「心が強い」ってどういうことを言うんだろう。
負けないこと? 逃げ出さないこと? 確かにそれも強さかもしれないね。けど、人は生きていれば必ず負けることもあるし、逃げたくなることもあるんだ。逃げた方がいいことだってあるよ。
今回解説していく「レジリエンス」を知れば、メンタルヘルス、心理学において本当に大事にすべき心の強さについて理解できるよ。
目次
レジリエンスとは?
レジリエンスとは、困難があっても柔軟に回復していく力のことを指す言葉だよ。もともとは金属の板などが曲げられても元に戻ろうとする力を意味する言葉だったんだけど、人の心がもつ回復力にあてはめてレジリエンスと呼ぶようになったんだ。
福岡大の心理学者である大上渉氏らによれば、「心の強さ」には二つあり、一つが「へこたれない心」であるハーディネス、もう一つが今回紹介するレジリエンスなんだって。
心理学では、へこたれないことはもちろん、つまづいて転んだときに起き方を知っていることも、心の強さの表れだと考えているんだね。
レジリエンスは心理学において重要なテーマなんだけど、重要であるがゆえに急速に広まったためか、概念の整理が追い付いていないんだ。ここでは祐宗氏らの研究を参考に、レジリエンスの構成要素であるソーシャルサポート、自己効力感、社会性についてみていくよ。
また、ビジネス領域でもレジリエンスの概念が用いられることがあるから、その点も軽く触れていこう。
ソーシャルサポート
レジリエンスを発揮するには、困ったときに協力や手助けしてくれる他者の存在がとても重要になってくるんだ。その存在をソーシャルサポートというよ。
ソーシャルサポートには主に、慰めや共感、同情、安心感などの情緒的サポートと、食料、金銭、寝床などの物理的サポートの二つがあるんだ。
トラウマ体験後にPSTDを発症するかしないかを分けるもっとも大きな要因としてソーシャルサポートの有無が挙げられるくらい、とても重要な要素なんだよ。
確かに、ソーシャルサポートがたくさんあれば「大変だけど何とかなるかも」と思えるから、レジリエンスの構成要素の一つとして納得感があるよね。
自己効力感
レジリエンスを発揮するには、目の前の課題に対して「自分なら対応できる」と思える自信も必要になってくるんだ。この自信を自己効力感というよ。
似た言葉に「自己肯定感」があるけど、こちらは「自分の存在自体」への自信のことだから、やや焦点をあてているところが違うんだ。
自己効力感はあくまでも「旅行の計画なら俺に任せろ」「私、料理得意なの」といったように、課題に対する「なんとかなりそう」という感覚である点が異なるよ。
自己効力感も、確かに「大変だけど何とかなるかも」と思えるから、レジリエンスの構成要素の一つだと言われてもうなずけるね。
社会性
レジリエンスを発揮するには、他者と上手に調整していく能力、つまり社会性も求められるよ。
生きていれば必ず人とのかかわりは発生するし、中には多少気に入らない人もいるかもしれない。けど、そんな人とも上手くやっていくことができれば、ストレスも減るし、ソーシャルサポートを受けれる可能性も高まるよね。
ここでいう「上手くやる」は必ずしも「仲良くやる」を意味しないことに注意してね。相手に合わせて適切に距離を取ることも、立派な「上手くやる」だよ。
社会性も、直接ソーシャルサポートにつながることを考えると、レジリエンスの構成要素の一つだと言われても違和感はないよね。
ちなみに他者と上手に調整していく能力を高めたい場合は、アサーションが参考になるから、「アサーションとは?」の記事ものぞいてみて。
ビジネスにおけるレジリエンス
ビジネスではどのように「レジリエンス」が使われているのかも確認しておこう。
ビジネス上では、「組織に対してのレジリエンス」と「従業員に対してのレジリエンス」の二つがあるよ。
組織に対してのレジリエンスは、災害やイノベーションなどで生じた環境の変化に適応する柔軟性を意味しているんだ。
一方、従業員に対してのレジリエンスは、ストレス反応や課題を処理する能力を意味しているよ。
このように文脈によって多少「レジリエンス」が持つ意味が変わってくるから、どのような話の流れで出てきたのかを確認する必要がありそうだね。
この記事では心理学でのレジリエンスを中心に解説するよ。
レジリエンスを高めるメリット
レジリエンスを高めると、どんなメリットがあるのかを具体的にみていこう。
レジリエンスはストレスに直接立ち向かう力ではないものの、たとえストレスにさらされたとしても、そこから回復していく力のことだよ。大樹とはまた異なる、柳のような強さが得られるんだ。
心の傷からの回復が早くなる
特筆すべきレジリエンスを高めることのメリットは、なんといっても「心の傷からの回復が早くなる」だよ。
様々な研究でわかっていることは、同じような悲惨な出来事に遭遇したとしても、その後に適応できる人とそうではない人がいることなんだ。
この違いを生むのがまさにレジリエンスの高さだよ。トラウマ体験が起きたとしても、レジリエンスが高い人は、PSTDを発症するリスクを低減することができるんだ。
傷を負っても、それが化膿したり、傷跡が残ったりしなければ、より健康でいられる状態を維持できるよね。
回復が早い理由は、さっき話した通りソーシャルサポートをたくさん利用できるからというのもそうだけど、将来に対して楽観的で具体的な見通しをもつ傾向があるからでもあるんだ。
心の傷となるトラウマ記憶は「これはもう終わったこと」「過去のこと」と脳がなかなか思ってくれないためにいつまでも忘れられない傾向があるよ。でも、レジリエンスを高めていくことで、意識を「将来のこと」に向けることができるようになるんだ。
トラウマと記憶と脳の関係について詳しく知りたい人は、嫌な記憶の消し方についての記事も参考にしてみて。
人間関係が良好になる
人間関係が良好になるのも、レジリエンスを高めていくことのメリットだよ。
レジリエンスが高い人は感情の調整が上手であることが知られているんだ。感情が高まっているときでさえ、自分を理論的に見ることができるんだね。
「今自分は相手の態度に腹が立っているんだな」
「でもここで声を荒げるようなことをしたら、余計に関係がこじれるな」
「いったん時間を取ろう」
「もしかしたら、自分にも相手を不快にさせる言動があったかもしれない」
といったように、俯瞰的に自分をみることができるんだ。
人の悩みの多くは人間関係の悩みと言われているから、人間関係を良好に保つことで悩みを少なめに抑えられるのは大きな強みになるよ。
感情を調整するにはメタ認知能力が欠かせないよ。メタ認知を鍛えたい人はメタ認知をわかりやすく解説した記事にもあたってみてね。
失敗しても挑戦しようと思える
たとえ失敗しても、また挑戦しようと思えるようになることも、レジリエンスを高めることのメリットだよ。
レジリエンスが高い人は、自分の能力を伸ばして、粘り強く問題を解決していこうとする動機づけが高いことが知られているんだ。
平野氏によれば、レジリエンスが高い人は、いい意味で楽観的で問題解決に前向きな傾向があるそう。仮に失敗しても「次頑張ろう」と思えるんだね。
失敗は成功の母と言われることがるように、失敗と成功とは対をなすものではないんだ。成功はいくつかの失敗の先にあるものなんだよ。レジリエンスを高めていけば、より多くの失敗を重ねることができ、その分成功に近づきやすくなっていくんだね。
「失敗を恐れているわけではないけど、なかなか課題に手をつけるモチベーションが上がらないんだ」という人もいるよね。そんな人はもしかしたら学習性無気力の状態なのかもしれないね。心当たりがある人は、学習性無気力を克服する方法を書いた記事も参考にしてほしいな。
レジリエンスの鍛え方
レジリエンスは鍛えていくことができるよ。
もともとレジリエンスの高い人と低い人がいるのは事実だけど、必ずしも一部の人だけが持つ特殊能力というわけではないんだ。ちょっとした心持ちで誰もがレジリエンスを高めていけるよ。
アメリカ心理学会が提唱している事柄を元に、具体的にどんな方法があるか見ていこう。
共感してくれる人と交流する
自分の仲間でいてくれて、共感的に接してくれる人たちと交流することは、レジリエンスを高めてくれるよ。
共感的で温かいつながりを感じることで、「1人じゃない」「大丈夫そう」という気持ちになるからなんだ。
自分で自分を共感的にケアしてあげることもレジリエンスを高めるのには有効だよ。自分に共感してみるワークを用意してみたから興味ある人はやってみてね。
今不安になっていることを書いてみよう
自分を温かく共感してみよう
レジリエンスは「回復力」を意味するので、小さな子どもにとっては、保護者の温かい関わりがとても重要になってくるよ。スパルタ式に困難体験をさせるとレジリエンスが育つと思うかもしれないけど、そうではないんだ。安心・安全な環境で人とつながりながら、のびのびと学ぶ中でこそ育まれるものなんだよ。
ちなみに、子どもが保護者と安心・安全なつながりを感じられることを愛着というんだ。愛着はレジリエンスの基盤となっていると言えるよ。
愛着については「大人の愛着障害とは?」の記事が詳しいから、興味ある方はこちらも読んでみてね。
身体をメンテナンスする
身体を労わって、メンテナンスすることもレジリエンスを高めてくれるよ。
身体は資本と言われるくらい、身体のコンディションは生きていく上でとても大切な前提となるよね。心と身体はつながっているから、身体をメンテナンスすることは、心のレジリエンスを高めることにもつながっていくんだ。
適切な栄養、十分な睡眠、適度な運動などは身体をメンテナンスするのに持ってこいだよ。
ちなみに、メンテナンスするには「いつもの自分」がどういう状態かを把握しておく必要があるよね。「いつもの自分」とは違う自分が現れたときこそ、より重点的にメンテナンスが必要であることのサインになるからだよ。
「いつもの自分」に気づく方法についてはセルフケアの記事も参考になるよ。
ジャーナリング
ジャーナリングによって自分や将来の肯定的な側面に目を向けることもレジリエンスを高めてくれるんだ。
ジャーナリングとは、頭に浮かぶことを決まった時間内で自由に書き出すことで、「書く瞑想」としても知られているものだよ。
鉛筆を用いて五感をフル活用しながら紙に頭に浮かんだことを書いていくことで、モヤモヤした気持ちが整理され、より俯瞰的に自分や将来について考えることができるようになるんだ。
ジャーナリングをやってみたい人は、オンラインでできるジャーナリングから始めてみてね。こちらのジャーナリングのやり方について解説した記事から取り組めるよ。
また、ジャーナリングを通じて自分の気持ちや考え方を俯瞰して見つめること自体が、ネガティブ・ケイパビリティにつながっていくはずだよ。ネガティブ・ケイパビリティとは短絡的に答えを出さず、どっしりと時が来るのを待つことができる能力のことなんだ。
ネガティブ・ケイパビリティがあれば、「今はどうしたら良いかわからないけど、まあ、そのうち何とかなるだろう」といたずらにエネルギーを消耗させずに回復への余力にしていけるよ。ネガティブ・ケイパビリティについての詳しい記事もあるからあわせて読んでみてね。
人を助ける
人を助けることもレジリエンスを高めてくれるよ。いわゆる他者貢献だね。
人は、「自分は誰かの役に立つことができる」「貢献できる」と感じられたときに、自己肯定感や自己効力感、つながりなどを感じることができるんだ。
また、人には「互恵性」があることも知られているよ。互恵性とは「協力してくれたら、協力し返す」のことなんだ。ギブアンドテイクと考えてもらってもいいよ。人は何かしてもらったら、して返してあげたいと感じるものなんだ。
だから、他者に貢献することで普段から信用の貯金を貯めておくことができれば、いざというときにその信用を「誰かからの手助け」に交換することができるよ。1人では乗り越えられないことも、誰かの助けがあれば乗り越えられるかもしれないね。
レジリエンスまとめ
レジリエンスとは、「心の回復力」を指す言葉なんだね。
「強さ」というと、倒れないことや転ばないことをイメージしがちだけど、本当の強さは「立ち上がること」を意味するレジリエンスの方なんだ。
レジリエンスが高いと、トラウマを負うリスクを下げることができたり、挑戦し続ける力がわいたりと様々なメリットがあるよ。
レジリエンスを鍛えるためには、自分を大切にしたり、他者との信頼関係を構築していくことが大切なんだ。自分を大切にするための「自分を共感してみるワーク」も用意したから、是非やってみてね。