマを嗅ぐとか、LINEの返信をしてもいいとか、そういうちょっとしたことでOKです。

    先ほど「歯磨きはif-thenルールがあるから続けられている」といったお話をしましたが、実はご褒美があるから続けられているとの側面もあります。

    歯を磨いたら汚れが取れたり、歯磨き粉のさわやかな感じがしたり、口臭がしなくなったりといった「ご褒美」があります。このご褒美があるお陰で私たちは毎日歯を磨くことが出来ているのです。

    ご褒美が与えられると、人間の脳にはドーパミンと呼ばれる脳内物質が分泌されます。ドーパミンはモチベーションとやりがいを感じさせてくれることがわかっています。些細なご褒美であったとしても、このドーパミンを分泌させるのに非常に有効です。

    もし「些細なもので構いませんと言われても、どんなご褒美がいいかわからない」ということであれば、スマホの中にあるカレンダーに何かできたことがある日に「✓」を記録するという方法でも構いません。

    この「✓」が一定量、事前に決めておいた量が溜まったら、「大きなご褒美」を自分にあげてください。例えば、「✓が30個たまったら気になってたお店のパフェを食べに行く」「小旅行に出かける」などです。

    こうやって「✓」などが一定数たまった後にご褒美を自分にあげる方法を「トークンエコノミー」と言います。

    トークンエコノミーも難しく大変な問題を解決するのに一役買ってくれることが知られている方法です。

    ■スマホを手放す「プロンプトを遠ざける」

    「逃げ癖がある」ということは、逆に言えば「逃げ先がある」ということであり、「やるべき活動 < それ以外の活動」に時間を割いているということでもあります。

    このことは、「それ以外の活動」を実行しやすいような「外部の力」が働いていると言い換えることができそうです。

    「やるべき活動」をやるために「外部の力」を使うと同時に、「それ以外の活動」をしてしまう「外部の力」を取り除くことが効果的です。

    みうみ さんの場合、「ついついYouTubeで動画を見たりゲームをしてしまいます」とのことですから、「それ以外の活動」をしてしまうきっかけになっている代表に「スマホ」がありそうですね。

    このように「ついしてしまう」際のきっかけになっているものを「プロンプト」と言います。ですから「それ以外の活動」を「ついしてしまう」ことを避けるために、「気合いを入れる」…ではなく、「誘惑に負けない強い心を持つ」…でもなく、「プロンプト(今回の例で言えばスマホ)を物理的に遠ざける」ことが重要です。

    受験生のころ「すぐ家を出て自習室など勉強する環境に置くことで、大学は無事目指していたところに合格しました」とのことだったみたいですが、これも「プロンプトを物理的に遠ざける」ことができた賜物かもしれませんね。

    今はご家族と暮らしておられるとのことですから、スマホがプロンプトとして作用してしまい「やるべき活動」の妨げとなる場合、ご家族にスマホを預けるといいかもしれません。

    ご家族に預けるのに抵抗があるのでしたら『タイムロッキングコンテナ』を購入するのも手です。これは一定時間経たないと蓋が空かない箱です。この箱にスマホを入れている間、スマホは動画やゲームをするためのプロンプトとしての機能が失われます。「逃げ先」がいい意味でなくなる、ということですので、「逃げ癖」も出にくくなるのではないでしょうか。

    学習心理学も立派な心理学

    以上4つの方法をお伝えしましたが、注目して欲しいのは「どれも人の気分や感情を当てにしたものではない」点です。

    人の気分や感情を当てにしたものじゃないからといって、上記の4つの方法が心理学に基づく提案ではないかと言われれば、実はそれは違うのです。上記の提案は全て『学習心理学』と呼ばれる、れっきとした心理学に基づくものなんですね。

    心を扱う心理学が、「やるべきことをやるのに人の気分や感情をどうのこうのしない」のはなんとも考え深いものがあるように思います。

    心理学ですら気分や感情を脇に置いたうえで「行動するにはどうしたらいいのか?」を考えているのですから、ご自身のことを「律することができない人間で無責任」と、自分の内面を責めなくてもいいと私は思います。

    本当は気分や感情は関係がないのにもかかわらず、「自分の自制心の無さが原因だ」と考え、自制心を高める努力をし、それでも行動に結びつかないといった結果になって、ますます自分のことを信じられなくなる。こんな風になってしまったとしたら、やるべきことができないこと以上に「自分を信じることができない」といったより大きな問題へと発展してしまいかねません。

    「逃げ癖があることでやりたいことができず、また逃げてしまうのループ」があるとのことですが、これは上述の問題に片足を突っ込んでしまっているゆえかもしれません。「どうせ自分なんて…」との気持ちが逃げ癖を誘発させ、その結果さらに自信を失い…といったメカニズムが負のループを生んでいるのでしょう。

    繰り返しますが、自制心がないことと逃げてしまうことにはそれほど大きな関連はありません。精神論は基本的に役には立ちません。逃げ癖は みうみ さんの自制心の無さとは関係がないから安心してください。

    みうみ さんが上手に「外部の力」を借りて大きな出来事に向かっていけるよう応援しております。

    最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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