「落ち込んでいたかと思えば、急に元気になった」
「寝なくても全然平気」
「何でもできる気がする」
なんだかとてもポジティブで活動的で憧れるような記述だね。確かにできれば落ち込んだ気持ちでいるよりは明るい気分でいたいし、バリバリ仕事したい人や思いっきり遊びたい人にとっては寝ずに活動したいだろうし、誰もが自己効力感高くありたいよね。
けど、双極性障害によってもこのような状態になることがあるんだ。一見すると望ましい状態なんだけど、実は大きな弊害もあるよ。
今回は、双極性障害について解説していくね。気分の波が激しいこと、生活リズムが崩れること、根拠のない自信を持つことの落とし穴について考えていこう。
目次
双極性障害とは
双極性障害とは、気分障害の一つで躁状態と抑うつ状態を繰り返す精神的な病のことを言うんだ。いわゆる「躁うつ病」のことだね。
躁とは気分の高揚感が表れる状態、抑うつとは気分の落ち込みや興味関心の減衰などが表れる状態のことだよ。
躁状態にある期間を躁病エピソードと言って、持続的な高揚感があったりイライラしたり、せかせかしたり、とにかく興奮状態になっているよ。一方、抑うつ状態にある期間を抑うつエピソードと言い、この間は無力感や疲労感、憂うつな気分の持続、集中力の低下などが生じるんだ。
双極性障害の種類
双極性障害は、躁状態と抑うつ状態の強さによって大きく3種類に分けて考えることができるよ。
双極Ⅰ型障害
双極Ⅰ型障害は、激しい躁と激しいうつがあるのが特徴だよ。双極Ⅰ型障害になる人の割合はおおよそ2%と言われているんだ。
双極Ⅰ型障害が見せる躁状態は、周囲からも明らかに「異常だ」と分かるレベルだよ。例えば、考えがあっちこっちに飛んだり、上司に対しても大声で怒鳴りつけたり、借金をしても平気で高い物をたくさん買ったりなどといった行動がみられるんだ。
双極Ⅱ型障害
双極Ⅱ型障害は、軽い躁と激しいうつがあるのが特徴なんだ。双極IⅡ型障害になる人の割合はおおよそ4%と言われているよ。
双極Ⅱ型障害が見せる躁状態は、終始機嫌よくしゃべり続けたり、普段よりも多くの量の仕事をこなしたり、わずかな睡眠時間で大丈夫だったりするんだ。
実は双極Ⅱ型障害はその半分近くを抑うつ状態で過ごすから、躁状態は「うつから回復した」と誤解されてしまうことも結構あるよ。よくなったり悪くなったりを繰り返してなかなかスッキリしないうつ病の場合、実は「双極Ⅱ型障害だった」なんてこともあるということだね。
気分循環性障害
気分循環性障害は、軽い躁と軽いうつあるのが特徴だよ。気分循環性障害になる人の割合は6%前後と言われているんだ。
大人の場合は少なくとも2年間、子どもの場合は1年間、軽い躁と軽いうつが繰り返されると、この診断が付く可能性があるよ。
本人も周囲も「気分屋」「不安定な人」と認識しがちなので、気分循環性障害は「病気である」と気づかれにくいと言われているんだ。
双極性障害を疑う症状・サイン
双極性障害にはどんな症状があるんだろう。次にそれを具体的にみていこう。下記に述べるような症状が出てないかセルフチェックしてみてね。
何でもできそうな気がする
双極性障害になると、スーパーマンになったかのような高揚感があり、何でもできそうな気持ちになるよ。
よく「自己効力感を持つことが大事」なんて言われたりもするから、「何でも来そうな気持ち」になれるなんて、一見するといいことのように思えるよね。
確かに自分の気持ちがハッピーになれる点ではいいことだよ。けど、双極性障害のときに感じる自己効力感は、現実離れした妄想的な自己効力感なんだ。
だから、正常であれば「これはさすがに無理だろう」「成功するとは限らない」と判断するところでも「いける」「絶対成功する」と確信してしまうんだよ。そのため、借金を膨らませ続けているのにもかかわらず短期トレードの投資を続けたり、人を傷つける行為(恫喝や浮気)などもしてしまうことがあるんだ。
寝なくても平気
双極性障害の症状の一つに睡眠障害があるんだ。うつ病にも睡眠障害があるけど、うつ病の場合は「寝れない」睡眠障害なのに対して、双極性障害の睡眠障害は「寝ない」なんだよ。躁状態にあると、少ない睡眠でも疲れを感じにくくなるからなんだね。
睡眠時間が少なくても活動できるなら、その浮いた睡眠時間で色んなことができるからうらやましい…と思うかもしれないけど、睡眠をとる時間がいつもと変わり、生活リズムが崩れると様々な支障を来すんだ。
生活リズムが崩れると時差ぼけのような状態になり、心身共に多大な影響がもたらされるよ。双極性障害になる人には体内時計が他の人と比べて狂いやすいことが知られていて、かつ体内時計の狂いが症状にも影響することが分かっているんだ。
イギリスの心理医学者ジョウハルらによってヒースロー空港で実施された調査によれば、飛行機で東へ向かうと躁になり、西に向かうとうつになる傾向があることが分かっているよ。
睡眠時間を減らして時差ぼけ状態になることは、症状を悪化させる原因になるんだね。
アイデアがあふれてくる
とめどなくアイデアがあふれてくるのも双極性障害の症状の一つだよ。
ただ、「アイデア」と言っても現実的なアイデアかと言えばそうとは言い切れないんだ。脈絡なく出てくるアイデアばかりなので、必ずしも使えるアイデアではないんだね。アイデアが止めどなく出てくるのは、それだけ頭の中が暴走している証拠。まとまりを欠いているんだ。
ところが本人にはその自覚がなく、むしろ「素晴らしいアイデアだ」「世紀の大発見だ」と思っているため周囲との認識のズレが起き、トラブルに発展しやすくなるよ。
対人トラブルが絶えない
双極性障害になるとその症状のために本人は「できる」「寝なくても大丈夫」「グッドアイデア」と信じているんだ。その一方、冷静な周囲は「無謀」「寝て欲しい」「まとまりがない案」と捉えるのでどんどん人間関係にズレが生じてくるよ。このズレが対人トラブルを引き起こすんだね。
例えば、「このアイデアが形になれば絶対に大金持ちになれる」と考えて旦那(父親)が急に会社を辞めて事業を始めたとしたら、奥さんや子どもたちはとても不安になるし、勝手に大きな決断をしたことに怒りを感じるんじゃないかな。
このような対人関係での認識のズレが多くあれば、確かに対人トラブルが起きるリスクは高くなりそうだね…。
双極性障害と間違われやすい病気
双極性障害は診断がとても難しいと言われているんだ。双極性障害と似た障害があるのがその理由の一つだね。どんな障害と似ているのかみていこう。
うつ病
うつ病は双極性障害と間違われやすい障害の一つだね。一説によると、うつ病の症状で受診した患者さんの16%が双極性障害だったという報告もあるそうだよ。
どうしてこのような結果になるかと言うと、双極性障害を持つ人の受診するタイミングが関係しているんだ。
双極性障害の症状は大きく躁状態と抑うつ状態に分けられるのだけど、躁状態のときは本人はとても多幸感にあふれていて、当人は自分が「病気にかかっている」だなんて思わないんだよ。症状としての自覚がないと当然受診はしないよね。
一方、抑うつ状態のときは本人も辛いので、このタイミングで受診することが多いんだ。
それに、先述した通り、双極Ⅱ型障害の場合は抑うつ状態で過ごす時間も長いから、躁が見落とされやすいんだ。仮に躁状態になったとしても、軽い躁であった場合「治った」と本人が勘違いし、受診するのを止めてしまうこともあるようだよ。
ADHD
ADHDも双極性障害と間違われやすいよ。
ADHDは注意欠陥・多動症ともいわれる発達障害の一つだね。その名の通り、注意力の弱さと動き回ることを大きな特徴としているんだ。
ADHDは人の話を遮って話始めたり、じっとしていることが苦手だったり、必要のないものまで衝動的に買ったりすることがあるけど、このような行動が双極性障害の躁状態と勘違いされてしまうことがあるんだ。
さらに厄介なことに、この二つの障害は合併することがとても多いと言われているよ。トルコ・チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学のエリフ・カラメット氏らの調査によれば、双極性障害を患う成人の23.3%にADHDが認められるとのことなんだ。
ADHDは発達障害、双極性障害は気分障害と、病気の種類も違えば対応策も異なるのでしっかりと区分けすることが大事だよ。だけど実際は症状が似ている上に合併している可能性も高いので、両者を分けることはなかなか難しいんだね。
双極性障害の原因
双極性障害の原因が気になる人もいるかもしれないね。けど、実は双極性障害の原因はまだよくわかっていないんだ。でも、「こうかもしれない」との仮説はあるんだよ。
遺伝
双極性障害になるかならないかの原因の一つとして遺伝の要因が考えられているんだ。
遺伝子の影響を調べる研究に双生児研究があるよ。双生児研究とは、双子で生まれたきょうだいの差や共通点を調べていく研究だね。例えば、遺伝情報が同じだけど生活した場所が違う双子に何かしらの差が生じたとしたら、その差は「環境によるものである」ことがわかるといったものだよ。
この双生児研究によれば、遺伝情報が同じ一卵性の双子の場合、二人ともが双極性障害を発症する確率はおおよそ40~80%程度と言われているんだ。それに対して二卵性の双子の場合、おおよそ10%なんだよ。
この結果から、双極性障害には遺伝が大きく関与していることが示唆されているんだね。
とはいえ、一卵性の双子でも最大で60%程度は双極性障害にならない人もいるわけなので、「必ず遺伝する」と言い切れるほど遺伝が強く関係しているわけではないんだ。環境的な要因もかなり大きいみたいだね。
ストレスと脳機能
環境やそこからくるストレスも双極性障害の発症に大きく影響していると考えられているよ。もっとも有名な仮説が「ストレスー脆弱(ぜいじゃく)性モデル」なんだ。
ストレスー脆弱性モデルとは、「なにかしらの病気になりやすさ(脆弱性)を持った人がストレスにさらされると発症する」と考えるモデルだよ。
「ストレス」は嫌なことだけではなく、昇進や結婚など一般的には「いいこと」とされていることであっても「大きな変化」であれば十分ストレスになる可能性があるんだ。
ストレスにさらされた結果脳になんらかの支障が生じ、ドーパミンと呼ばれる脳内神経伝達物質が過剰に分泌されると双極性障害の症状を呈するようになると考えられているよ。
双極性障害との付き合い方
双極性障害とどう上手く付き合っていったらいいんだろう。症状の表れは千差万別だから「これだけやっていれば大丈夫」といったものはないけれど、ヒントになりそうなことはいくつか挙げていけるよ。
生活リズムを一定に
生活リズムを規則正しくするのはとても有効だよ。
先述したように、双極性障害を患う方は体内時計が崩れやすく、その影響を受けやすいことが知られているんだ。症状をコントロールするために、生活リズムが崩れないよう意識しよう。
生活リズムを整えるのには、まず睡眠のリズムを整えることが先決だね。「そんなこといっても、なかなか寝れないから困っているのに…」という方は爆速で寝れる方法をまとめた記事があるから、自分に合っていそうなものを取り入れてみてくれたら嬉しいな。
刺激少なく
双極性障害の症状には、人との関係性も強く影響することがわかっているんだ。友人との飲み会があまりにも楽しすぎてテンションが上がり、そのまま躁状態になってしまった、などが典型例だね。
症状をコントロールするために、身の回りの刺激をコントロールすることが大事になってくるよ。刺激があまりにも強い対人関係は、かかわる頻度を減らしたり、刺激が少なくなる工夫をする必要があるんだ。
例えば、友人と飲み会をする回数が多く、また深夜に及ぶほど刺激的だったとするよね。この場合、友人と会うのはランチの時間にしたり、オンライン飲みにして決まった就寝時間になったらすぐ寝れるようにするなどの工夫ができたらいいね。
このような工夫ができれば、生活リズムを崩すリスクも減り、症状を悪化させないで済むようになるかもしれないよ。
「自分だけバカ騒ぎできないなんて…」と思うかもしれないね。それはとてもショックなことだと思う。けど、無理をすることで症状を悪化させ、人間関係に亀裂が入るようなことになったらランチすらできなくなってしまうかもしれないんだ。
病気をコントロールするためにいくつかの制限があるかもしれないけど、その制限こそが自分を守ってくれる盾や鎧になるんだよ。一緒に改善していこう。
生活リズムを一定にしたり刺激を少なくするために、SRM(ソーシャル・リズム・メトリック)をつけるのがオススメだよ。SRMとは活動記録表の一種で、自分の状態を観察し、症状を抑えるのに有効なツールなんだ。書き方の例も載せているからこちらを参考に是非試してみてね。
薬物療法
双極性障害の症状はお薬でかなりコントロールすることが可能なんだ。特に炭酸リチウムが双極性障害の症状に効くとされているよ。
余談だけど、リチウムは水道水にも含まれているんだ。大分大学医学部の研究によれば、微量のリチウム摂取でも衝動性等を抑える効果があることがわかっていて、実際、水道水リチウム濃度が高い地域は自殺率が低いとのことだよ。双極性障害の改善に関しても、水道水に含まれる微量のリチウムであったとしても、毎日飲み続ければ効果があるのではないかと期待されているんだ。
認知行動療法
認知行動療法は双極性障害の症状とうまく付き合っていくためのスキルを提供してくれる心理療法なんだ。
躁状態になったときに沸き起こる衝動のままに行動や判断をしてしまうと、どんどんエスカレートしていってしまうんだ。認知行動療法ではエスカレートしていかないためにどんな行動をとればいいか、どのように考えればいいかを検討していくよ。
例えば「ちょっとテンションが高まってきているぞ」と気づいたらそのままにせず、意識的にゆっくりと振舞うことができるようにトレーニングしていくんだ。テンポをあえてゆっくるすると気分が沈静化されることがわかっているからだよ。
抑うつ状態に対しての対処も、もちろん検討していくよ。抑うつ状態に対してのアプローチはうつ病に対するのと同様だから、こちらの記事にある認知行動療法に関する箇所を覗いてみてね。
双極性障害を持つ方との接し方
身近な人が双極性障害を患っている人もいるよね。最後に、家族など身近な人が双極性障害を患っている人とどのようにかかわっていけるとよいのかを考えていこう。
病気を理解する
まず最も大事なのは、「双極性障害という病気を理解する」だね。
身近な人であればあるほど、双極性障害の症状が生じると「こんな人じゃなかったのに」とショックを受けたり、「何で相談もなくこんな大事なことを決めるの!?」と大きな影響を受けたりと、とても振り回されてしまうと思う。本人も当然辛いだろうけど、身近な人もそれと同じくらい辛い思いをすることがあるんだ。
こんなことがあると、つい感情的になってしまうよね。無理もないよ。その気持ちが悪いわけでは決してないから安心してね。けど、せめて頭の片隅には「これらの言動は、病気によるもの」であると考える余地を残しておいて欲しいんだ。冷静に対処すれば、お互い疲弊する感情的衝突が避けられるかもしれないよ。それは症状を沈静化させるのに、とても有効なんだ。
躁状態や抑うつ状態が生じたきっかけは何だったのか、そのきっかけを避けるにはどんな工夫が必要かなどを、上記したSRM(ソーシャル・リズム・メトリック)を一緒に作成して考えていってあげてもいいかもしれないね。
専門家を頼る
とはいえ、家族や友人などだけで支えていくのには限界があるよ。そんなときは迷わずに医師などの専門家を頼ってね。
医師に相談することができれば、適切なお薬の処方はもちろんのこと、かかわり方のコツや地域で利用できるサービスの情報提供などをしてくれるかもしれないよ。
その他、認知行動療法を受けたい場合は臨床心理士や公認心理師に、借金や浪費などのトラブルには法的な観点から弁護士に相談してみることができると悩みの解消につながって安心できるかもしれないね。
薬の管理をする
お薬を管理してあげることも、双極性障害を患う人にとっては心強いサポートになるよ。
双極性障害はお薬を飲み続けることで、かなり安定した状態をキープすることが可能なんだ。ところが、双極性障害の患者の中には、ついお薬を止めてしまう人も少なからずいると言われているよ。躁状態が本人にとっては快適であることがその理由の一つなんだ。でも勝手に止めてしまうと再発してしまうし、再発を繰り返せば繰り返すほど症状は悪化していってしまうよ。
このようなことを予防するためにも、家族など身近な人が毎日のお薬の管理を行うことは重要なんだね。
双極性障害のまとめ
この記事では下記のことを述べていったよ。
①双極性障害はいわゆる躁うつ病。躁状態と抑うつ状態がある。
②双極性障害の症状をコントロールするために、生活リズムを整え、対人関係の刺激を工夫しつつ、専門機関で治療を受けることが大事。
③家族もサポートしてあげるとより効果的。
双極性障害は、お薬の力がかなり有効に作用する障害なので、困ったら遠慮せずに医療機関を受診してね。