「反抗期がなかった大人ってなんか心配」
「反抗期がないって自立していないってことでしょ?」
反抗期のなかった大人を、こんなふうに言うのを聞いたことがある人もいるんじゃないかな。
子どもの反抗は自立の表れのひとつ。でも、反抗が無いと自立できないわけじゃないんだ。
今回は心理学的な視点から、「反抗期の意味や目的」「反抗期を経験していないことが問題となる場合」を解説するね。
目次
反抗期とは?定義と歴史
反抗期とは、一般的に「子どもや青年が、大人の意見や指示に対して反抗的な態度をとる時期」を意味する言葉だよ。
日本では、子どもの発達段階において必ず訪れる現象と思われがちだけど、実は反抗期のなかった大人が増えていると言われているんだ。富山大学の2016年の研究では、47%の人が「反抗期がなかった」と答えていて、統計的にも反抗期がないのは決して珍しくないんだよ。1
まずは、反抗期の正確な定義と、生まれた背景から見ていこう。
反抗期の定義
反抗期は、心理学辞典では以下のように定義されているよ。
人の精神発達の過程で、他人の指示に対して拒否、抵抗、反抗的な行動をとることの多い期間のこと(心理学辞典,1999)
つまり反抗期とは、子どもの心身が成長する過程で、他の人に対して反抗的な態度をとることを指すんだ。
反抗期の歴史
「反抗期」は心理学や教育学における専門用語ではないよ。子育てを通じて、多くの親が共通の経験を表す言葉として発展したんだ。
反抗期の歴史を特定するのは難しいんだけど、1921年に発達心理学者であるC・ビューラーが、2〜4歳(第一反抗期)と13〜14歳頃(第二反抗期)の子どもが反抗的になる傾向を発見したことから始まったとされているよ。2
この年齢は、現代でも反抗期が見られやすいと言われる時期とだいたい同じなんだ。
反抗期がある理由・目的
反抗期は、ただ子どもが大人に対して反抗しているだけじゃなくて、ちゃんと意味や目的のある行為なんだ。反抗期がある理由を3つに分けて説明するね。
反抗期は自我伸長期
「反抗期」という言葉は大人側から見た言い方だよね。小児神経精神科医の石川氏は、「自我伸長期」とする方が適切だと話しているんだ。3
つまり、子どもの自我が育ち、それまで親の意向をスムーズに受け入れていたのが、自分のやりたいことや意見を持ち主張し始める段階に入るんだよ。
反抗期は向・反社会的行動を知る時期
反抗期は、自分が社会の中でどう生きるかを知る時期なんだ。
赤ちゃんのときは泣けば大人が自分の欲求を処理してくれていたけど、成長するに従って欲求のすべてが叶うわけではなくなるよね。自分が望むもののうち「何ができて何ができないか」、「実現するためにはどのように他者や社会とかかわれば良いか」を葛藤し始めるタイミングが反抗期なんだ。
同氏は、「他者に配慮しながら自己実現を目指すのが向社会的行動で、他者を攻撃することで自分の欲求や葛藤を処理しようとするのが反社会的行動」と説明しているよ。
そして、大人への成長は向社会的行動の学習過程であるとし、反抗期はそれを学ぶ時だと話しているんだ。3
反抗期の子どもは自立への欲求と不安が混在している
反抗期は自我が芽生え自己主張が強くなる一方、自立への不安から「自立したいけど甘えてもいたい」というアンビバレントな時期でもあるんだ。
誰かに言われたことをしている間は、将来の心配や責任をとる必要はないかもしれない。でも、自分の行動を自分で選ぶようになると、「本当にこれで良いんだろうか」と結果を心配するようになったり、間違えたときの責任を自分でとる必要が出てくるんだ。
自分で行動を選択するのは、喜びと同時に不安や恐怖でもあるんだね。
親に対する子どもの反抗は、「自分の選択を支持して不安をやわらげてほしい」という親への甘えでもあるんだよ。2
反抗期はいつ来るの?
反抗期の年齢や期間には個人差があるけど、一般的には2歳頃と14歳頃に2回あると言われているよ。
ただし、愛知大学の平石教授によれば、欧米での青年心理研究の論文では第二反抗期が専門用語として登場しないんだって。4 14歳頃の反抗期は、文化やメディアの影響を受けて独自に発展していった概念なんだね。
第一反抗期
第一反抗期は2歳半頃から出てくるもので、いわゆる「イヤイヤ期」や「魔の2歳児」と言われるものだよ。この時期は子どもの大脳が大きく発達する時期で、できることが増えるから自己主張も増えると言われているんだ。
第二反抗期
第二反抗期は12歳頃から始まるもので、自分が何者であるかに関心を持ち始める時期なんだ。今風でいえば「自分探し」で、「なぜ人は幸せを目指すのか」や「人生の意味」など、哲学的な土台を築く時期だと言われているよ。
世間で「反抗期がなかった」と言われるときの「反抗期」は、主に第二反抗期を指しているんだ。
最近では7歳前後でも反抗期があると言われているよ。これは、認知発達の権威であるピアジェの理論と重なっていて、自己中心的だった思考が脱中心化するのが7歳前後と言われているからなんだ。「こんなことをしたら◯◯ちゃんはどう思うかな」という他者の気持ちを想像できるようになる時期なんだよ。
反抗期が必須ではない理由
反抗期が子どもの自我が芽生えることで起きるなら、どうして反抗期がある人とない人がいるんだろう。
発達心理学者の臼井教授は、反抗期があるかないかが問題ではなく、反抗期がある場合は親子関係の衝突のあり方が重要で、反抗期がない場合は子どもの自立の在り方が重要だと説明しているんだ。2
反抗期がないことが問題になるのはどういうとき?
反抗期は、子どもだけじゃなく親や家族のあり方によっても変化するよ。
臼井教授によると、反抗期にある子どもは自立への欲求と親に対する愛着の両方を持っているんだ。自立と愛着の欲求に対して親がどのように対応するかによって、反抗期にある子どもと家族の性質が変わるんだって。
親子の衝突あり
①葛藤しながらも自我を再構成しようとする
②自立より家族のあり方を変えようとする
親子の衝突なし
③信頼関係のなかで自立する
④親との衝突を回避するために自己主張を控える
反抗期がなかったとされるのは、親子の衝突がなかった③と④なのがわかるよね。
親子の衝突がなくても、子どもが自立できている③は問題ないよ。親子衝突の回避を優先し、自分の欲求を抑え込んでしまう④が、世間でいう反抗期がなかった大人を心配するケースになるんだ。
ただし、同教授は4つのタイプは固定されたものではなく、流動的な状態だと説明しているよ。「私はコレだ」「うちの子はコレだ」と決めつけないようにしてね。
現代の大人像の変化
反抗期がなかった大人が増えている理由を、教育社会学者の住田氏は、大人と子どもの「ボーダーレス化」という言葉で説明しているよ。5
このボーダーレス化とは、大人と子どもの世界や役割の境界線がなくなることを意味しているんだ。ボーダーレス化に至った変化には以下の4つが考えられるよ。
■インターネットの登場
20年ほど前までは、知らないことは大人から学んできたけど、インターネットの登場で大人の権威を必要としなくなっている。
■メディアの変化
バラエティ番組の増加やYoutube視聴は、親しみのある大人を多く映し出す一方、権威的な大人など多様な大人像を知る機会の損失になっている。
■私的化
社会的事象(ニュース)よりも私的事象(SNS)への関心が強まり、社会規律が希薄化し、大人になる必要性が低下する。
■大人が子どもの自由を尊重するようになった
時代がこれまでの封建的な上下関係を重視する社会から、自由や個人の選択を重んじるようになり、親が子どもに自由を与えるようになっている。
どれも良い悪いではなく、大人像や大人のふるまい方が変化し、子どもの自立のあり方や欲求の表れ方に変化が出てきている表れなんだよ。
「反抗期がない子供」の家庭の共通点
反抗期は子どもの性格だけでなく、親や家族のあり方によって変化するのは話したよね。
ここでは、反抗期のなかった大人が育ってきた家庭の共通点をみていくよ。良い部分も改善できる部分も両方見ていくね。
子どもが溜め込んでいない
反抗期がなかった人は、実は大きな反抗がなかっただけで、不満や意思主張は細かくしていた場合があるよ。
これは親子に信頼関係があって、小さな衝突があるときにちゃんと子どもが自分の意思を主張できるだけでなく、それを大人が理解し、お互いに納得できる形で完結しているのがポイントなんだ。
友達親子
最近は親子で似たような服装をし、友達のように出かける親子もいるよね。友達親子は親が子どもと同じ価値観を持つことで、意見の食い違いが減り、親子の衝突が生まれにくくなるんだ。
子どもにとっては親がよき理解者である一方、成熟した大人の価値観を学ぶ機会が減ってしまい、大人に対する権威や憧れを持ちにくくなる側面があるよ。
親が高圧的
友達親子とは逆に親が高圧的で支配的な場合、親から叱られるのを回避するために自己主張ができないときがあるよ。この場合、自分の欲求を伝える方法を学ぶ機会が減るリスクがあって、社会に出た後に自己主張がうまくできず、我慢することでしか問題に対処できなくなる可能性が考えられるよ。
過保護
高圧的な親を持つ子どもが我慢を強いられる一方、親が過保護だと大人になってからも衝動的な行動が多かったり、自分の欲求が叶わない状況に上手に対処できなくなる可能性があるよ。
アダルトチルドレン
アダルトチルドレンは、機能不全の家族の中で育ち、子供心が満たされずに大人になった人を指す言葉だよ。「子供心」は天真爛漫に過ごすことだけじゃないよね。反抗期に関連する「自立への欲求」や「親への甘え」も子供心だよ。
子どもがアダルトチルドレンになる主な原因は、「不適切な養育」にあるんだ。なかでも、親が過干渉や過保護だった場合、自立に必要な「挑戦→失敗」「挑戦→成功」の体験を、親が子どもから奪ってしまうよね。
反抗期が自立するための表れだとしたら、自立する機会を奪われてきた子どもに反抗期がないのは、当然といえば当然なんだ。
また、親が子どもの助けを必要とする場合も、子どもはアダルトチルドレンになりやすく、自立するための欲求を抑え込んでしまうリスクがあるよ。
たとえば、父親がアルコールの問題を抱えていた場合、子どもは父親や家族関係を維持するために、自己主張を控え反抗期がない状態になるんだ。
アダルトチルドレンについて詳しく知りたい人は、こっちのページで詳しく説明しているよ。
反抗期がなかった場合の性格への影響や問題点
反抗期の有無による性格等への影響については、現時点では実証的なデータはほとんどないんだ。
ここでは監修カウンセラーさんの意見を参考に、先述した「反抗期が無く、かつ自己主張が抑圧されていた場合」の影響を説明していくよ。
不安定な人間関係
反抗期がなかった人は、人間関係が不安定になる場合があるよ。
自分の意見を他者のものとすり合わせる経験が十分になかった場合、自分の欲求が通るまで意見を押し通したり、逆に我慢するかの両極端になりがちなんだ。こういう行動は安定した人間関係をつくりづらく、孤立感を強めてしまい、余計に欲求不満になってしまう可能性もあるんだよ。
ストレスを抱えやすい
反抗期がなく、自分の意見を伝える機会が少なかった人は、他者とかかわるときに我慢しやすい傾向があって、ストレスを溜め込みやすくなってしまう可能性があるよ。
社会に出れば、自分が求めるものとは違う状況から受けるストレスはたくさんあるよね。発散と我慢だけで心と体の健康を維持するのは難しく、心身の不調につながってしまう場合もあるんだ。
強い自我を育めない
第二反抗期は自分探しをする時期だと説明したよね。この時期は人生の意味や価値観を自分で考える期間なんだ。
人生のある時期に哲学的な思考をすると、自分がどういう人間かを知る機会になり、より強いアイデンティティーをつくるきっかけにもなるんだよ。
反抗期は自己主張ができるようになるためだけなく、自分が何者なのかを知る機会でもあるんだ。
反抗期があるのは日本だけ?
欧米では親に対する子どもの反抗期はないと言われているよ。その理由に、親が小さい頃から子どもを対等な人間として見ていることがあげられるんだ。
欧米の家庭では、赤ちゃんは1歳になる前から自分の部屋でひとりで寝るのが当たり前なんだよ。これは、たとえまだひとりで生きられなくても、個性を持ったひとりの人間として、プライベートな空間を尊重する表れでもあるんだ。
この文化の違いを、愛知学泉大学の南教授は絵本の違いから説明しているよ。「おやすみなさいフランシス」という絵本は、暗い部屋で恐怖の中でひとりで寝なければいけない過程を表している絵本で、子どものいる世界と大人のいる世界をはっきり分けて描かれていると指摘しているんだ。6
日本の親からすると、「そんなに怖いなら一緒に寝てあげればいいのに」と思うかもしれないよね。それくらい欧米の子育ては、小さい頃から子どもの自立を重要視しているんだ。
日本における反抗期は、自立への欲求や親からの分離が段階的ではなく突然現れる一方、欧米は、自我が育つ前から自立するのを親が意識しているんだね。小さい頃からひとりの人間として尊重したかかわり方をしているのを考えると、欧米の子どもに反抗期がないのもうなずけるかもね。
前述の富山大学の研究でも、反抗期がなかった要因を「小さい頃から対等な大人として扱ってきた」影響を指摘しているんだ。1
ただし、子どもの成長は自立だけが大事な訳じゃないよね。日本は他人を思いやる文化が強いと知られているけど、子ども時代に時間をかけて十分親に甘えられた経験が、人との連帯感や全体性を重んじる傾向に役立っている可能性もあるんだ。
反抗期に自立を育むかかわり方
反抗期は親にとってストレスもかかるし難しい時期だよね。子どもにとっても自立への欲求と不安が同時にあって、不安定な状況なんだ。
反抗期にある子どもが、ちゃんと自己主張をしながら他者とかかわりを持ち続けるにはどうしたらいいんだろう。
子どもが考えられる環境と時間をつくる
上手に反抗するための基本は、子どもが自分の意見を言える環境をつくってあげることだよ。
反抗期は、自己主張をうまく言葉で言い表せないときに、感情を伴うものになりやすいんだ。「さっさと言いなさい!」ではなく、普段から自分の気持ちや考えを言語化できるように、十分に時間をとってあげるのが重要だよ。
二択三択の会話
小児神経精神科医の石川氏は、反抗期にある子どもには5W1Hの会話ではなく、二択三択の選択肢を提示してあげると良いと説明しているよ。3
つまり、「なんで?」や「どうして?」と尋ねても、反抗期にある子どもは言語力が十分に育っていないため、言葉に詰まってしまい「別に」とか「うるさいなー」と言わざるを得ないケースがあるんだ。
その代わりに、「〜なの?それとも◯◯な感じ?」などのように例をあげてあげると、それが思い通りでなくても、自分の思いを言葉にする手がかりになるよ。
図星を言う
また石川氏によると、反抗期にある子どもに対しては、その子の胸の内にある思いや気持ちを大人が言語化してあげると、子どもは自分の感情や思考に気づけると話しているんだ。3
何となく子どもがイライラしていたら、「なんか嫌なことでもあった?」と聞くと、子どもは自分の感情に気づき、その原因になった出来事に向き合えるようになるんだって。
自分の感情や思考に気づくのは、「自分がどういう人間かを知る」きっかけになり、自我が強くなる時期にはとても大事なんだ。
無条件の肯定
アメリカの子どもが親に対して反抗期がないのは、「I love you」の言葉があるからだという指摘があるよ。7
自尊感情を育てるには、条件的肯定ではなく無条件の肯定が重要だと言われているんだ。条件的肯定は何かができたら褒めることで、無条件の肯定はその人の存在自体を肯定してあげることだよ。
日本には子どもに「I love you」という文化がないため、子どもを褒めるときはどうしても「よくできたね」などのように条件的肯定になりがちなんだ。一方、アメリカの家庭は頻繁に親が子どもに「I love you」を伝えるから、自分を愛してくれている人に対して理不尽な反抗はできない、という心理が働いているんじゃないかと言われているんだよ。
とはいえ、「I love you」以外でも子どもを無条件に肯定してあげられるよ。「大好きだよ〜」でも大丈夫だし、それでも恥ずかしかったら、朝起きたら「おはよう」といい、帰ってきたら「おかえり」といってあげるのもいいね。子どもの目を見てあげるだけでも、相手の存在を認識し尊重することになるよ。
反抗期がなかった大人・まとめ
反抗期のなかった大人についておさえたいポイントは以下の通りだよ。
①反抗期は子どもの自我が成長するとき
②自我が成長すると自己主張ができるようになる
③反抗期は子どもだけでなく親や家族のあり方、時代によっても表れ方が変わる
④反抗期は必然ではない
⑤反抗期の有無よりも子どもがどのように自立しているかが重要
⑥反抗期にある子どもには、自分で欲求を言語化できるよう大人がサポートする
反抗期がないからってその人が自立していないわけではないし、親に対する反抗以外でも、自分の欲求を社会の中でどうやって実現するかを学ぶ機会はあるよ。
反抗期は人が自立するための絶対条件ではないんだ。反抗期がなかった人を一概に心配するのではなく、他者との協調関係の中で自立ができているかが重要だよ。
「良い・悪い」「正しい・正しくない」のような二者択一の物差しではなく、より具体的で個別の状況に配慮してあげる視点が大事なんだ。