「上司が喜ぶように〇〇しておこう!」と仕事をしたら、『そんなこと求めてないよ』と言われる。
「△△したら、お母さん嬉しいだろうな」と気遣いをしたら、『よけいなことしないで』と言われた。
そんな経験のなかで「前と言ってること違うじゃん!」と思うこともあるよね。この矛盾や板挟みにはダブルバインドという状況が影響しているかもしれないんだ。今回はダブルバインドを心理学的側面から紹介するよ。
目次
ダブルバインドとは?
ダブルバインドとは、1950年代に精神病理学者のグレゴリー・ベイトソンが発表した概念だよ。二重の意見に挟まれるという意味で、矛盾した複数のメッセージの間で板挟みになってしまうことを指すんだ。
「矛盾したメッセージ」は言葉だけではなくて、行動や仕草などの非言語的なメッセージも含まれるよ。例えば、「暴力を振るわれたあとに抱きしめられる」「『大事にしているよ』と言われるのにボディータッチは避けられる」など、「言ってることとやってることが違う」場面もダブルバインド状況の一つなんだ。
親密な関係の中で、このような矛盾した言動が繰り返されると、心の病気に繋がる可能性もあるといわれているよ。親子関係・上司と部下など、パワーバランスがはっきりとした関係でダブルバインドは起こりやすいんだ。
ダブルバインドの具体例(親子)
ダブルバインドの状況が起きやすいのは、親が子どもに禁止や許可の指示を与えるときや、日常でメッセージを伝えるときだよ。
ダブルバインドは、嘘をついたり矛盾しているつもりはないのについ起こってしまうもの。ここでは、親子関係で起こりやすいダブルバインドの例をみてみよう。
親子の例①
「怒らないから正直に言いなさい」
↓
正直に言うと…
↓
「なんでそんなことしたの!」と怒る。
子どもは「正直に言ったら怒らないと言ったから打ち明けたのに…」と思うよね。だけどそう伝えると、「あなたのためを思って叱ってるんでしょ?」と言われてしまうんだ。
「怒らないから~して」というのは、つい言いがちだけど、結局怒ってしまうと子どもを油断させるための罠になってしまうよね。「さっき言っていたことと違う!」という状況が繰り返されると、子どもは言われた言葉を信じにくくなったり、隠し事をしたりするようになるよ。
親子の例②
「あなたはあなたのままで大丈夫。自慢の子どもだからね」と本人に優しく言う
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「近所の〇〇ちゃんはもう△ができるんだって」、「お姉ちゃんは賢いのに…」と裏で比較する。
子どもに「そのままでいいよ」と言葉で伝えていたとしても、何気ない会話の中で誰かと比較されたり、陰で言われていることを知ったら、「あの言葉はなんなの?」と感じてしまうよね。
直接言われた言葉と裏で言われた言葉、どちらを信じたらいいのかわからなくなってしまい、疑心暗鬼になりやすくなってしまうよ。
親子の例③
子どもがお手伝いをして、お母さんが「ありがとう、助かった」と言う
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顔は曇っていたり、ため息をつく。
これは「言っていることと、やっていることが違う」という言動の矛盾の一つだね。お母さんの笑顔が見れると思ってやったのに、嬉しそうじゃないし、その理由もわからなかったらもやもやするよね。お母さんが感じている”余分なことして仕事増やさないで”という気持ちが伝わってしまってるかもしれないよ。
言葉と仕草や表情、どちらを信じたらいいのかわからなくなり、人の顔色をうかがったり気持ちを深読みしやすくなったりしてしまうんだ。
ダブルバインドの具体例(ビジネス)
職場でやり取りをする中にも、ダブルバインドは潜んでいるんだ。苦手な上司に対して感じるイライラは、もしかしたら上司から伝えられる矛盾したメッセージのせいかもしれないよ。ビジネスシーンでの例を紹介していくね。
上司と部下の例1
「報告・連絡・相談、ほうれんそうを大切にしてね」
↓
わからないことを相談すると…
↓
「そんなこともわからないのか。自分で考えてみろ」
上司からみると、「考えたらわかること」なのかもしれないけど、部下にとっては難しいこと、経験していないことだってあるよね。
「なんでも聞いていいって言ったくせに」という不満を持ち、相談しても怒られる・相談しなくても怒られるというダブルバインドに挟まれてしまうよ。
上司と部下の例2
「お客様が一番大切!」
↓
「低予算で効率よく進めなさい」
従っていくべき理念や理想と、実際に行っている業務の間で矛盾があるよね。自分が賛同してきた会社の考えと、現場での方針が違うと、組織への不信感にも繋がってしまうんだ。お客様、クライエントへの申し訳なさや罪悪感など、負の感情を背負わされることもあるよね。
上司の指示か実際の業務体系か、どちらに従えばいいかわからず板挟み状態に陥ってしまうんだ。
上司と部下の例3
「積極的な発言をしよう!」「なんでも言い合える職場にしよう!」
↓
実際に意見を言ってみると
↓
「ああ…一応受け取っておくよ。」
勇気を出して意見を言ってみると、上司はいまいちな反応。「よけいなこと言わなければよかったな」、「年下がでしゃばったと思われたかな」と、心配になってしまうよね。上司の言葉を受け取って行動したのに、空気が読めないなんて思われたら、自信がなくなってしまうのは当然。
言葉を素直に文字通り受け取っていいのか、背景に隠されている意味を汲み取らなければいけないのか、本音と建て前を考えることに疲れてきちゃうよね。
ダブルバインドの悪影響
長期間ダブルバインドの状況に置かれると、自分への賛辞はすべてお世辞だと思ってしまうなど、人の言葉を信じられなくなったり、裏の意味を考えることが辛くなってコミュニケーション自体が嫌になったりしまうことがあるんだ。相手の顔色をうかがいすぎると、自分の感情や本音を抑えるようになったり、”どうせ否定されるから…”と自信を失くしてしまうよね。
相手の言葉を信じるのか、それとも自分が推測した相手の本心に応えるのか、いつも考えながら行動するのはとても疲れるし、強いストレスになるんだ。
ダブルバインドへの対処法
指示が二転三転する状況や、発言と行動が異なる人に対して、どんな対応や考え方をすれば楽になるんだろう?
相手や環境が変わってくれればいいのに…と思うことも多いよね。相手を変えるのは難しいけど、自分の受け止め方や行動なら変えられるんだ。ここでは、困った状況に置かれたとき、自分でできる対処について考えていくね。
メッセージに含まれた矛盾に気づく
「なんで私はこの人のこと苦手に感じてるんだろう…」「なんだかわからないけどイライラする!」と感じたときは理由を探ってみて。もやもやの背景に、「過去と今で言っていることが違う」「発言と行動が不一致」「本心じゃないことを言われている」などの矛盾が隠れているかもしれないよ。
まずはどんな矛盾(ダブルバインド)に振り回されているか理解することが大切。自分が悪いのではなく、ダブルバインドのせいなんだと気づくことが必要なんだね。
受け取ったメッセージの捉え方の幅を広げる
認知行動療法という心理学の考えを使って、ストレスを軽くする方法があるよ。まずは、「できごと」「認知」「感情」の枠組みで分けて考えてみてね。そして、「認知」の選択肢を増やしてみるんだ。
具体的には、下のような流れ。
■できごと:「報・連・相を大事にしてって言っていたのに、実際に聞いたら自分で考えろと言われた」
■認知:「自分で考えられなかった自分が悪い」
■感情:「悲しい・イライラ」
捉え方、つまり認知の選択肢を増やして、「そのとき上司は忙しくてイライラしていたのかも・上司に聞く前に同僚に聞いてみてもよかったかも・あの上司は前に言ったことを忘れやすいのかも…」となるべく多くの可能性を見つけてみるんだ。
認知が柔軟になるとそれに伴って感情も落ち着いてくるという効果があるよ。紙に書き出したり、携帯のメモを使って試してみてね。
第三者の意見を聞く
相談したところで解決しないし…と諦めかけている人もいるかもしれないね。でも、一人でぐるぐる考えてしまうのをストップさせるためには、周りの力を借りることが一番の近道になるんだ。
誰かの意見を聞くときは、不満や愚痴というよりも、「なんで〇〇さんは、以前と言い分を変えたんだろう」と一緒に考えるスタンスが重要だよ。自分が思い込んでいた答え以外の選択肢が聞けるかもしれないし、矛盾と思い込んでいた二つの事柄を繋げる理由が見つかるかもしれないよ。
専門家への敷居が高い場合は、職場にいる産業カウンセラーやSNS相談に頼ってみてね。
ダブルバインドのメッセージにならないための方法
悪気がなくても、知らず知らずのうちに自分がダブルバインドの対応をしてしまうことがあるんだ。ここではダブルバインドを避けながら、相手に気持ちや考えをしっかりと伝える方法を紹介していくよ。
自分の気持ちや考えを把握しておく
自分の本音は、なんとなく相手に伝わってしまうもの。建て前や雰囲気を大事にするべき場面もあるけど、本当はどう感じているのか、自分は何を求めていたか、はっきり伝えたほうがいい場面も多いよ。自分の発言を一貫させるためには、軸を持っておくことも大切だね。
部下や子どもに伝えたい大事な考えや意図があるときは、メッセージを送る前に心の中で確認しておく必要があるよ。自分の軸については「なりたい自分になる」記事を参考にしてみてね。
状況や気持ちをしっかりと説明する
「(今忙しいんだから)自分で考えて!」
「(お客様は第一優先だけど)コストはできるだけ押さえていこう」
こう伝えても、カッコの中の気持ちは相手には伝わってないよね。
わかってくれているはず・汲み取ってほしいと思っていても、言われないとわからないことも多いんだ。自分では一貫したメッセージを伝えてるつもりでも、相手にとっては矛盾していると捉えられてしまうこともあるよ。「~だから」「~だけど」を省略せずに、しっかり伝えよう。
アイメッセージを使う
アイメッセージとは、主語をYOU(ユー)からI(アイ)に変える方法のこと。相手を傷つけてしまいそうなことや、言いづらい指摘はアイメッセージを使用することで、嫌な印象になるのを避けられるんだ。
例えば、親から子どもへの「(あなたは)なんでそんなことしたの?(あなたは)悪い子ね!」というYOUメッセージを「(私は)危ないからやめてほしいと思ってる。(私が)心配だから」というIメッセージに変えたら、受け入れやすくなるんだ。言われた子どもも、「そっか、お母さんは~と思ってるんだ」と受け取って、矛盾したメッセージとは感じにくくなるよ。
ダブルバインド分析は自己分析でもある
相手の状況や気分は目に見えないから、世の中矛盾だらけと感じたり、自分では一貫していると思っていても受け取り方によっては矛盾と捉えられたり…コミュニケーションってなかなか難しいよね。
できるところから少しずつ、自分の辛い状況を振り返ってみたり、上手くいかないコミュニケーションを見直してみたりするために、ダブルバインドのかわし方や、脱出方法を使ってみてね。