一口に「心理療法(カウンセリング)」といっても、実は様々な種類があるんだ。
精神分析的心理療法、クライエント中心理療法、論理療法、家族療法などなど。最近だと認知行動療法が有名だね。
今回は、あまり知られていないけど効果的な心理療法である『対人関係療法』について解説するね。対人関係療法は、コミュニケーションや対人ストレスに関する症状に関しては認知行動療法をしのぐ効果がある心理療法なんだ。
対人関係療法の考え方は、ストレスを解消する上でもとても参考になるから、心理療法を受ける予定がなくてもメンタルヘルスに関心のある人であれば参考になると思うよ。
目次
対人関係療法とは
対人関係療法とは、アメリカの精神科医クラーマンらによって創始された「対人関係の在り方と精神的な病との間には強い関連がある」との前提のもと、対人コミュニケーションを改善することで症状の除去を目指す心理療法のことだよ。
例えば、うつ病でぐったりしているときに「いつまで寝てるんだ」と咎められたらよけいにうつ病は悪化するよね。そんな場合、相手には「自分は今うつ病である」ことと、「いつまで寝てるんだ」などと咎める言い方をしないで欲しいことを伝えていくことがとても大切になるかもしれないね。
一見対人関係が関係なく見える摂食障害も、自分の本心を打ちあけることができなかったり、「痩せている」などの外見的特徴が注目される関係性があると、よけいに体重・体型が気になり症状が維持・悪化することが知られているんだ。本心を打ちあけたり、外見的な自信よりも、内面的な安心感を感じられる対人関係を作っていく必要があるんだね。
対人関係療法は英語でinterpersonal psychotherapyなので、頭文字をとってIPTと呼ばれることも多いよ。
対人関係療法の特徴
対人関係療法は他の心理療法にはない特徴がたくさんあるんだ。代表的なものに注目して紹介していくね。
現在の対人関係に焦点をあてる
対人関係療法は、その名の通り「対人関係」に焦点をあてたアプローチをしていくんだ。特に「現在の」「重要な他者」との対人関係のあり方について詳細に検討していくよ。
対人関係療法は、現在かかわりのある相手に自分の期待に応えてもらいつつ、自分も相手の期待に応える相互作用で、互いに信頼し合う関係性を築いていくんだ。この関係性があることが、かけがえのない心の安定につながっていくんだね。
「現在かかわりのある相手」に焦点をあてるとはいえ、過去どのような対人関係があったのかを聞いていくこともあるから、過去の対人関係を「まったく扱わない」というわけではないんだ。でもその場合でも「過去の対人関係が今の対人関係にどのように影響しているのか」を把握するための情報収集として聴いていくとのニュアンスが強いね。
対人関係療法では、「現在の」対人関係の中でも、特に「重要な他者」との関係性を最重要視するよ。重要な他者とは「自分の情緒に大きな影響をもたらす人」のことだよ。
例えば、自分の親友が事故に遭ったときと、ニュースで他人が事故に遭ったのを知ったときとで、どちらの方が気持ちが揺さぶられるかを考えてみると、その違いは明確だよね。人それぞれどの人を「重要だ」と捉えかには差があるんだ。
心理学では「仕事や友人、親戚との付き合いよりも、家族や恋人(パートナー)、親友などとの関係をより重視出来ている人の方がメンタルが安定している傾向がある」ことがわかっているよ。対人関係療法ではその考えを基準にしてメンタルヘルスが安定する対人関係が構築できるようにアプローチしていくんだ。
対人関係は自分を中心に3層に分けて考えることが出来るよ。下の図を参照してね。
理想的には一層目に配偶者・恋人(パートナー)・親・親友などが来て、二層目に友人・親戚など、三層目に職場の人などが来るのが良いとされているよ。この3層を図にしたものを「親しさサークル」というんだ。理想とされている親しさサークルをこの記事では便宜的に「健康的な親しさサークル」と呼ぶことにするね。
このバランスが崩れて、本来は手を抜いていいはずの職場の対人関係がもっとも情緒に影響をもたらす人になっていたり、密な対人関係を築くのが理想の夫婦関係が疎かになっていたりすると、メンタルに不調を来すリスク高くなるんだ。理想から離れた親しさサークルをこの記事では便宜的に「健康リスクのある親しさサークル」と呼ぶことにするね。
このような親しさサークルになっていたら、職場の人とどう距離をとるか、そして恋人とどう密なコミュニケーションをとるかを検討していくことになるよ。
誤解がないように付け加えると、当然のことながら「健康的な親しさサークル」は一つの参照枠に過ぎなくて、絶対的な真実じゃないんだ。「家族なら絶対に一層目にいるべき」というものじゃないんだね。家族でもどうしても分かり合えないことだってあるはず。その場合、無理して「仲良くやる」必要はないんだ。そっと心理的な距離をおくことも大事。そうやって「うまくやる」ことを目指すんだよ。
対人関係療法と認知行動療法は違う
対人関係療法は認知行動療法と似た面もあるけど、やっぱり違うものだよ。
対人関係療法と認知行動療法は、エビデンス・ベイストな心理療法の双璧をなしていると言われているんだ。両方とも「科学的に効果があることを重視している」ということだね。
実際、この二つは似たところも多いんだ。そのためか、対人関係療法は「対人関係を扱う認知行動療法」と言われることもあるみたい。けど、この二つは明確に違う点が当然あって、その一つは「対人関係療法は『認知』を扱わない」点だよ。
「認知」とは「ものの考え方・捉え方」のことだと思ってね。うつ病になると物事の捉え方(認知)が否定的になることが知られているんだけど、認知行動療法ではこの悲観的になった考えを何とか変えていくことを目指すんだ(「変えていく」との表現は正確じゃないんだけどね。詳細はこちらの記事を読んでみて)。
一方、対人関係療法は認知を扱わず、もっぱら「どのような対人関係があったのか」「そのとき自分はどう感じたのか」と、対人関係と気分に注目するんだ。自分にとって快適に感じられる対人関係を築くことこそが、病気を治すために不可欠だと考えるからだよ。
対人関係療法では、否定的な認知を「うつ病の症状」と理解・説明するんだ。症状ならば、病気の間はずっとその症状は出続けるはずだよね。対人関係療法では「うつ病が治れば、自然と否定的な認知も無くなる」と考えるので、認知を扱わないんだよ。
「病者の役割」を与える
対人関係療法は、心理療法には珍しく、「あなたは病気です」と頻繁に伝えるんだ。これを「『病者の役割』を与える」というよ。
「あなたは病気です」と言われるのを想像したとき、どんな印象を抱くかな。人によっては「余計に落ち込みそう」「病気だって直面化するのしんどいな」と思うかもしれないね。
確かに、「あなたは病気です」とただ伝えるだけだとそうなってしまうよね。けど、病者の役割を与えるのは、「その病気から早く抜け出すために必要な努力を治療者とともに行う」ことまでセットになった考え方なんだ。つまり、病者の役割とは①病気であることを受け入れる、②治す努力をする、の二つの側面があるんだよ。
病者の役割がない場合を考えると、病者の役割が与えられることのメリットが浮き彫りになるかもしれないね。
例えば、本当はうつ病なのに「うつ病じゃない」と決めつけてしまったたら、気分の落ち込みも「気合いが足りない」になるし、悲観的に考えるのも「根暗で嫌な人」になるし、動けないのも「怠け者」になってしまうね。病気ではないのだから、治すこともできないよ。
「病気なんだから、出来ないことがあるのはしょうがない」「病気なんだから、治せる」。このように、いい意味で楽観的に考えるのが対人関係療法の特徴なんだ。
期間限定
対人関係療法では、初めから「○○回実施しましょう」とセッション数を決めてから取り組むのも特徴の一つなんだ。扱う症状によってかわってくるけど、おおよそ1回50分を12~16回実施するのがスタンダードなやり方と言われているよ。
期間を限定するのは、①集中して取り組むため、②計画的に進めやすい、③依存を予防するなどといった理由があるんだ。
もちろん、必要に応じて追加のセッションを持つこともあるよ。けどその場合も「○○回追加する」と、必ず終わりがあることを意識した追加をするんだ。
効果があとからじわじわ出てくる
対人関係療法の興味深い点は、心理療法が終わった後からじわじわと効果が出てくることだよ。
そのことを示した代表的な研究がオックスフォード大学のフェアバーン氏によって行われたものなんだ1。この研究は対人関係療法と認知行動療法、行動療法の3つの過食症への治療成績を調べたものだよ。
研究から分かってきたことは、心理療法を終結した当初は対人関係療法が3つの中で最も結果がかんばしくなかったにもかかわらず、終結後6年たったときには、対人関係療法を受けた人が最も良い状態になっていたことなんだ。
さらに驚くべきことに、この研究はもともと認知行動療法の効果を調べるために行われたものなので、「対人関係療法は認知行動療法と共通する技法を使っちゃダメ」と「ハンデ」が与えられていたそうだよ。ハンデがあっても対人関係療法が一位になるなんてすごいよね。
日本の対人関係療法の第一人者である水島氏はこの結果を以下のように考察しているよ。少し長いけど、著書から引用するね。
対人関係療法において、効果が後から、しかも着実に現れてくるという所見は、私の臨床経験に合致するものである。 そもそも、対人関係療法において症状の寛解が認知行動療法よりも遅く現れるのは、理にかなったことである。 過食症に対する認知行動療法は、食行動を変化させることから治療が始まるので、まずは症状に効果が現れるのは当然といえば当然のことだ。
一方、 対人関係療法では、食についての行動変化は全く促さず、治療焦点として定めた対人関係問題領域を扱っていくので、効果の発現は、対人関係への満足度、社会機能、抑うつ症状、自分への信頼感、といったところから始まり、その結果として食行動にも変化が生じる、という順になる。これが、 診断基準で規定されているような症状の寛解が認知行動療法よりも遅い最大の理由だと考えている。(『摂食障害の不安に向き合う』より2)
似たような研究がグループ対人関係療法とグループ認知行動療法でも行われたけど、ほぼ一緒の結果だったんだ。当該の論文に分かりやすい図があったから引用するね。3
症状が最初はなかなかよくならなくてヤキモキするかもしれないけど、本格的に治すためには長い目で見て対人関係療法を受けることを選択するのも全然ありだね。
対人関係療法で最も重要な4つの概念
対人関係療法では「対人関係」を扱うというのは今まで解説してきた通りだね。
次は対人関係療法が対人関係を「どう扱うか」を見ていこう。対人関係上の問題を4種類に分けるんだ。対人関係療法では対人関係上の問題を「問題領域」と呼ぶよ。
4種類に分けて考える理由は、どの問題領域かによって治療の進め方が大きく変わってくるからだよ。だから、「どの問題領域なのか」を決定することは、対人関係療法を効果的に進める上で最も重要度が高い事柄なんだ。
どの問題領域ではどんな治療の進め方をするのかの詳細は「対人関係療法のやり方」のところで説明するね。
なお、「問題領域」の話は、本来かなり専門的な内容になる箇所なんだけど、極力わかりやすく解説していくよ。よりきちんと知りたい人は『対人関係療法総合ガイド』や『対人関係療法マスターブック』『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』などを参照するのがオススメだね。
悲哀
重要な人との死別が病気に関係している場合、「悲哀」の問題領域を扱うんだ。
親しい人との死別は誰にとってもショックの大きいことだよね。しばらくの間落ち込んで何もやる気になれなかったとしても、なんら不思議ではないよ。
だけど、親しい人との死別を経験した人が、全員精神的な病を患うわけではないんだ。多くの人は①「否認」、②「絶望」、③「脱愛着」のプロセスを経て、少しずつ元気を取り戻していくものなんだよ。
「否認」とは、「あの人が死ぬなんて嘘だ! 認めない」と感じる時期だよ。そして「絶望」とは、徐々に死を受け入れ「もうこの世にあの人はいないんだ」と悲しみに暮れる時期なんだ。
でも、この「絶望」の時期にしっかりと悲しみつくすことで、「あの人がいなくて悲しいけれど、あの人との生前のかかわりはいい思い出として残しつつ、残された自分の人生を生きよう」と考える「脱愛着」の時期を迎えられるんだ。
「悲哀」が問題とされるのは、このプロセスのどこかでつまづいてなかなか脱愛着に至らず、慢性的で激しいストレスを抱え続けているからなんだね。
対人関係上の役割をめぐる不和
重要な他者との関係性がギクシャクしていて、お互い期待していることにズレが生じ、そのストレスが病気に関係している場合、「対人関係上の役割をめぐる不和」の問題領域を扱うんだ。
「対人関係上の役割をめぐる不和」は長いので、単に「不和」と呼ばれることが多いよ。
「不和」の具体例は、「ただ話を聴いてほしいだけ」と思っている奥さんと、「解決してあげたい」と思っている旦那さん、みたいな感じかな。
重要な他者との関係を構築するのは意外と難しいんだ。人は身近な人であればあるほど、良くも悪くも「甘え」の気持ちが出てしまい「これだけ一緒にいるのだから、言わないでも分かるはず」「俺(私)のことが大事なら、これくらいして当たり前」と思って、言語的なコミュニケーションが疎かになる傾向があるあらだよ。
重要な他者同士なので、もちろん言葉にしなくても以心伝心で伝わることもあるよね。けど、結局は「他人」なのだから、言葉にしないとわからないことも多いんだ。言葉にしないとどんどん期待することのズレが広がってしまうよ。
重要な他者同士だと、「このズレを言葉を介さなくても修正できることが愛の証」と勘違いしてしまうよね。でも、本当の愛は、相手の気持ちも考慮して率直に自分の気持ちを言葉にすることだよ。言葉は何よりの相手へのプレゼントになるんだ。
役割の変化
つい最近までの状況や環境、出来事とは異なることが起き、その新しく生じた変化に適応できないストレスが病気に関係している場合、「役割の変化」の問題領域を扱うんだ。「役割の変化」は「変化」と呼ばれることも多いよ。
あらゆることが「変化」となり得るんだ。例えば、進学、就職、昇進、リストラ、妊娠、事故などもそうだし、思春期特有の病には「子どもから大人への成長」といったプロセスに関するものが関係していることもあるね。
変化が生じて「今までの自分のスタイルが通用しない」と感じる体験は、思いのほか強いストレスを人に与えるものなんだ。それにもかかわらず多くの人は「済んだことをいつまでもグジグジ言っていても仕方がない」と、そのストレスに蓋をしてしまうよね。
けど、心の問題は否定すればするほど、際限なく大きくなってしまうんだ。ストレスを小さくするには、「ああ、自分は困っているんだな」「傷ついているんだ」と受け入れ、その気持ちを共有してくれる安心できる他者の存在が欠かせないんだよ。
対人関係の欠如
上記3つの問題領域が選ばれない場合に消去法で選択されるのが「対人関係の欠如」だよ。「対人関係の欠如」は単に「欠如」と呼ばれることが多いね。「欠如」は、長期的に親しい対人関係を形成することに問題を抱えている場合に扱われるんだ。
とはいえ、対人関係療法は「対人関係を扱う心理療法」だから、基本的に「欠如」が選択されることはほとんどないよ。けど、一部「友だちは多いけど、実は本心を伝えられる人が一人もいない」などの特殊なケースでは選択されることもあるね。
ちなみに、精神的な病になったことで孤立した生活を送るようになった人も中にはいるけど、その人は「欠如」ではないよ。「精神的な病になった結果、孤立している」のであれば、欠如以外の要因がその病に関係していると考える方が妥当だからだね。
対人関係療法のやり方
対人関係療法は期間限定で実施される心理療法なのでスケジュールが明確で、「どの時期には何をする」ってことがシステマティックに決まっているよ。
対人関係療法のスケジュールは大きく、初期、中期、終結期の3つに分かれていて、それぞれやることが異なるんだね。
「何をするか」の部分は、本来かなり専門的な内容になる箇所なんだ。極力わかりやすく解説していくけど、よりきちんと知りたい人は『対人関係療法総合ガイド』や『対人関係療法マスターブック』『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』などを参照するのがオススメだよ。
それでは、実際どんなやり方で実施されるのか見ていこう。
初期
初期は治療の基礎を作る時期だね。おおよそ3~4回のセッションを行うんだ。
この間、病歴を聴いたり、「病者の役割」を与えたり、重要な他者との関係を聴取したりするよ。
この過程で病気になったきっかけは何だったのか、今の病気に関係している対人関係はどのような関係かの仮説を立て、主要な「問題領域」を決定していくんだ。
例えば、ソーシャルサポートが少ない人が交通事故に遭い、PTSDになった場合、「変化」が問題領域となるかもしれないね。
ソーシャルサポートとは、ある個人がその人を取り巻く家族、恋人、友人、恩師、同僚などの重要な他者から得られる様々な支援のことだよ。簡単に言うと、「自分を助けてくれる存在」のことだね。
ソーシャルサポートはメンタルヘルスを良好に保つのに欠かせないんだ。気になる人は下の記事も読んでみてくれたら嬉しいな。
中期
中期は「問題領域」に取り組む、本格的な治療的かかわりを行っていく時期だよ。おおよそ9~10回のセッションを行うんだ。「問題領域」毎にアプローチの仕方は変わってくるよ。「欠如」はほとんど選ばれることがないから割愛するね。
悲哀
「悲哀」であれば、脱愛着にいたるプロセスを促していくよ。例えば、遺品整理をしたり、故人の思い出話を共有してくれる人に話を聞いてもらったり、散歩や映画鑑賞など日常の些細な出来事に付き合ってくれる人と出かけたりしていくんだ。
対人関係療法のセラピストは、故人に関する複雑な思いをじっくりと傾聴していくよ。故人に対して「悪く言うのははばかられる」とネガティブな思いを胸にしまう人が多いけど、「あまり家事を手伝ってくれなかった」「何で俺を置いて先に逝ってしまうんだ」などの怒りがあっても、それは当然の気持ちなんだ。
当然の気持ちに蓋をすると、心はとても疲れてしまうよ。安心安全な場所で吐き出すのが大事なんだね。
不和
「不和」であれば、重要な他者に期待していることを明確に言語化し、「その期待は相手が叶えられるものか」「叶えられるものなら、どのように伝えれば伝わるか」「相手の自分への期待は妥当か」「妥当でないなら、どのように伝えれば期待を妥当なものに調整してもらえるか」を検討していくよ。
そして、検討したことを重要な他者へ実際に伝えていくんだ。もちろん、伝える前にセラピストと一緒に伝え方の練習してからね。
どんなふうに伝えるかは、以下の夫婦やカップルの上手なケンカの仕方の記事が参考になるよ。ここでいうケンカとは「自分の本音や気持ちを上手に説明し、伝えられるようになる」ことなんだ。
変化
「変化」であれば、変化前に自分が置かれていた状況を振り返り、変化後はどのような立ち振る舞いが求められるのかを検討していくよ。
「変化」に適応できないと、「前は良かった」「今はダメ」と、「今」に希望を持てなくなってしまうんだ。希望が持てないと、昔に戻ることばかりを考えて、今できることがあってもそこに頭が回らなくなってしまうよね。だからこそ、希望が持てないことに共感を示しつつも、一方では冷静に「今何が必要か」を検討していく必要があるんだ。
変化後に適応できない背景には、「新たな対人スキルの不足」があるよ。「地方から都会に転校してきた場合」をモデルケースに考えてみよう。
地方から出てきた人は言葉に訛りがあることもあるよね。その場合、都会の人からしたら訛りは珍しいから面白がられてしまうかもしれない。面白がっている方は悪気はなくても、知らない土地に来た地方の人にとってはあまり愉快ではないかもしれないね。
地方の人がこのストレスに対応するには「新たな対人スキル」が必要になるかもしれないね。当然ながら「標準語をしゃべれるように」では、必ずしもないよ。
もっと必要なスキルは「訛りは急には治らないので大目に見てくれると嬉しい」と微笑しながらサラッとお願いするスキルかもしれないんだ。こうやって言えば「もちろん」と思ってもらいやすいよね。
一人くらいはそれでも訛りを面白がってからかう人もいるかもしれないけど、それはその人の問題だよ。
終結期
終結期は今までのセッションの振り返りと将来への備えを行う時期だよ。おおよそ2~3回のセッションを行うんだ。
振り返りでは①よくなったこと、②よくなったかわからないけど変わったこと、③今後の不安の3つが中心的なテーマになるよ。
対人関係療法が終わるとき、「カウンセリングが終わってしまう」「1人でやっていけるのか」との不安を感じている人は結構多いんだ。けど、①と②のテーマを話し合うことで、「こんなに出来るようになったことがある」ことに気づき、かつそれらすべて「自分の力で重要な他者とコミュニケーションをとったから」と思い出せるので将来への不安はかなり和らいでいくよ。
よく見られる対人関係療法に対する誤解
対人関係療法がまだまだ知れ渡っていない心理療法であることもあって、誤解されている面も結構あるんだ。どんな誤解があるのか、そしてどこが誤解なのかをみていこう。
対人関係が原因で病気になると考える心理療法でしょ?
「対人関係療法は対人関係が病気の原因と考える心理療法」と考えられることもあるよ。けどこれは誤解なんだ。
対人関係療法は「病気の背景には様々な要因が潜んでいる」と考える多元モデルを採用していて、病気の原因について何の仮説も立てていないよ。つまり、「対人関係が原因」とすら考えていないということだね。
でも「対人関係療法」って名前のせいなのか、「対人関係が原因で病気になった人が受ける心理療法」との誤解をされることも多いみたい。
対人関係療法はあくまでも「対人関係を扱う心理療法」であって、「対人関係が病気の原因と考える心理療法」ではないので注意してね。
ちなみに、発達障害のために対人関係が上手くいかず、それが原因で二次的にうつ病などの精神障害になった人が「発達障害を治したいから対人関係療法を受けたい」と希望する人も少なからずいるみたい。
でも、発達障害は対人関係療法で「治せる」タイプの病ではないので「発達障害を治したいから」との理由にはお応えできないんだ。また、程度問題ではあるけれど、発達障害に伴う二次要害が対人関係療法で治せるタイプの病(例えばうつ病)であったとしても、発達障害の特性上「重要な他者」との情緒的な交流が難しい場合も多いから、対人関係療法でアプローチしていくのが適切ではないこともあるよ。
始めから対人関係に注目して作られた心理療法でしょ?
「対人関係療法は対人関係をよくしていくためのアプローチとして作られた心理療法」と考えられることもあるんだ。けどこれも誤解だよ。
対人関係療法が作られた当時、心理療法のマニュアルがきちんと体系化されていなかったんだ。言わば各臨床家が「俺の考える最強の心理療法」を実施していたんだね。
マニュアルが体系化されていないことを危惧したクラーマンたちは「常識的な臨床家がうつ病患者に行っている心理療法をマニュアルに落とし込もう」と考えたんだ。つまり「新しい心理療法を作ろう」と想定されていたわけではなく、治療の有効成分をまとめ上げる趣旨で研究が行われたのが、対人関係療法が作られるきっかけだった、ということだね。
その結果、「常識的な臨床家は、うつ病を引き起こした対人関係ストレスへの現実的な対応を検討している人が多い」ことが分かったんだ。なのでそこから「精神医学は対人関係論である」と主張している精神科医のサリヴァンの考えなどを取り入れていくようになったんだよ。
ちなみに、サリヴァンはアドラーからかなり影響を受けているので、対人関係療法の考えはアドラー心理学の考えとかなり近いんだ。アドラーは「人間の悩みはすべて対人関係の悩み」と言っていたくらいだよ。
アドラー心理学について詳しく知りたい方は、下記の2つの記事にも目を通してくれたら嬉しいな。
対人関係療法が得意とする症状
ここまで読んで「自分も対人関係療法を受けてみたい」と思った方もいるかもしれないね。自分の抱えている症状が対人関係療法の得意とするものなのかみていこう。
結論から言うと、以下の症状は対人関係療法が得意とする障害だよ。
【得意】
うつ病、過食症、PTSD(C-PTSD含む)など
一方、積極的に用いられないのは以下の症状なんだ。
【非対応】
統合失調症、強迫症、発達障害など
【苦手】
発達障害の二次障害や拒食症
うつ病【得意】
もともとは「常識的な臨床家がうつ病患者に行っている心理療法はどんな心理療法だろう」を考えて研究したところから対人関係療法の歴史はスタートしているよ。この歴史的経緯から考えても、対人関係療法はうつ病に対して非常に高い効果があるんだ。
うつ病に対する心理療法には認知行動療法が有名だけど、対人関係療法も同じくらい効果があるんだよ。
過食症【得意】
「効果があとからじわじわ出てくる」でも伝えた通り、対人関係療法は過食症にも効果があり、その効果は長期的にみれば認知行動療法を凌ぐんだ。
対人関係療法では認知行動療法とは異なり、毎日体重を測ったり、食べるのを我慢させたりといった方法をとらないよ。だから体重や体型について強い恐怖心があったり、過食症状が強かったりする人でも比較的取り組みやすいと言われているんだ。
PTSD【得意】
ソーシャルサポートの有無がPTSDになるかならないかの一番大きな分かれ道であることから分かる通り、ソーシャルサポート(自分を助けてくれる存在)との関わりを重視する対人関係療法はPTSDへの心理療法として効果が高いよ。
慢性的な対人関係問題が要因となって発症することの多いC-PTSDにも、対人関係療法は効果的なんだ。
統合失調症・強迫症【非対応】
対人関係療法が適応とならない病に統合失調症や強迫症(強迫性障害)があるよ。
これらの障害は特に対人関係が障害の発症や維持に大きく関与していないし、他の治療法の有効性の方が圧倒的に高いからだよ。統合失調症であれば薬物療法が中心になるし、強迫症であれば強迫行為をせずに不安にさらされ続ける曝露療法が中心になるんだ。
発達障害【非対応・苦手】
「よく見られる対人関係療法に対する誤解」のところでちらっと説明したように、対人関係療法では発達障害は非対応だよ。発達障害は脳の特異性によるものなので対人関係療法で「治せる」タイプの病ではないからだね。
発達障害に伴う二次要害(例えばうつ病)に関しては、発達障害の特性上「重要な他者」との情緒的な交流が難しい場合、対人関係療法でのアプローチは適切ではないこともあるよ。
拒食症【苦手】
あまりにも低体重になっている拒食症の場合は、対人関係療法の適応から外れることが多いよ。BMIが16を切る水準(おおよそ160㎝で40㎏以下)の場合が該当するね。
どうしてこのレベルの低体重の方には対人関係療法が適応とならないかと言うと、「命の危険があるから」「入院等の処置を先に検討する必要があるから」となるね。あまりにも食べ物を摂らないまま過ごすと脳に栄養が向かわなくなるので、自分の気持ちや相手の気持ちを考えるだけのエネルギーも無くなっていることも一因だよ。
また、拒食症の患者さんの20%以上は発達障害を併存していることも対人関係療法が適応とならない可能性が高い理由なんだ4。「拒食症」はいわば「頑なに痩せ続けている状態」だよね。これだけ強固に「痩せ」にこだわり続けられる背景に、発達障害の特性が関係していてもまったく不思議ではないよ。
心理療法まとめ
今回の記事では、まだあまり知られていないけどとても効果のある対人関係療法のことをまとめたよ。
対人関係療法についてまとめると下記の通り
①精神的な病の発症と維持には対人関係上の問題が何らかの方で影響していると考える。
②症状はコントロールできないが、対人関係はコントロールできるので、対人関係にアプローチする。
③対人関係上の問題は「悲哀」「不和」「変化」「欠如」に分けられ、治療の進め方が変わってくる。
④精神障害の種類によっては認知行動療法よりも対人関係療法の方が効果が高い。
この記事を通じて、「対人関係療法を初めて知った」「もっと詳しく知りたい」と思ってくれる人が人が1人でもいてくれたら嬉しいな。
対人関係療法は専門的な技法なので、もっとちゃんと知りたいと思った方は日本の対人関係療法の第一人者である水島先生の講演を聞きに行くか、著書を一度読んでみてね。