誰でもウソの一つや二つはついたことあるんじゃないかな。
でも、なかにはウソの数が多すぎたり、明らかにウソとわかるのに絶対認めない人もいるよね。
「虚言癖」がある場合のウソは、メリットがなかったり、動機が不明であるのが特徴なんだ。
虚言癖の定義や特徴、ウソをつくことの問題や行く末、上手にかかわる方法などを心理学的に説明していくよ。
目次
虚言癖とは
虚言癖とは、「どうしてもウソをついてしまう性質」を指す言葉だよ。あまり定義が定まっていない語句でもあるから、虚言癖の概念が生まれた背景から説明していくね。
虚言癖の定義と由来
虚言癖は、1891年にドイツの心理学者であるA・デルブリュックが提唱した概念だよ1。同氏は、自分の患者の中に異常で釣り合わないウソをつく者がいることに焦点を当てたんだ。
その後、虚言癖は100年以上も精神医学の中で認知されてはいるものの、定義については現在も専門家の中で議論されていて、正確な合意には至っていないのが現状だよ。
その中でも、精神科医のC・ダイク氏は、虚言癖の特徴を「心理的動機や外的利益が明らかでない嘘を、長期間にわたって頻繁に繰り返しつくこと」と説明しているんだ2。
つまり、通常のウソにはバレたくない事実を隠せるなどのメリットがある一方、虚言癖のある人がつくウソには、メリットだけでなく動機も不明で、聞いている人が「この人、なんでこんなウソつくんだろう」と疑問に感じる特徴があるんだね。
精神科医である林氏は、虚言癖のある人のウソは「細かく精巧」という特徴があるとも指摘しているんだ3。
また、虚言癖自体は病気でないことにも注意してね。虚言癖は精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)の中で、パーソナリティ障害の症状として記載されてはいるものの、独立した疾患としては記載されていないんだ。
虚言癖はあくまで症状や概念であって、病気として診断されるものではないんだね。
ちなみに、虚言癖は英語では” Pathological lying(パソロジカル・ライヤー)”で、直訳すると”病的なウソつき”になるよ。利益もメリットもないのにウソをつくことを「病的」としているんだね。
次の項目で、ウソをつく背景に病気が隠れている場合を紹介するよ。
虚言癖と「ただの嘘つき」の違いって?
たくさんウソをつく人がみんな虚言癖があるわけではないよ。
たとえウソをつく回数が多くても、そのウソにメリットや意図を感じられる場合には、虚言癖ではなく、ただのウソつきである場合もあるよね。
また、統合失調症のように自分の言っていることが理解できなかったり、解離性障害の解離が起きて記憶がない場合などは、「結果的に」ウソになってしまうだけだから、虚言癖とは言えないんだ。
虚言癖と病気
虚言癖は病気ではない一方、精神疾患によってウソをついてしまうこともあるよ。
ウソをついてしまう心や脳のプロセスは複雑だから、一概に「これは病気」「これは性格」みたいに分けるのは難しいんだけど、代表的な関係のある疾患をあげていくね。
疑われる病気
■虚偽性障害/ミュンヒハウゼン症候群
意図的に身体的症状を捏造する精神疾患だよ。ちょっとした痛みを激痛のようにふるまったり、動けないふりをするなど、病気やけがを負っていると周囲にアピールしてしまう疾患なんだ。
虚偽性障害になる原因はわかっていないんだけど、ストレスやこの後説明するパーソナリティ障害、幼少期のトラウマや不安定な人間関係が影響していると言われているよ。
■パーソナリティ障害
精神科医である林氏は、虚言癖といくつかのパーソナリティ障害の関連性を指摘しているよ3。なかでも、以下の3つは虚言癖との関連性が高いと言われているんだ。
■境界性パーソナリティ障害(BPD):
気分の変動が激しく、安定した自己認識を持つのが難しい。
■自己愛性パーソナリティ障害(NPD):
自分を非常に重要な存在だと思い、他人から賞賛と特別扱いを求める。
■反社会性パーソナリティ障害(APD):
人権や社会的ルールを無視する特徴があり、嘘をついたり、人を利用したり、犯罪行為に手を染めることまである。
BPDやNPDの人は、事実ではなく自分が感じている感情に合うように現実を歪曲するためにウソをつき、APDの人は、個人的な利益や喜びのためにウソをつくと言われているんだ4。
ただし、研究者のなかには虚言癖とパーソナリティ障害の関連性に懐疑的な見方をする人もいるよ2。BPDの人のウソには、虚言癖のある人の特徴である複雑で精巧なものがないことや、APDの人のウソが何かしらの利益のためなら、虚言癖の人の特徴である「目的が不明瞭」と一致しない、などが理由として言われているんだ。
パーソナリティ障害について詳しく知りたい人は、下のページで詳しく説明しているから読んでみてね。
■前頭側頭型認知症
虚言癖のある人と前頭側頭型認知症の共通点を指摘する研究があるよ5。研究では、虚言癖のある人の脳の前頭前野に機能障害が見られ、前頭側頭型認知症(行動障害型前頭側頭型認知症)との関連性が示唆されているんだ。
結論づけるにはさらなる研究が必要とされているけど、ウソをつく原因が解明されて、ウソをつかず苦しまなくていい未来が訪れるのを期待したいね。
前頭側頭型認知症は4大認知症のひとつで、理性を司る前頭葉が障害され、行動や言動に変化が現れるものなんだ。認知症の詳細は下の記事を見てみてね。
虚言癖のある人は「苦しんでいる」
虚言癖のある人のウソにはメリットがないと話したけど、実は本人がメリットに気づいていない場合があるんだ。
ウソをつくメリットの多くは、名声や評価、責任を逃れるなど「外的(意識的)」なものであることがほとんどだよね。一方、虚言癖のある人のウソには「内的(無意識)」なメリットがあると指摘する専門家もいるんだ2。
ウソをつく外的メリットは、自分の失敗なのにウソをつき誰かの責任にすることで、叱責などを免れるメリットのことだよ。一方、内的メリットは、今の生活や仕事にコンプレックスがある場合に、経歴やステータスを偽ることで、一時的にでも現実世界から逃避できるメリットを指すんだ。他にも、小さい頃に受けた虐待などの経験に耐えられないときに、まるで違う幼少時代を語ることで、自分のトラウマを忘れられるというメリットも考えられるよ。
また、嘘発見器を使った実験では、虚言癖のある人でもウソをつくと嘘発見器が反応したんだって6。実験を実施した研究者は、虚言癖のある人がウソをついている感覚があるにもかかわらず、自分のウソを信じようとするのは、ウソによる罪悪感を軽減するためかもしれない、と指摘しているんだ。
不安やストレスから逃れるためにウソをつき、罪悪感や人を傷つけているかもしれない事実が自己肯定感を低下させ、さらにストレス耐性が弱くなり、逃れるためにウソをつき…という負のループの中でもがいているのかもしれないんだね。
虚言癖の問題点
「つい言ってしまったウソが大事になってしまった…」なんて経験をしたことがある人もいるんじゃないかな。
ここでは、慢性的なウソが引き起こす問題や行く末を、「相手」「組織」「本人」という3つの影響から整理していくね。
ウソをつくことの相手への影響
ウソをつかれた相手は、常に疑いを持ってしまうよ。
「この話は本当?」「どこまでが真実で、どこからがウソなの?」と疑うことで、不安やストレスが増え、信頼関係を築くのが困難になるんだ。
また、臨床心理士のE・ダラムス氏は、ウソをつかれるのは「ガスライティングと同じように感じる場合がある」と指摘しているよ7。
ガスライティングとは、ウソの情報を信じ込ませることで精神的に追いつめる行為を指す言葉なんだ。ガスライティングを受け続けると、最初はウソだと思っていても「あれ、自分の方が間違っていたのかも…」と、自分に不信感を持ち始めてしまうんだよ。
つまり、虚言癖のある人が頻回にウソをつき続けると、最初は相手を疑っていたのが少しずつ自分を疑ってしまい、関係性がつくれないだけなく、ウソをつかれた相手が精神的に病んでしまう可能性があるんだ。
ガスライティングについては、下のページで詳しく説明しているから、興味のある人は読んでみてね。
ウソをつくことの組織への影響
ウソをつくことは、個人だけでなく組織にも影響があるよ。
Googleは、「チームの生産性向上の最重要要素」として心理的安全性をあげているんだ。心理的安全性とは、チームメンバーが互いに気兼ねなく意見を伝えあい、協力し合い、罰せられることがないと信じられる状態を指す言葉だよ。
組織のメンバーが多くのウソをついてしまうような環境は、お互いの信頼関係がつくられないだけでなく、ミスしたことを黙認したり、正直な意見交換ができず会社や組織の生産性に大きな影響を与えてしまうんだ。
職場やチームの心理的安全性に悩んでいる人は、心理的安全性の作り方のページを見てみてね。
ウソをつくことの本人への影響
虚言癖のある本人への影響は、なんといっても他者からの信頼を失うことだよ。たとえば、何度も理由もなくウソをついてしまうと、「あの人は自分の都合しか考えていない」などと思われてしまい、信頼を失うことになってしまうんだ。
じゃあ、信頼を失うことによる「本人への悪影響」ってなんだろう?
信頼の喪失は、他者との関係性が悪化するだけでなく、個人的なストレスを増やし、生きづらくなるという影響もあるんだ。
「信頼」はよく聞く言葉でわかりやすい概念だけど、人が生きる上で重要な概念だよ。カーネギーメロン大学のルソー教授は、信頼を以下のように定義しているよ8。
「信頼とは、他者の意図や行為に対する好意的な期待に基づき、自己の脆弱性をよしとする意図を生じさせる心理的状態のこと」
要約すると、信頼関係があれば「ミスしたってOK!」「ちょっとくらいダメ人間でもOK!」と思えるということだよ。逆に、信頼関係のない状況では、「ミスをしてはいけない」「立派な人間でなければいけない」と自分にプレッシャーをかけ続けなければいけないんだ。
つまり、信頼関係のない環境では、必要以上に自分に厳しくなってしまい、精神的負担やストレスが増える可能性があるんだよ。
心理的安全性は、会社や組織の生産性をあげるために重要と言われているけど、個人のQOL(心身の健康状態)をあげるためにも大切なんだ。
虚言癖のある人への対応方法
普通に会話したり決めるべき課題を決めたいときに、虚言癖のある人がウソを言い始めたときはどうしたらいいんだろう。
大事なのは、「ウソをついても利益がない」と本人に自覚してもらうことだよ。利益がないと思ってもらえる4つの方法を紹介するね。
大げさに反応しない
大げさに反応するとそれを見て嬉しくなってしまい、さらにウソをついてしまう可能性があるよ。ウソがエスカレートするのは、周囲の人だけでなく本人のストレスも増やしてしまうので、話半分くらいで聞いてあげるのがおすすめなんだ。
反復して聞き返す
ウソの内容を反復して聞き返すと、自分がどれだけ大げさな話をしているか自覚を促せるよ。虚言癖のある人は衝動的にウソをついてしまう場合が多いから、他人の言葉として聞き返されると、自分の衝動的な部分を客観的に知る機会になるんだ。
自分の話がいかに大げさかを知れると、ウソがエスカレートするのを防げるし、本人のためにもなるからぜひ試してみてね。
「第三者の意見を聞く」と伝える
虚言癖のある人は、自分のウソを見抜かれるのを嫌うと言われているよ9。「そうなの?ちょっと他の人にも聞いてみるね」と伝えると、自分のウソがバレたり広まるのを心配して発言を訂正してくれる場合があるんだ。
はっきり伝える
虚言癖のある本人のために、ウソをつかれる気分をはっきり伝えるのも大事だよ。ただし、「あなたはウソをついている!」と言ってしまうと相手も感情的になってしまい、ウソを正当化するためのウソを始めてしまう可能性もあるから注意してね。
直接相手を否定するのではなく、アイ・メッセージ(私は〜)を使ったアサーティブなコミュニケーションを意識してみて。「(私は)現実的に思えないから混乱してしまう」とか「(私は)正直に話さない人とは話したくない」という感じで伝えてみてね。
虚言癖を治す方法
もし自分が必要のないウソを衝動的についてしまい困っているなら、自分の体と心を大事にすることから始めてみて。治療と同時にセルフケアとしてできることを紹介するね。
体調管理に気を遣う
虚言癖の多くが計画的ではなく衝動的なウソである場合が多い話はしたよね。まずは自分の心身の状態を整え、衝動性が湧きにくい環境をつくってみよう。
社会心理学者のR・バウマイスター氏によると、衝動をコントロールするための自制心(意志力)には限りがあって、上手に使ったり回復させるのが必要だと言っているんだ10。たとえば、ダイエットをしている人が朝ご飯にドーナッツを我慢するのはできても、夜ご飯のデザートにケーキをスキップするのが難しいのは、日中に仕事や生活の中で自制心(意志力)を使い消耗しているからなんだって。
つまり、虚言癖のある人が衝動的にウソをついてしまうのは、ストレスや不安などで意志力が慢性的に消耗していることと関係があるかもしれないんだ。
自分だけの時間をつくったり、リラックス作用のあるアロマを炊いてお風呂に浸かったり、適度に体を動かすエクササイズをして、意志力の補充をしてみてね。
衝動を吟味する練習
意志力の補充だけでなく、衝動性をコントロールするトレーニングも同時にやってみよう。
東洋大学の研究では、ひとつの衝動を我慢できると、他のことも我慢しやすくなると指摘しているよ11。研究では、甘いお菓子を食べないようにする、姿勢を崩さないように気を付けるなど、日常生活で繰り返し可能な衝動の抑制をしてもらったんだ。一定期間継続したら、なんとお菓子や姿勢だけでなく、生活習慣や学習環境などさまざまな場面でセルフコントロールの向上が見られたんだって。
衝動的にウソをついてしまう人が、いきなりウソをつかないようにするのは難しいかもしれないよね。だけど、誰にも迷惑をかけないところで自分の衝動を我慢する練習をすると、ウソをついてしまうのを減らせるかもしれないんだ。
ご飯を食べた後すぐ横にならないとか、面倒だけど毎日決まった時間に体重を測るとか、あまり重要でない習慣から試してみてね。
治療を受ける
今この記事を読んでくれている「ウソをやめたい」と感じている人は、ウソをつかざるを得ないほどの不安やストレスが大きい可能性があるよね。それに、ウソをつくことでさらに自分を傷つけている場合もあると思う。
虚言癖は病気ではないけど、疾患が隠れている場合もあるし、ウソをついてしまう状態が自己肯定感などを低くすることで、別の疾患につながってしまう恐れもあるんだ。
理屈ではなく「今、自分は苦しい」と感じるときがあるなら、病院や専門家に診てもらうのもためらわないでほしいな。
どんなところにいけばいいかわからないという人は、下のページで症状や状況別に説明しているから、参考にしてみてね。
虚言癖を理解するポイントまとめ
虚言癖について押さえておきたいポイントは以下の通りだよ。
①虚言癖は病気ではないけど、疾患が隠れている可能性がある
②ウソをついてしまう人は、ストレスや不安を抱えている場合がある
③ウソによりさらに自分を傷つけていることもある
④ウソは相手や自分だけでなく、組織や環境にも悪影響がある
⑤虚言癖のある人には、「ウソをついても利益がない」と気づいてもらう
⑥ウソをついてしまう人は、心身の体調管理と衝動抑制の練習が大事
誰だってウソをつかれるのは気分悪いし、そんな人とは関わりたくないと思うのも当然だと思う。迷惑をかけられ嫌な思いをさせられる人とは、適度な距離を保ちかかわって大丈夫。
でも、ウソをついてしまう人だって、多くの人の同じように大なり小なり悩みや苦しみがあって、誰かに助けてもらいたいと願っている人もきっと少なくないと思うんだ。
自分に少し余裕があるときだけでいいから、あまり関わりたくない人でも苦しんでいる部分に目を向けてあげられたら、今よりちょっとだけ優しい社会になるかもしれないね。