「認知行動療法を受けたい」といったお問い合わせが、精神科や心療内科、カウンセリングセンターなどで増えてきているみたいだよ。
認知行動療法とは、うつ病や不安症などの精神的な悩みを克服する心理療法の一つなんだ。メンタルヘルスの問題に関心を寄せている人なら一度は聞いたことがあるかもしれないね。
とはいえ、「認知行動療法ってどんな心理療法なの?」って実態がかなりわかりにくいよね。
この記事では、そんな認知行動療法について他の心理療法との違いを含め、自分でできる認知行動療法の方法、「自分なんて…」と思いがちな人ほど認知行動療法向きである理由など、役に立つ事柄について分かりやすく解説しているよ。
目次
認知行動療法とは
認知行動療法とは、複数の心理療法をまとめて呼ぶときの「総称」で、英語表記のCognitive Behavioral Therapyの頭文字をとってCBTとも呼ばれるんだ。
認知行動療法がどんな心理療法の集まりかと言うと、「刺激(出来事)によって生じる反応を、認知、行動、気分、身体反応の4つに区分して捉えるモデル」を採用している心理療法の集まりだよ。と言ってもちょっとわかりにくいかな。この辺は次の「認知行動療法のモデル」で図を示しながら説明するね。
ここでおさえておいて欲しいのは、認知行動療法は「総称」である点だよ。様々な心理療法のパッケージで特定の一つのものを指しているわけではない、ということだね。
認知行動療法には、認知療法、論理情動行動療法、スキーマ療法、行動活性化療法、ストレス免疫訓練、アクセプタンス・コミットメントセラピーなど、たくさんの心理療法が含まれているんだ。
認知行動療法のモデル
たくさんの心理療法が含まれているのだけど、認知行動療法の仲間と考えられるかどうかは、下記のモデルを取り入れているかどうかに大きくかかわってくるんだ。
このモデルで想定してるのは大きく4つのことだよ。
出来事との相互作用
認知行動療法のモデルが想定している一つ目は、「人は出来事と相互作用している」だね。何かしらの出来事からの刺激があり、それに対して人は反応するんだ。そしてその反応は出来事にも影響をもたらすよ。
例えば、友人から「おはよう」と声をかけられた際(刺激)、こちらが笑顔で「おはよう」と言い換えしたところ(反応)、友人の顔も笑顔になったなどの相互作用が見られるんだ。
4つの反応
二つ目は、「人の反応には、認知、行動、気分、身体反応の4つがある」だよ。認知とは「考え方」のことだと思ってね。環境から何かしらの刺激があると、人にはこの4つの側面に反応が生じるんだ。
例えば、「あいさつをしたのに無視をされた」といった出来事があったときのことを考えてみよう。
無視(刺激)があると、次のような反応が起きるかもしれないね。
認知:「嫌われるようなことをしたのかな?」
気分:不安、悲しみ
身体反応:涙が出てくる
行動:人に見られないようにトイレに行って、ティッシュで涙を拭く
こんなふうに認知、行動、気分、身体反応の4つで捉えると「何が起きているのか」がとてもすっきり把握できるようになるんだ。
反応間の相互作用
三つ目の想定は、「反応は相互に影響し合っている」だよ。さっきの「あいさつをしたのに無視をされた」出来事への反応を例に考えてみよう。
「嫌われるようなことをしたのかな?」と考えると(認知)、不安や悲しくなり(気分)、目から涙が出てくるよね(身体反応)。
そうすると、「ああ、自分は今辛い気持ちなんだな」と再認識し(認知)、余計悲しくなって(気分)、より一層ネガティブな考えがよぎったり(認知)、更に涙が止まらなくなって(身体反応)しまうかもしれない。そうなったらトイレから出ることができなくなってしまうことだってありうるよね(行動)。
こんな感じで、この4つの反応はそれぞれ影響し合っているんだ。
工夫の余地があるのは認知と行動
モデルが想定していることの4つ目は、「4つの反応の中でも、手を付けやすいのは認知と行動である」だよ。
認知行動療法はうつ病や不安症に効果があるんだ。うつ病と言えば「落ち込み」が顕著になる病気だし、不安症は「不安」や「心配」、「パニック発作」が主症状だよね。「気分」や「身体反応」が生じる病気に効果があるのに、「手や付けやすいのは認知と行動である」と言われると「どうして?」って思うよね。
ヒントは上で解説した「反応間の相互作用」だよ。何かが変われば、自ずと他の反応にも変化がもたらされるんだ。とても大事なところだから少し具体的にみていこう。
実は、4つの反応の中でも、「変化しやすいもの」と「変化しにくいもの」に分けられるんだ。変化しやすいものが「認知」と「行動」、しにくいものが「気分」と「身体反応」なんだ。
実験してみるとその違いが一目瞭然になるよ。
実験① 認知に変化をもたらす
「山登りをしている」場面を想像してみて。出来たら今度は「川泳ぎをしている」場面を想像してね。うまく切り替えられたかな?
実験② 気分に変化をもたらす
「今から世界で一番の幸せを感じて」と言われた幸せになれるかやってみて。今度は、「世界一の絶望感」を感じてみて。
どうだったかな? 認知の実験①は簡単にできたけど、気分の実験②は難しかったと思うけどどうだろう。こんなふうに、同じ「反応」でも変化させやすいものとそうじゃないものがあるんだね。
でも、4つの反応は間違いなく相互作用しているんだ。ということは、変化しやすいものから変化させれば、次第に変化しにくいものも少しずつ変化していくはずだね。
行動と身体反応も同じだよ。「右手上げて」「次は左手」と言われれば、すぐに切り替えられるよね。一方、「体温を3度上げて」「次は3度下げて」と言われても…無理だよね。
認知行動療法は、この原則にのっとって、うつ病や不安症といった「気分や身体反応」にまつわる病気に介入するときにも、変化をもたらしやすい「認知」や「行動」に焦点をあてて、そこから介入していくんだ。
だから❝認知❞❝行動❞療法と呼ばれるんだね。
認知と行動に働きかけるのが認知行動療法の最大の特徴で、カウンセリングや薬ではアプローチできない側面にアプローチできるんだ。うつ病に対する治療では、薬物療法と認知行動療法は同程度の効果があると証明されているので、どうしてもお薬に抵抗のある人は、まずは認知行動療法から取り組んでみてもいいかもしれないね。
他の心理療法との違い
認知行動療法と名前がよく似た心理療法がいくつかあって紛らわしいから、それらの違いを見ていこう。
と言っても、認知行動療法は「総称」で、何かしら特定の心理療法を指している言葉ではないし、実はこれから比較する心理療法も「認知行動療法に含まれる」と言えば含まれるものではあるんだ。だから、本当のことを言うとこれから述べることは「スポーツと相撲の違いを解説」と言っているくらい変なことなんだよ。
ただ、名前がよく似ていて紛らわしいことに変わりはないよね。それぞれの心理療法について基本的なことを知ることで、概念上の整理をしてもらえるとありがたいな。
認知療法との違い
認知療法とは、アメリカの精神科医・アーロン・ベック氏がうつ病治療のために創始した心理療法だよ。
ベックはうつ病の人の夢が、うつ病ではない人の夢に比べてかなり被害的であることを見出したんだ。ここからベックは「考え方が悲観的になっていることがうつ病の特徴だ」と気づき、悲観的な考え(認知)にアプローチすることを治療の焦点に置いたんだね。
認知療法は認知行動療法を構成する、大切な支柱の一つになっているよ。
行動療法との違い
行動療法とは、学習理論を応用した心理療法の総称だよ。
学習理論とは、人に特定の行動を獲得させたり、一度獲得した行動を維持するにはどうしたら良いかを研究する心理学の領域だよ。
例えば、母親が子どもに「お皿洗いをしてほしい」と思った場合、「お皿洗いをしてくれたらお駄賃をあげる」といった約束にすると、その願いは実現しそうだよね。こんなふうに、「どうしたら望む行動を人は取ってくれるのか?」を研究するのが学習理論なんだ。
学習理論を心の病の克服のために応用したものが、行動療法といっていいよ。
認知行動療法の中の「行動」に働きかける役割を主に担ってくれているのが行動療法だというわけだね。
ちなみに、ゴリゴリの行動療法家の中には「認知も頭の中でする人の行動なので、認知行動療法などと言うものはない。あるのは行動療法だけだ」と主張する人もいるらしいよ。
一般的な感覚だと「認知も行動」と言われると違和感があるけど、行動療法家の間では「行動とは、死人にはできない活動のことである」と定義されているんだ。確かに考えることは死んだ人にはできないね…!
セルフ認知行動療法のやり方
認知行動療法は基本的に臨床心理士や公認心理師など、心理学の専門家と一緒に取り組むものなんだ。
だけど、認知行動療法の最終目的は「自分一人で認知行動療法を自分のために使いこなせるようになる」なので1人でやっちゃいけないというものではないよ。
そこで、認知行動療法を1人で取り組む場合はどうやったらいいのかを解説していくね。認知行動療法は様々な困りごとに応用が効くからやり方を知っておけると色んなことに役立つはずだよ。
ただ、うつ病などの病気がある場合は、専門家の力を借りて取り組むことも検討してみて。ちなみにいいカウンセラーの見つけ方についても気になる人はよいカウンセラーの見つけ方を読んでみてね。
step1 自動思考に気づこう
認知行動療法を効果的に実施するためには、まず認知に気づくことが大切だよ。認知の中でも特に「自動思考」と呼ばれるタイプの認知に気づくことが重要になってくるんだ。
自動思考とは、まさに「自動で起きる思考」のことだよ。例えば、「友人と待ち合わせをしていたけど、電車の乗り継ぎが上手くいかず、集合時間ギリギリになってしまった。でも走れば何とか間に合いそう」というときに目の前の横断歩道の信号が点滅していたら、どんなことが頭によぎりそうかな。
ある人は「走れば間に合う。走れ!」と思うかもしれないし、別の人は「ここまで走って疲れた。赤信号の間休もう。その間に友人に遅れるってLINEすればいい」と思うかもしれないね。
こんなふうに、そのときそのときにふと頭によぎる思考を自動思考というんだ。この自動思考は人それぞれ特色があり、ひいては行動、気分、身体反応の違いをももたらすよ。自動思考が悲観的だと、気分もそれに引っ張られて悲観的になりがちなんだね。
行動、気分、身体反応に違いをもたらす大事なものであるにもかかわらず、自動思考はまさに「自動」であるために、普段意識している人は少ないよね。ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン氏によれば、人はなんと一日に35,000回も意思決定しているそうだよ。
そんなに考え事をしていたなんて気づきもしないよね。それだけ自動思考が見逃されやすいものであることを如実に物語っているんだ。
認知行動療法では、「なんだかつらいな」とストレスを感じたときに、自動思考に気づくようになることが最初の目標になるよ。例えば、「あの人に無視されて、なんでこんなに悲しいんだろう?」と振り返り、「ああ、『また人に嫌われてしまった』と考えたからだ」みたいな感じから始めて、徐々にストレスを感じている瞬間に「どんな自動思考が頭に浮かんでいるか」に気づけるようにしていくんだ。
「どんなことを考えたかな?」と意識さえすれば、自動思考に気づくのはそう難しいことじゃないから意識してみてね。
step2 ストレスになった状況を書き出そう
自動思考に気づけるようになったら、その自動思考の内容を含めてストレスを感じたときの状況を書き出すのが次のステップになるよ。
「認知行動療法のモデル」で紹介したモデルにそって書き出すんだ。例を挙げるね。
何があったときに(出来事)、どう感じ(気分)、どうなっていたのか(身体反応)。その際どんなことを考え(認知)、そしてどうしたのか(行動)を、こんな感じでまとめていくよ。
自分に起きた反応を書き出すだけでも「こんなことが起きていたのか」と客観的に見つめ、少し冷静になれることもあるんだ。
step3 ストレスの共通点を見つけよう
step2の作業を何度か繰り返すと、「自分がストレスを感じるときには、どうやらパターンがあるらしいぞ」と気づくことがあるよ。実はバラバラに見えていた状況にも、ある共通点があるんだね。
先ほどの例と次にあげる例とで共通点を見つけることはできるかな?
この人は、人の目をかなり気にするのかもしれないし、必要以上に自分を責める傾向があるのかもしれないね。
こんな感じで自分のストレス状況を複数並べると、そこに「ストレスを感じるときのパターン」が共通点として浮かび上がってくるよ。
step4 いつもとはちょっとだけ違うことにチャレンジしよう
共通点が浮き彫りになってきたら、いつもと違うことが出来ないかを思案して、実践する段階に入るよ。
いつもと違うことを試みるのは、もちろん「認知」と「行動」だね。先ほどの例だと「つい人目を気にして自分を責めてしまうから、ちょっと『他人のせいにしてみる』といいかもしれない」や「次に挽回できる行動を取ろう」といった計画が立つかもしれないね。
計画が立ったら、計画通り考えたり行動できないかチャレンジしてみよう。
認知チャレンジ
「何も人前で怒ることはない。上司にも悪いところはあった」と考える
「たまたま隣の人が自分よりも一瞬はやく反応しただけ」と考える
行動チャレンジ
人事に相談しに行く
似たようなシチュエーションがあったときに声掛けできるように身構えたまま座る
チャレンジする際にとても大事なことは、「絶対に成功させる」と気負うことではなく「自分にとって効果があるかどうか、実験してみる」といった観点を持つことだよ。
今までやったことがない認知や行動なのだから、結果がどうなるかわからないのは当然だよね。「絶対に成功させる」とは言えないはずなんだ。初めてのことなんだからうまくいかなくてもいいよ。それよりも初めてのことなのにチャレンジできた自分を労わってあげてね。
step5 実験を続ける
実験をしてみると「うまくいく」「うまくいかない」といった結果がついてくるよね。実験の結果、「これはストレスを解消するのに効果的だ」と思えるものがあったら、その認知や行動が自分になじむまで実験を続けよう。
最初は違和感があるかもしれないけど、その違和感は今までとは違うことをしているからこそ感じられるもの。成長痛と思って、少しの間だけの辛抱だね。応援してるよ。
認知行動療法のメリット・デメリット
認知行動療法は「エビデンス(根拠・証拠)」のある、科学的に効果が認められた心理療法なんだ。とはいえ、万能薬ではないし、認知行動療法を受けるメリットもあればデメリットもあるよ。
メリット
まずは認知行動療法を受けるメリットを述べていこう。
認知行動療法を受けるメリットは、「一度ストレスへの対処法を学ぶことができればそのスキルは一生ものになる」ことだよ。
認知行動療法はCognitive Behavioral Therapyと表記するのが正確なのだけど、TherapyをTraining(トレーニング)と表記しても差し支えないと考える人がいるくらい、認知行動療法は「習い事」に近い性質を持っているんだ。
確かに、「セルフ認知行動療法のやり方」でみたように、自動思考に気づくことや、ストレスの共通点を探すことなんかはちょっと練習が必要だよね。一般的にイメージされる「カウンセラーと話しをして、自分の心に向き合うカウンセリング」とはかなり印象が異なるんじゃないかな。
認知行動療法はトレーニングが必要な分、一生もののスキルが身につく可能性を秘めているんだ。
デメリット
一方、認知行動療法を受けるデメリットは、「ときには怖い思いをする」だよ。顕著なのは認知行動療法によって不安を克服しようとするときだね。
不安な気持ちが維持される理由は、不安な対象を避け続けているからなんだ。不安な対象に向き合えさえすれば不安は必ず減っていくんだよ。どれだけ好きな食べ物でも毎日食べたら飽きるのと同じように、人の感情はいつか必ず「慣れ」が起きるんだ。だから認知行動療法では少しずつかつ何度も不安な対象に向き合うアプローチをとっていくんだ。
認知行動療法では、事前に計画を立てて無理なく不安に向き合っていくよ。とはいえ、「無理なく」ではあるものの、ある程度不安を感じることは避けられないんだ。とても効果がある方法である一方、きついなと感じる人にはしんどい方法かもしれないね。
認知行動療法に向いてない人
認知行動療法そのもののメリット・デメリットの次は、認知行動療法を受ける側の要因にも触れていこう。いくら効果のある方法であったとしても、その方法が合う人・合わない人がいるんだ。
まずは「認知行動療法に向いてない人」から見ていこう。
ただ、これから述べていく事柄に当てはまるからといって認知行動療法が必ずしもうまくいかないわけではないよ。カウンセラーの力量や相性なんかも効果が出るかどうかに大きく関係してくるから、参考程度のものだと思ってね。
受け身的
受け身的な態度だと、十分に認知行動療法の効果を得ることができないよ。認知行動療法はトレーニングの側面があることは先述したよね。「話してすっきり」だけを目的とした心理療法ではないからなんだ。
認知行動療法を受ける中で知ったことや身につけたことは、日常生活の中で自分で試していくことが重要だよ。
本でいくら水泳の知識を入れても、床の上でクロールの練習をしても、実際に水の中で泳ぐ体験をしないといつまでも泳げないのに似ているかも。受け身ではなく、積極的にチャレンジすることが認知行動療法の効果を最大化させる秘訣なんだ。
頭でっかちになりがち
「なるほど、認知行動療法はこういうアプローチをとるのか」と頭で理解するだけでは、やはり認知行動療法の効果は実感することはできないよ。
認知行動療法のモデルは「出来事」「認知」「行動」「気分」「身体反応」のたった5つのフレームで自分のことを理解できる極めてシンプルなものだよね。だから分かりやすいし、納得感も強いんだ。
けど、このモデルを「自分事」として自分の体験に落とし込んでいかないと、本当の意味では自分の悩みの克服にはならないよ。
頭でっかちになってしまうのは、自己啓発本を読んで一時高揚感に包まれるけど、気が付いたら気持ちが元に戻っていたのと似ているかもしれないね。頭ではなく、身体を動かして体験して、変化を体験して、心から腑に落ちる形で理解できると認知行動療法の効果をより一層実感できるよ。
議論することを目的にする
議論を目的に認知行動療法を実践すると、効果を実感できなくなってしまうよ。
勘違いしないでね。認知行動療法が議論を禁忌にしているわけではないんだ。むしろ、認知行動療法では議論を歓迎しているよ。でも、それは「新しいチャレンジ」をしていくための手段であり、目的ではないんだ。
新しい考え方、今まで取っていなかった行動の中で、どんなものが今のストレスを解消するのに役立つのか。これは専門家と一緒にあるいは自分自身の心と話し合う中で分かってくる事柄だよね。だから議論は不可欠なんだ。
でも、その議論に勝つことを目的にすると、新しい考えの揚げ足をとることにつながったり、新しい行動のリスクを必要以上に見積ったりしてしまうかもしれないね。
認知行動療法の効果を高めるためには、自分と相手(専門家ないしは心の中のもう一人の自分)の意見を素直に出し合うことで生まれる新しい価値観にそった認知や行動を選択し、そして「実験」として実際に試していくことがとても大切なんだ。
認知行動療法に向いている人
次に認知行動療法に向いている人はどんな人なのかを見ていこう。
書くことが好き
書くことが好きな人は、認知行動療法に積極的に取り組める見込みが高いよ。
認知行動療法では自分のストレス状況を理解したり、新しい行動を試すためのプランを作成したり、日々の気持ちの変化を記録したりと、とにかくワークを通じてチャレンジを後押ししていくんだ。こういったワークは実際に紙に書き出して行われることがほとんどだよ。
もちろん、紙に書き出すことをしなくても認知行動療法を進めることはできるけど、書き出す方が効果が高まることが知られているよ。書き出すことで自分のストレスが紙に移っていくイメージだね。
シカゴ大学のラミレス氏らの実験によれば、大学生に「これから受けるテストのどの部分がどう不安に感じているのか」を具体的に書いてもらうと、その学生の成績が書かなかった学生よりも良くなることが分かっているんだ。
これは紙に書き出すことで頭の中から不安を紙に移し替えることができたからだと考えられているよ。
認知行動療法でもストレスを紙に書き出して移し替えることで、よりよいパフォーマンスを発揮することが望めるんだ。
考えるのが好き
考えることが好きな人も認知行動療法に向いているよ。
認知行動療法はたくさんの新しいことを見出して、それを一つずつチャレンジしていくんだ。よくある認知行動療法に対する誤解の一つに「ネガティブ思考をポジティブ思考に変えていくもの」があるけど、これは間違いだよ。
認知行動療法は「Aという思考がダメだから、Bという思考に変えていく」ものではなく、「AはAのままあってもいいし、同時にBともCともDとも考えられるように考えの幅を広げていこう」とするものなんだ。
このようにたくさんのアイデアを考え続けるには、もともと考えるのが好きな人の方が有利だよ。もちろん、考えるのが苦手な人には、専門家がサポートするから安心してね。
知的好奇心旺盛
認知行動療法は「チャレンジしてなんぼ」だから知的好奇心旺盛な人に向いているよ。
「今までやったことがないけど、やったらどうなるのかな?」
「新しいことを考えるのは楽しいな」
「記録をつけると変化しているのがよくわかってワクワクする」
こんな風に思える人は、認知行動療法へのモチベーションがどんどん高まっていくだろうし、効果もあがっていくことが期待できるよ。
「自分なんて…」と考えがち
「自分なんて…」と悲観的な思考や気持ちが強い人は認知行動療法に向いているよ。
認知行動療法の支柱の一つである認知療法は、もともとうつ病を治療するためのものとして創始されたんだ。そんな認知療法が核となっている認知行動療法も、うつ病にはとても高い効果を発揮するんだよ。
「自分なんて…」と思って落ち込んだり憂うつ感の強い人ほど、認知行動療法は力を発揮するということだね。騙されたと思って、一度取り組んでみてもいいかも。
臨床心理士や公認心理師といった心理学の専門家と取り組めるのが一番だけど、書店に行けば認知行動療法を自分で実践できるワークブックも売っているので、それらから始めても全く問題はないよ。
中でもオススメなのは『こころが晴れるノート』だね。薄くて安価なのに、本格的にワークに取り組める点がおすすめだよ。
おまけ①シン・認知行動療法
認知行動療法は常に新しい知見を取り入れて進化を続けているよ。現在、認知行動療法は「第三世代」と呼ばれる新しい世代が誕生しているんだ。
この第三世代の特徴は、マインドフルネスとアクセプタンスを重視している点だよ。マインドフルネスとは過去でも未来でもなく、「今」に気づくこと。そして、アクセプタンスとはマインドフルネスによって気づいた「今」に意図的に向き合うことなんだ。
マインドワンダリングといって、人の思考は気が付いたら過去の世界や将来の空想へ行ってしまうんだ。マインドワンダリングの厄介なところは、「現在(今)」は何の問題がなかったとしても「過去」を思い起こして「悲しく」なったり「後悔」したり、「将来」を想像して「緊張」したり「不安」を感じたりしてしまうことだよ。
だから第三世代の認知行動療法では、不必要にマインドワンダリングをせずに「現在(今)」にとどまり続けられるよう、マインドフルネスやアクセプタンスを駆使していくんだね。
第三世代の認知行動療法で取り入れられているマインドフルネスについて詳しく知りたい人は一番シンプルな「マインドフルネス瞑想」のやり方も読んでみて欲しいな。
おまけ②『嫌われる勇気』のアドラーは、元祖・認知行動療法家?
この記事では「認知療法は認知行動療法を構成する、大切な支柱の一つになっている」と述べてきたね。この記述は一般的に述べられていることに倣ったものだよ。
でも実は、本当の意味で認知行動療法の支柱になっているのは認知療法ではなく、アドラー心理学なんだ。そう、『嫌われる勇気』で人々の知るところになったあのアドラーの心理学だよ。
『スキーマ療法最前線』という本に次のように書かれているよ。
❝Adlerが Sigmund Freud (1856-1939) と決別したのは、彼が治療において認知を強調し、 実際に行動変容を起こすことを重視したからである。Adler のアプローチは、現在のCBTそのものである。❞
それもそのはずで、認知療法を創始したベックはアドラーに師事していたんだ。ベックはアドラーの「認知」の考えを取り入れて認知療法を作り上げたんだよ。二人のアプローチが似ているのは当然だよね。
精神医学者のアンリ・エレンベルガーは『無意識の発見』の中で、アドラーの考えは「共同採石場みたいなもので、だれもがみな平気でそこからなにかを掘り出してくることができる」と書いているけど、本当にその通りになっているね。アドラーは現在心理学の様々な領域に多大な影響をもたらしたんだ。
アドラーについて詳しく解説した記事もあるから読んでみてね。
認知行動療法まとめ
認知行動療法について、認知療法や行動療法など似た名前の他の心理療法との違いや、認知行動療法のやり方など、基本的なことだけどかなり細かく解説したよ。
自分でできる認知行動療法のやり方は、具体例を挙げながら解説したから、「自分が認知行動療法をやるならどういう流れでやることになるだろう?」と考えながら実践してみて欲しいな。
特に「書くことが好き」「考えることが好き」「知的好奇心旺盛」「「自分なんて…」と考えがち」な人は認知行動療法に向いているから、一つでもあてはまる人は取り組んでみるのをお勧めするよ。
認知行動療法を受けたいと思った人は、お勧めした『こころが晴れるノート』から始めてみてもいいし、お近くの精神科や心療内科に問い合わせてみてもいいね。医療機関への通院歴がなくても認知行動療法は受けることができるので、カウンセリングルームに問い合わせるのも手だよ。
認知行動療法を通じて、新しい考えやその考えに基づく行動を「実験だ」と思ってたくさんチャレンジしてみてね。そうすることで今までにはない新たな発見が生まれ、ストレスを生んでいた悪循環から少しずつ離れることができるようになるよ。