「人の話を聞いていると、まるで自分のことのように感じて疲れる」
「周囲の人が決めたルールや価値観に、不満を感じるけど逆らえない」
「自分勝手に思われるのが怖くて、意見を表明できない」
そんな悩みを持っている人はいるかな。
その悩みは「自他境界(バウンダリー)」というキーワードを知ると理解しやすくなるかもしれないね。
自他境界とは「自分と他人の境界線」のことだよ。自他境界が揺らいでいると、人間関係のトラブルが起きやすいんだ。
今回は自他境界について心理学的な背景を踏まえて解説していくね。
目次
自他境界(バウンダリー)とは?
まずは自他境界(バウンダリー)の意味や役割について、簡単にまとめていくね。
自分と他人は違う存在だと区別する境界線
バウンダリーは英語ではboundaryと書き、境界や限界、限度といった意味を持つ言葉だよ。
バウンダリーは心理学ではもう少し狭い意味で「自分と他人は違う存在だと区別する境界線」のことを指すんだ。「自我境界」「自他境界」など学派によって言葉に違いはあるものの、ほとんど同じような意味で使われているよ。
人は子どものうちは肉体的にも心理的にも養育者との距離が近く、曖昧な自他境界の中で過ごすことが多いんだ。だけど身体や自我が成長してくると、自分と相手は違う存在であるという認識が生まれ、自他境界がはっきりしてくると言われているよ。
心理学の歴史の中で、心の「境界」については、たくさんの学者が研究を進めてきたんだ。
・「私は私のために生き、あなたはあなたのために生きる」など「私」の重要さを語ったフレデリック・パールズの「ゲシュタルト療法」
・家族療法を体系化したボーエンの「自己分化」
・境界性パーソナリティ障害の治療の第一人者、マスターソンの「見捨てられ不安」
上にまとめたような数々の心理学概念は異なる背景や理論を持つ一方、共通して「自分と他者の境界をはっきり持つこと」が心の健康や成長のために重要だとしているよ。
自他境界(バウンダリー)の役割
はっきりとした自他境界が機能していると「自分は自分、相手は相手」「自分は何に対して責任を負う必要があるのか、何に対しては責任を負う必要がないのか」がわかりやすくなり、「自分のことは自分で決める」と自分の気持ちや行動を主体的にコントロールできるようになるんだ。
また、自分の境界線を持っていることは、他人の責任の範囲や行動を「その人の考え、その人の行動」と認識して、尊重する気持ちにも繋がっていくよ。
「共感性が高い」のは自他境界の曖昧な人?
共感性が高いのは優しい人の特徴だと言われることが多いよね。だけど共感性の高さは自他境界の曖昧さと関連する部分が多いんだ。
共感性は「本来自分のものではない感情体験を、自分のことのように体験する性質」だよ。つまり共感性が高いということは「自他境界が曖昧で、相手と自分を切り分けられず、感情的に反応してしまう」ことだとも言えるね。
アメリカの心理学者ポール・ブルーム氏は著書「反共感論」の中で「共感に基づく判断は、むしろ危険で、社会の中で様々な問題を悪化させている」と述べているんだ。「共感性が高い」というのは「他人の行動や言動に対して感情的に反応しやすい」側面も持つために、理性的な判断をするべき状況では邪魔になってしまうこともあるんだね。
自他境界(バウンダリー)が揺らぐ要因
養育者との関係
養育者からの過干渉やDV、ネグレクトなどを受けた経験があると、自他境界が曖昧になりやすいと言われているよ。
たとえば養育者に「あなたが怒らせるようなことをするから」と言われたり「養育者の機嫌と自分の言動という、直接は関係ないものが関連しているように扱われる」経験が続くと、子どもは自分と養育者の境界線を曖昧に感じるようになってしまうんだ。
とくに近年の親子関係は、核家族化の影響などにより少人数の閉じた環境であることが多く、他の人間関係のモデルケースを学びにくいこともあり、なおさら「他人(養育者)の不快感の原因は自分にある」と思ってしまいやすいんだよ。
この場合は養育者も自他境界が曖昧で、自分の感情の責任を子に押し付けてしまっている状態だと言えるね。
発達的な特性
ASD(自閉スペクトラム症)など発達的な特性を持った人は、統合された自己イメージを持ちにくく、自他境界が曖昧になりやすい傾向があるよ。
佐藤・櫻井氏(2010)の、当事者による自伝を分析した研究によれば、ASD当事者は外部刺激からの侵入されやすさなど「境界の弱さ」や変化の中で一貫した人格を保ちにくいといった「統合の弱さ」があると指摘されているんだ。
周囲の刺激からの影響を受けやすいなど器質的な特徴が「私」と「それ以外」の境界線を引きにくくしてしまう要因になっているのかもしれないね。
ストレスフルな環境
自他境界が曖昧になってしまう要因としては他にも、いじめや一方的な叱責など、ストレスフルな経験が挙げられるよ。
「相手の思う通りにしていないと怒られる」状態が続くと、自分で考えることが億劫になってしまったり不必要な罪悪感を抱え、一方的に他人の要求に応じるようになってしまうことがあるんだ。
他にも、不幸の原因を「自己責任だ」などと自分個人の問題として押し付けられ「だから自分で解決しろ」と言われるような状況も、自他境界が曖昧になってしまうストレスフルな環境だと言えるね。
はっきりした自他境界(バウンダリー)を作るには
上でも触れてきたように、自他境界が曖昧になってしまう要因には様々なものがあり、曖昧な状態が続くと他者から侵襲されやすく、さらに自他境界が薄れていってしまうという特徴があるよ。
最後に、曖昧な自他境界をはっきりさせていくための方法をいくつかまとめてみたから、参考にしてみてね。
快・不快を基準にしてみる
自他境界が曖昧な状態では「人の言うことに盲目的に従ってしまう」「判断基準を人に委ねてしまう」ことが多いんだ。そんなときは一度、快・不快の単純な基準に戻ってみるのがおすすめだよ。「自分にとって心地良いもの」を、他人の視線を気にせず探してみよう。
最初は、食べ物や飲み物のほか、音楽や運動、お風呂やアロマなど五感で感じるものから取り組むと、快・不快の基準がはっきりわかりやすいからおすすめだよ。
「自分はどんなものが好きだったんだっけ」と思い出してあげることで、自分と他人の境界線を認識するきっかけになるし、ストレス解消にもなるんだ。
余裕があるときは「ジャーナリング」の技法を使って「自分を気持ちよくしてくれるもの」をノートやスマホメモに書き記してみよう。
少しずつ書き溜めていくと、メンタルがまいったときや自他境界が揺らいでいるときに自分を取り戻すための、自分専用の対策帳ができてくるよ。
侵害を続ける相手とは距離を置く
自分が自分でいられないような感覚を覚えたときは「パートナーだから」「家族だから」と飲み込まず、一度距離を置くことを考えたほうがいいかもしれないね。
自他境界を侵害して、ルールや規範を押し付けてくるのは悪人ばかりではないよ。むしろ自他境界の侵害は「パートナーならこうするべき」「家族なんだから当たり前」「あなたのためを思って」などの言葉を借りて、親しい関係の中で多く起こってくるんだ。
どんなに親密な人でも「一番近いだけの他人」と意識すると、自分を守るだけでなく、相手を尊重する助けにもなるよ。
先回りして考えすぎない
「こんなことを言って嫌われないか」「失礼なんじゃないか」など、相手の顔色を窺って先回りした考えにとらわれてしまう自分に気づいたら、意識的に考えを脇に置いてみよう。
ほとんどの場合、相手を不快にさせてしまったとしても誠実な謝罪があれば許されるものだよ。「相手に嫌な思いをさせたくない」と予測しようのない未来を先回りして考えるのは、負担にリターンが見合っていないかもしれないね。
日頃から先回りして考える癖がついていると消耗が激しく、そのわりに問題を避けられるわけでもないんだ。
「困ったことが起きた後に対処できるだけの余力を残しておこう」とエネルギーを取っておくことに意識を向けてあげるのがおすすめだよ。
アイ(私)メッセージを使う
「アイ(私)メッセージ」とは「私はこう思った」のように「私」を主語にして、自分の感情や意見を相手に伝える技法だよ。アイ・メッセージはアメリカの心理学者トマス・ゴードン氏が「親としての役割を効果的に果たすための訓練」として提唱したのが元になっているんだ。
アイ・メッセージは親子関係だけでなく、あらゆる対人関係に効果的に働くよ。
「あなたは◯◯してくれない」のように「あなた」を主語にするのはユー・メッセージとも呼ばれ、言われた人は責められているように感じやすいんだ。それに対し「わたしは◯◯してくれるとうれしい」と「私」を主語にすると、不満のニュアンスが薄れて、受け取りやすい言葉になるよ。
さらにアイ・メッセージを使うことは「私」に意識を向けることでもあるから、他人と自分の間の境界線を認識するきっかけにもなってくれるんだ。
アイ・メッセージの技法は、本来の自分の活動性を取り戻すための方法でもある「アサーション」との関連も深いよ。ココロジーではアサーションについても詳しくまとめているよ。
アサーションについて知ると自分の意見を上手に表明できるようになるだけでなく、自分の感情や考えを整理し、はっきりした自他境界を作る助けにもなってくれるから、参考にしてみてね。
自他境界の作り方まとめ
自他境界(バウンダリー)をうまく引いて、他人に侵害されない「私」を持つコツは下の3つだよ。
①自分の感じる快・不快を基準に考える
②侵害を続ける相手とは距離を置く
③先回りして考えすぎない
国に国境があるように、人の間にも境界線があるんだ。自他境界は目には見えないぶん、踏み越えられやすく、また自分も踏み越えてしまいやすいものだから、日頃から意識して境界線を作っておくことが大切だよ。心地よい関係はお互いの境界線を認識し、尊重することから始まるんだ。