最近、「トラウマ」って言葉をよく聞くようになったよね。
「彼氏に振られたのがトラウマで…」
「トラウマ映画の鑑賞が趣味」
「〇〇のトラウマシーン3選!」
こんな感じで、わりとカジュアルに使われることもあるけど、実は「トラウマ」は精神医学の専門用語で厳格な意味があるんだ。
今日はトラウマの正確な意味の理解と、トラウマによる傷つきの癒しかた、克服方法について考えていくよ。
目次
トラウマとは
トラウマとは「死を覚悟するような衝撃的出来事によってつけられる心の傷」のことだよ。
アメリカの精神医学の診断マニュアルでは「実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事」によってつけられた心の傷のことをトラウマと呼んでいるよ。
日常では「ちょっとした辛い出来事」もトラウマと呼ぶことがあるかもしれないけど、厳格には「死を覚悟する出来事による心の傷」をトラウマと呼ぶんだと覚えておくといいかもしれないね。
トラウマを引き起こすもの
次に「死を覚悟する出来事」には、具体的にはどのような出来事が該当するのかをみていこう。
死を覚悟するような出来事は、自分が体験する場合はもちろん、他人が体験するのを目撃した場合もトラウマになる可能性があることが知られているよ。
ちなみに、既にトラウマのある人はこの先の内容を読むことで辛い気持ちになるかもしれないから、次の「トラウマ症状」まで読み飛ばしても構わないよ。無理して読む必要はないから安心してね。
自然災害
自然災害はトラウマの原因になり得るものの一つだよ。地震や津波で家を失ったり、親しい人がなくなる経験をすると、「実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う」体験になるからなんだ。
事件・事故
事件や事故に巻き込まれることもトラウマになり得るよ。
例えば、バスジャック事件の犯人に包丁を突き付けられたり、目の前で車が人をはねるのを目撃してしまったりが具体例になるね。
性的犯罪被害も当然トラウマの原因なるんだ。性犯罪被害で死ぬ・重傷を負うといったことがなかったとしても、「人としての尊厳」が損なわれる体験になるからだよ。殺されるのと同じくらい、もしくはそれ以上に辛いことなんだ。
破壊的な対人関係
繰り返される虐待や暴力、いじめもトラウマの原因になるよ。このような「いつ傷つけられても不思議ではない」破壊的な人間関係の中に身を置いていると、常に自分の身の安全を守るために警戒し続けなければならないからとっても辛いよね。それに自分らしく自由にできる「人としての尊厳」も著しく損なわれてしまうんだ。
死別
人との別れ、特に家族や恋人などの親しい人との急な死別は、残された人の心に大きな傷を残すことがあるよ。それまで何気なく当たり前に感じていた「命」が突然永遠に失われる体験は、人に「命」や「死」のことを強く考えさせる体験になるからなんだ。
トラウマ症状
トラウマがあると、「トラウマがあれば誰にでも生じる反応」から「日常に支障をきたすほどの反応」まで様々な反応が生じることが知られているよ。このような反応のことを「トラウマ反応」と 言うんだ。
トラウマ反応(症状)が「認知」「感情」「身体」「行動」にどのような変化をもたらすかをみていくことにするね。
認知の変化
トラウマは、人の認知、特に記憶に大きな影響を及ぼすんだ。「認知」とは、人の脳のあらゆる働きを指す言葉で「考え方」や「記憶」「知覚」などを含むよ。
認知のうち記憶に与える代表的なトラウマの影響が「解離」だよ。
解離とは、トラウマ体験にまつわる記憶の全部あるいは一部が欠落してしまう現象のことなんだ。解離することで辛い体験から距離を置いて心を守っているんだね。
ただ、解離や「思い出すまい」とする努力がかえってフラッシュバックを引き起こしてしまうと言われているよ。フラッシュバックとはトラウマ記憶が意図しないタイミングで突然思い出されることだね。
箱の中に物をギュウギュウに詰めていたら、ある日限界がきて箱から中の物が飛び出してしまうイメージだよ。
また、トラウマを体験する前後で世界観が180度変わってしまうこともあるんだ。例えば、夜中の帰り道に犯罪被害にあった場合、「それなりに安全な世界」という世界観から「普通に生きているだけだといつ危険な目にあってもおかしくない世界」という世界観に変わってしまうかもしれないね。
こうなると、その世界に適応するべく、今までとは異なるありとあらゆる努力をせざるを得なくなるかもしれないんだ。例えば、夜帰るときには必ず誰か知り合いがいないといけないとか、暗くなったら何が何でも外に出ない、とかだね。
トラウマ体験はそれ自体が辛いだけではなく、その後の生活も辛く負担がかかるものにしてしまうとても厄介な出来事なんだ。
感情の変化
トラウマを経験すると、警戒心が強まったり、自己嫌悪に陥ったり、落ち込んだり憂うつになったり不安になったりしやすくなるよ。
気持ちが不安定になるのとは逆に、感情が乏しくなって、ぼーっとしている時間が増えることもあるんだ。
身体の変化
トラウマ体験をすると、不眠、動悸、頭痛、腹痛、めまい、吐き気、発汗、パニック症状など身体にも影響が見られるようになるよ。恐怖や不安などの感情の変化に伴って過度の緊張状態になることが原因だと考えられているんだ。
行動の変化
トラウマ体験があったことを思い出させる場所を避けたり、安心を求めて食べ物や薬、アルコールなどに依存するなど、行動の変化がみられることもあるよ。
トラウマは目に見ない一方行動は目に見えるから、他人には行動の変化しか認識されず、「どうしてそんなことをするのか?」がなかなか伝わり辛いんだ。他人に理解されないことも、トラウマに伴うしんどさの原因になるよ。
トラウマとPTSDの違い
「トラウマ」と聞いて「PTSD」を連想する人も多いよね。中にはトラウマとPTSDの違いについて知りたい人もいるかもしれない。
ここでは、この二つの違いについて簡単にみていこう。
トラウマは様々な問題を引き起こす心の傷
繰り返すように、トラウマは「死を覚悟する出来事によってつけられた心の傷」を言うよ。
この心の傷は、様々な問題を引き起こすんだ。「トラウマ症状」のところで話した様々な変化がまさにそうだね。
同じ身体の傷でも、傷を負った人自身の免疫力や環境の違いによって、すぐに治ることもあれば、逆に膿んでしまったり、黴菌が入って他の症状を引き起こしたり、傷は治っても後遺症が残ったりすることもあるよね。
トラウマもそれと同じで、どのような経過を辿るかは人それぞれなんだ。
ある人は「落ち込んだり憂うつになったり不安になったり」という気分の変化が顕著になって、「うつ病」と診断されるかもしれない。別の人は、食べ物で安心を得ようとする行動がエスカレートすることで「摂食障害」と診断されることがあるかもしれない。
このように「トラウマ」は「心の傷」のことで、そこから様々な問題が生じるリスクがあるものなんだ。
PTSDはトラウマから引き起こされる問題の一つ
PTSDはトラウマが原因になっているもので、特に以下の症状が見られるものを言うよ。
①トラウマ体験の記憶を繰り返し思い出してしまう
②トラウマ体験に関する事柄を回避しつづけている
③気持ちが落ち着かない状態が続いている
上記3つの症状のために、本人が著しく苦痛を感じている場合に、PTSDと診断されるんだ。
なお、専門的には①を再体験、②を回避、③を過覚醒と言うよ。
PTSDについては、また今度記事にするね!
トラウマの克服法
心の傷は、様々な問題を引き起こすリスクを孕んでいるから、できるだけ早めに対処することが大切だよ。ここでは簡単に出来て効果のあるものを紹介するね。
症状であることを受け入れる
トラウマから引き起こされる種々の変化は「症状」であって、心が弱いからじゃないんだ。まずはそのことを受け入れよう。
トラウマ体験をすると、「なぜいつまでも同じことでクヨクヨするんだ」という気持ちになってしまうことがあるよね。
だけど、トラウマがあるとトラウマ体験を繰り返し意図せず思い出してしまったり、気持ちが落ち込んだりすることはごく普通のことで自然のことなんだ。自分を責める必要は全くないことなんだよ。
自分を責めるとますます自分に自信がなくなっちゃうよね。だから自分を責めたくなる気持ちになったら「トラウマがあるとこうなるのは当たり前」と、トラウマに伴う症状だと受け入れることが何よりも大切なことなんだ。
安心安全な場所でトラウマについて話す
否定的なことを言わず共感的に聞いてくれる安心安全な人にトラウマ体験を話してみよう。
トラウマに伴う辛い記憶は、できることなら思い出したくないよね。思い出す毎に辛くなりそうだから、そう思うのも無理はないよ。
でも、実は記憶は思い出す毎に少しずつ変わっていくことが知られているんだ。だから、確かにトラウマに伴う記憶を思い出すのは最初は辛いけど、思い出す毎に少しずつ楽になっていくよ。
「せっかく勇気をもって話したのに、「いつまでもクヨクヨするな」と言われた」なんて台無しなことにならないために、話す相手はしっかりと選んでね。
テトリスをやる
一見すると冗談のように思えるかもしれないけど、トラウマ記憶を思い出したらその後にテトリスをするのが効果的だと言われているんだ。
なぜかというと、トラウマ記憶を一度思い出すと、その記憶は「扁桃体」という脳の部位に再び固定されるのだけど、テトリスをすることで「扁桃体」がテトリスをこなすのに忙しくなるので、記憶の再固定にまで手が回らなくなるからなんだ。
詳しくは「エピソード記憶の記事」を読んでみてね!
日々のルーティンを意識的にこなす
トラウマ体験は、様々な「変化」を体験者に引き起こすんだ。
「変化」は人にとって大きなストレスになることが知られているよ。人が感じるもっとも大きなストレスは、「配偶者の死」だと言われているけど、これは「いつも一緒にいた人がいなくなる変化」だからと考えられそうだね。
人は変化に弱いからこそ、「変わらないものがある」体験がトラウマには有効になるんだ。
「あれもこれも変わってしまった」と感じるのはとても大きなストレスになるけど、日々のルーティンなど「変わったこともあるけど、これは変わらずやれている」感覚は、とても大きな安心感になるよ。
「面倒だけど、毎日同じ時間に歯を磨けている」「週末は本を読んでいたから、それはどうしても続けたい」など、このような積み重ねがトラウマを克服する大きな原動力になるんだ。
紙にトラウマを書きだす
嫌な出来事を紙に書き出すと効果があることは、色々な研究でわかっているんだ。書き出し方には様々なものがあるけど、もっとも簡単な方法の一つは「ネガティブ・ダストビン」だよ。
ネガティブ・ダストビンはスペインのオートノマ大学の研究チームが実証した方法で、やり方はとっても簡単なんだ。
「嫌なことを紙に書いて、書き終わったらビリビリに破いて捨てる」。これだけだよ。
こうするだけで、本当に嫌なことが捨て去られたと脳が錯覚するんだ。
【番外編】専門的な治療を受ける
トラウマを克服するための簡単にできる方法をいくつか紹介したよ。興味のある人はぜひ自分ができそうなものから取り入れてみてね!
けど、もしここに書いた方法でも上手くいかない場合は、専門家による治療を受けてみることも検討してほしいんだ。その際は、できるだけ「トラウマを専門にしている治療法」を選択してね。
トラウマ体験から生じた問題に特化した治療法の方が、 トラウマ体験に焦点をあてない一般的な心理療法よりも効果があるといわれているからなんだ。
行けそうな医療機関が見つかったら、「トラウマ治療に特化した心理療法を受けられますか?」と尋ねてみると良いかもしれないね。
トラウマ症状には早めの対応を
ふだん何気なく「トラウマ」という言葉を使っているけど、専門的には「実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事」によってつけられた心の傷のことを「トラウマ」と言うんだね。
トラウマは様々な問題を引き起こすリスクを孕んでいるから、はやめに対処するのがいいみたい。
この記事では簡単にできる克服法を挙げたから、是非試してみてね。