「あとから考えたらイライラしてきた」
「その場で怒れないのが悔しい!」
イヤなことを言われても、その場では周りに合わせて笑ってたけど、よく考えたら腹が立ってきた経験ってあるんじゃないかな。「思い出し怒り」と言われたりもするよね。
でも、その場で笑っているだけで怒れないのは、決して自分の心が弱いからじゃないよ。
今回はすぐに怒れない理由や、「怒りの感情」のメカニズムを一緒に見ていこう。
記事を読めば、自分が怒れない原因や怒りの処理方法のヒントにも出会えるはずだよ。
目次
あとから怒りがわいてくる理由
あとから怒りがわいてくるのは、色々な理由によって怒りという感情にフタがされてしまい、すぐに自分では気づけないからなんだ。複数の研究が日本人は「怒り」だけでなく「悲しみ」や「不安」という感情も抑制することが多いと指摘しているんだよ。
感情にフタしてしまう理由を一つずつ見ていこう。
共感力が高い
「この人がこんなことを言うのは何か理由があるからに違いない」
「相手の気持ちを理解しなくちゃ」
自分のことを悪く言われてたとえ嫌な気分になっても、相手の気持ちや状況を理解しようとする姿勢が優先されて、自分の感情にフタをしているのかもしれないよ。
共感力が高かったり「優しい人」と言われるのが多いタイプだね。人の気持ちが想像できる分、色々な重荷を背負ってしまうこともあるかもしれないね。
感情表現への苦手意識
怒りだけでなく、不安や悲しみなどネガティブな感情を出すことに苦手意識があることも理由のひとつだよ。過去に強い怒りを向けられたときの恐怖体験が影響して、自分ではない第三者に怒りが向けられているときにも緊張してしまう場合もあるんだ。
ロングアイランド大学の研究では、女性は怒りを感じる場面が男性より多いにもかかわらず、自分の中に怒りをとどめやすいことを指摘しているんだよ。
怒ったあとのことを想像できる
自分が怒ったあとのことを先回りして予想することで、意識的にも無意識的にも感情を出さないようにしている場合があるよ。
筑波大学が行った中学生を対象にした怒りの表出と抑制の研究では、男子が怒りを我慢する要因は「怒ったあとの損得勘定」をし、女子は「怒るのは人として良くない」と認識しているのがわかったんだ。
怒ったあとは相手との関係がギクシャクすること、歩み寄るには怒ることと同じくらいエネルギーが必要なこと、怒ることで自分にも責任が生じることなどを経験的に予測し「だったら何も言わないし怒らない方が得策だ」と判断しているんだね。
調和と空気を読む日本文化の影響
怒りを我慢するのはその人の内面的な理由だけじゃなくて、社会的な風習や文化も影響しているよ。
日本の「和」を重んじる態度は、個人より集団が優先される考えだけど、怒ることはその場の雰囲気を壊すことに繋がると判断され、「個人的な怒りは抑えるべきだ」という考えと結びついているんだ。
一方、日本人は怒りの表出が抑制されているにもかかわらず、相手が怒っていると察知するのが多いことも指摘されているんだよ。文化人類学者のホール氏は、日本人が多くの怒りを察知している理由を、怒りなどの感情を言葉ではなく表情や態度など文脈的なものから得ているのが多いことと、言葉の背後にある気持ちを察するコミュニケーション方法が影響していると説明しているんだ。
いつもより無口だったり表情が怖いときに「あの人怒ってるかも」と思ってたら、実は体調が良くないだけだった、みたいなこともあるかもね。
上下関係の存在による混乱
学校や職場での上下関係も、感情を抑えてしまうことに影響しているよ。
名古屋大学の研究は、日本社会は先輩・後輩という縦の関係性が重視されていて、相手との地位関係によって行動を変化させなければいけない風習が、怒りを押さえつけてしまうことに繋がると指摘しているんだ。
日本には先輩・後輩だけでなく、年功序列という年齢と役職による縦の関係もあるから、余計にストレートに思ったことを口にしにくい文化なのかもしれないね。欧米などは先輩・後輩という概念もあまりなく、歳や役職が上の人に対しても敬語を使う文化がないから、確かに物言いがはっきりしていると感じる人もいるんじゃないかな。
怒りを抑えるメリット
怒りを抑制する理由のひとつに「怒ったあとの損得」を検討することがあると言ったけど、確かに怒ってばかりの人はトラブルを起こしやすく人からも嫌われやすいよね。
まずは怒ることを我慢するメリットを見ていこう。
壊れにくい対人関係
カウンセリングを受ける欧米人の多くは、怒りによる不安定な人間関係に悩んでいる一方、日本人の悩みの多くは人間関係の中で感情を出せないことに起因していると言われるよ。
怒りを抑えられる人は自分の感情を周囲にぶつけることもないし、何より自分の感情より周りの調和を優先できる性格だから、安定した人間関係を築けることが多いんだ。
欧米の人からしたら、うらやましい悩みと思われるかもしれないね。
人に安心感を与えられる
感情を抑制できる人は、周りから「一緒にいるとホッとする」と言われることも多いんじゃないかな。
人が成長したり自分を見つめたりするためには、自分の心理的安全性が重要になるから、自分の感情を抑えられる人は周りから信頼されることも多いんだ。
人の話を聞けるリーダーはボトムアップ型の組織づくりに欠かせないし、職場の健全で能動的なカルチャーをつくるのにも役立つんだよ。
怒りを抑えるデメリット
感情のコントロールと人間関係には相関性があるけど、怒りを抑制しつづけることは個人の心や身体の健康にネガティブな影響を及ぼす可能性があるよ。
怒りの増幅
怒りを我慢することは、その怒りを胸の中でさらに強めてしまう可能性があるよ。
兵庫教育大学と京都女子大学の共同研究では、怒りを抑制しやすい人は怒りを自分の中で溜め込んでもそれが解消されることは少なく、むしろ蓄積された分表出されたときの攻撃性が強くなることを指摘しているんだ。
怒りを蓄積することで、意識的にも無意識的にも怒りを感じた場面や気持ちが反すうされるから、本来感じたものより大きな怒りが表面化されたり、怒りが増強されるサイクルが心の中でずっと繰り返してまうんだね。
他のネガティブな感情への転移
たくさんの怒りが溜め込まれると、「隠された敵意」として対人関係に悪影響が出てしまう場合があるよ。
社会学者の加藤諦三氏によれば、蓄積された怒りは外界を敵視することにつながり、その敵意を表す行為として惨めさを誇示したり、必要以上に忙しく働いたり、怒りではなく辛さを延々と訴えたり、自己蔑視や身体的な疼痛へも至ることがあるとされているんだ。
怪我した右足をひきづって歩いていたら左足も痛くなった、みたいな感じだね。
心臓血管への負担
怒りの抑制は心臓や血管に対して悪影響を及ぼす可能性が指摘されているよ。
心理学者のL・ダイアモンド氏は、敵意や怒りが狭心症および心筋梗塞に与える影響を研究する中で、怒りの抑制が血圧を高めることを示唆したんだ。
真っ赤な顔して怒っているお父さんに「そんなに怒ると血圧上がりますよ」とお母さんが諭すシーンを見たりするけど、平気な顔で怒りを抑制していても血圧は上がっているのかもしれないね。
そもそも怒りってなんだろう
少し肩がぶつかっただけで怒る人は嫌われるのに、理不尽なことに怒りの声を上げる人が賞賛されるのはなんでだろう?
仏教では怒りは「捨てるもの」と説かれ、ギリシア哲学のストア学派は「抗うもの」とされ、あるところでは怒りは世の中を変えるエネルギーになるとも言われるように、怒りは色々な意味に解釈される傾向があるんだ。
歴史学者のバーバラ・ローゼンワイン氏は、怒りは「さまざまな感情共同体の中のひとつ」と定義し、純粋な怒りはなく、悲しみや憤りなどいくつかの感情が合わさり攻撃的な形で表れたものをすべて「怒り」と括ることが、怒りに対する混乱を生んでいると言っているよ。
たとえば、恋人の浮気が発覚したときの怒りは、裏切られたことによる「悲しみ」、これからどうしたら良いかという「困惑」、さらにはどうやって周りの人に説明したらよいかという「恥ずかしさ」のような複数の感情で構成されているということなんだ。
その中でもっとも大きい感情が表面化され、一番大きいものが「怒り」であれば怒った口調で詰め寄り、「悲しみ」が大きければ泣くなどして相手に表すことになるんだよね。
ここで重要なのは、詰め寄ったら恋人に「怒らないで」と言われ、泣いていたら「悲しい思いをさせてごめん」と言われるように、表面化した行動によってその時の感情がひとつに定義されてしまうということなんだ。
それによって、当時の大事な感情が自分の中から抜け落ちてしまい、自分が本当に苦悩していることにフタをしてしまうことにもなりかねないんだ。
「怒る」という感情の背後にある他の感情にも向き合うことが大切で、心理カウンセリングでもこのこぼれ落ちてしまった感情を見つけていくことが、大事な作業のひとつになるんだよ。
怒りにすぐ気づける方法
怒りに気づくためには、こぼれ落ちてしまった自分の感情を知ることが役に立つよ。
たとえば、怒れない理由が「いい人でいたい」場合は嫌われることへの「恐怖」が、自分に自信がなかったり間違えたくない人は「恥ずかしい」などの感情が隠されている可能性があるんだ。
自分の隠された感情を知るにはメタ認知を活用するのがおすすめだよ。メタ認知は「自分が認知していることを認知する」ことを指すんだけど、簡単に言うと自分の心の状態を客観的に知り、それを使いこなすことなんだ。
その時には自分が怒っていることに気づかなくても、あとから怒りがわいてきたときに「振り返り」をし「言語化」することが、怒りの処理だけでなくメタ認知トレーニングにもなるよ。
メタ認知はこっちのページで詳しく書いてあるから、参考にしてね。
次の章では簡単なワークもあるよ!
長引くイライラを断ち切る3つのステップ
他の人のイライラのあとの行動も参考にしてみよう。下図のアンケートでは、50%以上の人が他の人に話すことで解消しているみたい。人に話すことで頭のなかの怒りもいっしょに吐き出しているのかもね。
でも一方で、半数の人は何もできずモヤモヤした気持ちを抱えているみたいなんだ。じゃあ、このモヤモヤから解き放たれるにはどうすればいいんだろう?
京都女子大学と兵庫教育大学の研究では、怒りが自分の中で反すう(繰り返す)する人は、怒りの反すうの下位概念である「怒りの熟考」「怒りの体験想起」「報復思考」の3つに着目することが必要とされ、解消する方法もそれぞれの特徴に合わせて変わると言っているんだ。
以下のシチュエーションを例にして、それぞれの特徴と対策を説明していくよ。3つの怒りの特徴の中から自分の怒りのポイントを探って、対策を参考にしてね。複数当てはまる場合もあるよ。
【例】
友達との雑談中に「あんたってナマケモノだよね〜」と言われ、その時は周りの人も笑っていたし、自分も半分冗談くらいに受け取っていたけど、あとから怒りがメラメラしてきた。
「怒りの熟考」の解消
怒りの熟考は、怒りの体験に注意が向けられやすく、分析または省察し続けることで、怒りの感情が持続されることだよ。
「ナマケモノ」の例で言うと、「あれは冗談なの?」「私のどこをナマケモノと思ったの?」「周りの人も笑ってたけど、それは同意してるの?」など、その時の状況を思い返すことで怒りが繰り返されることを指すんだ。
その状況は過去のものだし、今さらどうにもならないのに考えてしまうことは、絶対解けない問題にチャレンジしているようなものなんだよ。
【対策】
起きてしまった過去の出来事から考えを切り離せないときは、マインドフルネスを試してみてね。
人間の悩みのほとんどは「起きてしまった過去」に思いを馳せるか「起きるかもしれない未来」を思い煩うことに由来すると言われているんだけど、マインドフルネスは「今ここ」の感覚を大切にすることで、それらの苦悩から解放されることを目的にした実践方法なんだ。
瞑想が代表的なエクササイズだけど、五感はすべて現在としかつながっていないから、自分で五感を感じられるものがおすすめ。アロマ、庭仕事、編み物、楽器の演奏、ハーブティーの飲み比べなどが役に立つよ。
マインドフルネス瞑想を本格的にやってみたい人は、こっちの記事で詳しく説明しているから読んでみてね!
「怒りの体験想起」の解消
怒りの体験想起は、過去に怒りを感じた出来事と似たようなことが起きることで、元の状況が自分の中で再現され、怒りが再燃してしまうことを指すよ。
上司に「最近がんばってるな」と褒められたのに、「最近がんばってる」→「前はがんばってなかったってこと?」→「そういえば友達に『ナマケモノ』って言われた!」という風に、言葉の解釈を過去の怒りの出来事に結びつけやすくしてしまう状態なんだ。
せっかく褒められたのに、過去にけなされたと感じたことが思い返されたら、自分も辛いし上司も戸惑ってしまうかもしれないよね。
【対策】
消えない怒りの感情が他の出来事と結びつかないようにするには、怒りの感情を自分が深いレベルで実感し納得できることが大切だよ。
そのためには上でも説明したメタ認知が効果的で、そのときの状況を「振り返り」、感情や考えを「言語化」することが役に立つんだ。
たとえば、「ナマケモノ」と言われて怒ったのは、怒りの背後に「悲しかった」があり、その理由に「最近仕事を一生懸命やっている」実感があった場合。
このように振り返りができていれば、ナマケモノと言った友達は「自分が仕事をしている姿を知らないだけかも」と想像できるし、褒めてくれた上司に対しては「努力を認めてくれた」と感謝もできるかもしれないよね。
過去と現在を感情的に分離できていれば、今起きている上司の褒め言葉も自分の中に吸収しやすくなるんだ。
実際に練習してみよう!ぜんぶ書けなくても大丈夫。書けそうなところだけやってみてね。
最近怒れなかったことは?
その時の感情はどんな感じだった?
今はどういう風に感じている?
「報復思考」の解消
報復思考は、怒りの対象である人物に対して、文字通り何か「仕返し」をしてやろうと心の中で思い続けることだよ。仕返しは有益でないだけでなく、仕返しを考えている間はずっと怒りを抱えることになるから注意が必要なんだ。
仕返しは相手に向かって何かをするだけでなく、悪い噂を流すとか無視するなど、間接的で心理的なものも含まれるよ。
【対策】
怒りは抑制されることで熟考してしまい、熟考するから想起される場面が増え、怒りが心の中に留まることで報復につながるというサイクルになるよ。報復に対する対策は、上の2つの段階でどれだけ怒りの感情を処理できているかによるんだ。
仕返しは相手に自分の意志が伝わりにくいだけでなく、第三者が自分の行為を否定的に感じてしまうリスクもあるよ。被害者だったのに加害者になってしまったら、あのとき傷ついた自分があまりにも可哀想だよね。
スポーツなど身体を動かしてエネルギーとして発散したり、信頼できる人に愚痴を聞いてもらったり、今まで行ったことのないところに行き環境を変えたり、発散と気分転換で対処しよう。
自分の感情と意見を相手に伝えるということ
怒りの感情の解消は、もちろん自分の中だけで処理することだけではないよね。嫌なことを言われたその場では言い返せなくても、あとからでも自分の気持ちを伝えていいんだよ。
どういう意味で言ったのかを聞いたり、自分がどんな気持ちだったかを伝えたりすることは、相手を知り自分を知ってもらうチャンスでもあるし、人間関係を次のステップに進めるのにも役立つんだ。
英語の”communication”には「共有する」とか「分かち合う」という語源があるんだけど、人との会話はただ話をするだけではなく、別々の人間がお互いのことを「共有し合う」という意味合いもあるんだよね。
「この前私のことナマケモノって言ったことだけど…私のどんな部分がそう見えるか教えてくれる?」とか「最近自分では頑張ってる意識があったから…ちょっと気になっちゃって」のように丁寧に聞けば、自分も相手も感情的にならずに話し合うことができるかもしれないし、話し合えたあとには怒りが想像もしなかったような別の感情に変わってるかもしれないよ。
相手の意見をちゃんと聞きつつ自分の意見も主張できるコミュニケーションをアサーションというんだけど、こっちのページで詳しく説明しているから読んでみてね。
怒れない自分を責めないで
自分の感情を外に出すことが苦手な人はたくさんいるよ。
感情を出せず傷ついているときに、さらに感情を出せない自分を責めてしまうと余計に自分を否定することになってしまうよね。
怒れないのは感情を抑えられるという優れた性格を持っていることだし、そんな自分に安心させられている人もいるはずだよ。
まずは自分を否定しないで、そのときの場面や気持ちを振り返ることで、自分が望んでいることは何なのかを知ることから始めてみよう。