「HSP」って言葉を聞いたことはあるかな。HSPとは、「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の略で、「生まれつき敏感で刺激に過剰反応してしまう気質を持つ人」のことだよ。この気質を持つ人は職場や家庭など生活の中で消耗しやすく、生きづらさを感じる人が多いと言われているんだ。
HSPを知った人の中には、自分の生きづらさに名前がついて安心した人もいるかもしれないね。
今回はそんなHSPについて、臨床心理士の監修のもと心理学的な背景を踏まえて解説していくよ。HSPについての正しい知識だけでなく、「自分がHSPだと思ったときの対処法」や「診断可能か」など、具体的に役立つ情報をまとめているから、ぜひ見てみてね。
目次
「HSP」とは? 定義と特徴
HSPはアメリカの心理学者エレイン・アーロン氏が発表した説に基づいて広まった概念で、「人種や性別に関わらずどの国にも一定の割合でいる、周囲からの感覚刺激に対して敏感な性質を持っている人」のことだよ。
HSPの代表的な特性としては「DOES(ダズ)」と呼ばれる4つの特性と「環境感受性の高さ」があるんだ。どちらもあまり耳馴染みのない言葉だと思うから、わかりやすく解説していくね。
HSPの特性①:HSPの4つの特徴「DOES(ダズ)」
はじめに、アーロン氏の提唱したHSPの特性について見ていこう。
アーロン博士によると、HSPは「DOES(ダズ)」と呼ばれる以下の4つの特性を全て満たすものとされているよ。
深く考える【Depth of processing】
・物事を始めるまでにあれこれ考え、時間がかかる
・些細な出来事も深読みしてしまう
過剰に刺激を受ける【Overstimulation】
・人混みや大きな音が苦手
・他人の些細な言葉がいつまでも頭に残る
感情が揺さぶられやすく、共感しやすい【Empathy and emotional responsiveness】
・人が怒られているのを見て自分のことのように感じたり、傷ついたりする
・物語の登場人物に感情移入しやすい
・他人の仕草や目線、声色などに敏感で、その人の機嫌や考えがわかる気がする
小さな刺激に気付きやすい【Sensitivity to subtleties】
・時計の音や家電の音など、小さな音が気になる
・コンビニの匂いやタバコの匂いなどで気分が悪くなる
・カフェインや添加物に敏感に反応する
・チクチクする素材の服やタグが我慢できないほど気になる
HSPの特性②:環境感受性が高い
HSPの性質を理解する上で大事なのが「環境感受性」だよ。環境感受性について理解しておくことで、HSPの弱みだけでなく、強みについても知ることができるんだ。
HSPの人が持つDOESのような敏感さの背景には環境感受性の高さが影響していると言われているよ。環境感受性とは簡単に言えば「周りからの影響の受けやすさ」のことなんだ。環境感受性には中枢神経系の敏感さが関係していて、もともとの遺伝的な基盤と環境からの影響がおよそ50%ずつ組み合わさって形成されると考えられているよ。
例えば同じような環境で育った兄弟でも、まったく性格や能力が違うなんてことはよくあるよね。これは人それぞれ環境からの刺激の受けやすさが違うからなんだ。
環境感受性を研究していく中で「HSPは人口の20%」「多数派の非HSPに対してHSPは少数派」とされた時期もあったよ。でも最新の研究では、「HSPの根っこにある環境感受性は低い人から高い人まで連続的なグラデーションで、HSPとそうでない人を分ける絶対的な基準はない」というのがスタンダードな考え方なんだ。
環境感受性が高い人は良くも悪くも環境からの刺激に影響されやすく、良い環境からはポジティブな影響を受け、悪い環境からはネガティブな影響を受けることが研究でも確認されているよ。こうした研究結果からくるイメージが「HSPの人は感性が豊かで、場所を変えれば才能が発揮できる」といった考え方の背景にあるのかもしれないね。
感受性にまつわる誤解をまとめると以下のようになるよ。
環境感受性=良い刺激と悪い刺激両方の受けやすさの個人差
誤解:感受性が高い=才能豊かで繊細、生きづらい
正解:感受性が高い=周囲の環境から良くも悪くも影響を受けやすい
HSPと間違えられやすい病気・疾患概念
HSPは「周りから影響を受けやすい」特性を持っていることから、ストレスフルな環境に置かれたときに体調を崩しやすいなどの症状が出やすいとも言われているよ。
一方で「自分はHSPだから生きづらいんだ」とHSPという部分にだけ注目してしまうとそれ以外の要因に目が向かず、適切な治療に繋がれない恐れもあるんだ。ここではHSPと間違われることの多いものを紹介するね。
抑うつ状態(うつ病、適応障害)
「気分が落ち込む」「涙もろくなった」「悲観的な考えや絶望感が湧いて止まらない」といった気分症状がある場合には、うつ病や適応障害など抑うつ状態が現れる疾患が考えられるよ。特に食欲の減退や体重の急激な増加・減少、めまいや頭痛などの身体に現れる症状がある場合は早めに専門機関の受診を考えてみてね。
発達障害
ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD、LDといった発達障害の人も「大きな音や金属のこすれる音が苦手」「タバコやインクの匂いで気持ち悪くなる」などHSPと似た感覚過敏を持っていることがあるんだ。
ただ、ASDとHSPの脳機能を比較した研究1では、両者の感覚の特異性に臨床的な類似点があるものの、共感や報酬系の働きが異なると報告されているよ。
HSPと発達障害は似た特徴を持つだけに、その共通点や相違点は研究者の間でも注目されているんだね。
パーソナリティ障害
「他人からどう思われているかを過剰に気にする」「傷つけられたという感情を持ちやすい」「恥や屈辱感を感じやすい」といった「過敏型自己愛」の性質を持つ人も、HSPと関連するという指摘があるよ。
実際に最近の研究2では、感覚処理感受性の高さと過敏型自己愛の間に中程度の相関関係があることが示されているんだ。
HSPという概念に惹かれる背景には、「好きになれない自分の性格」を「素晴らしい才能を秘めた性格」と読み替えることで傷つきを避けようとする心の働きがあるのかもしれないね。
他にも「本音を言おうとすると涙が出てくる」ときの「こんなことを言ったらどう思われるだろう」「否定されるんじゃないか」といった不安感も、背後に過敏になった自己愛が関与していることが考えられるんだ。
HSP的な苦しさの対処法
次にHSP的な苦しさの解消法について解説していくね。
HSPは疾患概念ではないから、HSPそれ自体の治療法も存在しないんだ。ただ、「HSPあるある」として共有される悩みや葛藤の多くは、実際の臨床場面でも語られるものが多いため、心理学的な知識やテクニックも使えるよ。そのテクニックを一緒に見ていこう。
自他の境界線を意識する
「空気を読みすぎて自分の意見を言えない」「気を使いすぎて疲れてしまう」「他人が怒られていると自分が怒られているように感じてつらい」といった共感性の高さからくる苦しさがあるときには、背後に自他境界の曖昧さが潜んでいることがあるよ。
自他境界とは「自分と他人は違う存在だと区別する境界線」のことだよ。自他境界が曖昧な状態では、「怒られている人を見ると自分も傷つく」「嫌われるのが怖くて自分の意見を言えない」といった問題が起きてくるんだ。
共感性とは、「本来自分のものではない感情体験を、自分のことのように体験する性質」のこと。つまり共感性が高いということは、「自他境界が曖昧で、相手と自分を切り分けるのが苦手で、感情的に反応してしまう」ことだとも言えるんだね。
こうした自他境界の性質を踏まえると、HSPの文脈でよく語られる「人の気持ちを感じ取りすぎてつらい」ことも、本当の「相手の気持ち」を感じ取っているわけではなく、表情や声色を通じて想像した「(自分が思う)相手の気持ち」に飲み込まれてしまっていることが多いとも考えられるんだ。
じゃあ、はっきりした自他境界を作るにはどうしたらいいんだろう。
まずは簡単なことから始めよう。食べ物や飲み物、音楽や運動、リラクゼーションなど、自分にとってシンプルな快感を探してみるのがおすすめだよ。「自分はこれが好きで、こんな風に過ごしたい」と他人とは違う自分らしさを発見することで、自他境界を認識するきっかけになるとともに、ストレスの解消にもつながるんだ。
ココロジーでは自他境界の作り方も詳しくまとめているから、そちらもぜひ見てみてね。
「HSP」のラベルではなく自分自身を見つめる
HSP的な性質を持つ人は、周囲の反応や刺激を敏感に感じ取れるぶん、感じ取った情報の整理に苦労することが多いんだ。そのため「HSP」のラベルによって自分をわかりやすくまとめてくれた感じが得られ安心する、といった部分があるかもしれないね。
一方「HSP」のラベルにとらわれすぎると、自分らしさを見失ってしまったり自分の個性を発揮できなくなってしまったりと、損になってしまうことも多いんだ。
HSPというラベルや周囲の刺激に振り回されないようにするには、メンタライゼーションのスキルを身につけるのが効果的だよ。メンタライゼーションとは「自分や他人の精神状態に注意を向け、考えたり感じること」なんだ。
メンタライゼーションのスキルが身につくと、他人の気持ちをしっかりとした距離を置いた上で尊重できるようになって、人間関係が改善されたり、自己肯定感が上がったりとポジティブな変化があることが知られているよ。
HSPという言葉で安心感を得た後は「自分史」などを通じて自己理解を深めてみるのがおすすめ。自分の人生のイベントを行動や感情とともに振り返ることで、メンタライゼーションのスキルが身についていくよ。自分史の作り方やスマホで作れるページは下の記事でまとめているから、ぜひ活用してみてね。
HSPや診断基準に関するQ&A
最後に、HSPに関してよくある質問に、一問一答形式で答えていくよ。
HSPは書籍やブログなどを通じてブームになっているけど、同時に正確ではない情報がたくさん発信されているトピックでもあるんだ。HSPの曖昧なラベルに振り回されず、自分の悩みと向き合い解決するには正確な情報を知ることが大切だよ。HSPに関して質問の多い事項をQ&A形式で紹介するね。
Q. HSPは診断してもらえるの?
A. HSPかどうかを医学的に診断する基準がないため、診断はできない
HSPは疾患概念ではなく個人の特性だから、「HSPと診断される」「HSP専門の治療法がある」ことはないんだ。
HSPで検索すると、「HSP診断」のようなサイトも出てくるけど、HSP診断の内容は実際の研究で使われているものとは違って、科学的とは言えないものが多いよ。そのためウェブの診断を通じて自分がHSPだと判断するのは専門家の視点からは推奨できないんだ。
一方で、HSP診断の結果ではなく「HSP診断にどのように回答したか」は医師やカウンセラーに有益な情報になることもあるんだ。HSP的な困りごとを相談したいときは「あなたはHSPです」といった結果のページではなく、回答途中のページのスクショを持参したりして専門家の判断材料を増やしてあげよう。
実際にHSPかどうか診断してほしいと思ったときは、下の「Q. HSPだと思ったらどうすればいいの?」を参考にしてね。
Q. HSPは生まれつきなの?
A. 「生まれが半分、育ちが半分」だと言われている
HSPは生まれつきの遺伝的なものと思われがちだけど、実際のところ遺伝的に説明できるのは50%ほどで、残りの50%は環境と育ち方によって変わるんだって。
生まれつきの感受性遺伝子と小さな頃の環境とが絡み合って、感受性に関わる神経系が形成されると言われているんだ。
Q. HSPには「HSS型HSP」「HSE型HSP」などの種類があるって本当?
A. 「〇〇型HSP」といったタイプ分けをした心理学的な研究は存在しない
HSPの提唱者でもあるアーロン氏はHSPの中にも外交的な人や内向的な人、刺激を求める人など多様な傾向があると述べているものの、明確に「〇〇型HSP」のようにはっきりと区別分類できるものとしては定義していないんだ。
心理学的な研究の中でも「〇〇型HSP」のようなタイプ分けを支持する研究は行われておらず、このことからも「〇〇型HSP」のようなタイプ分けは俗説に過ぎないと言われているよ。
一方でタイプ分けが流行った理由としては、HSPの特徴とされるものに当てはまらなかった人の不安感や、血液型診断のような面白さがあるのかもしれないね。
友達と「自分は◯◯型HSPだ〜」と話のきっかけにするには面白いけど、HSPのタイプ分類に科学的な根拠は一切ない、という点は覚えておくといいかもね。
Q. HSP=繊細で生きづらい人なの?
A. 「HSP=繊細で生きづらい人」ではない
HSPはあくまで「環境感受性が高く、周囲の刺激から影響を受けやすい人」以上の意味はないよ。そのためHSPを生きづらさと「直接的に」結びつけるのは学術的には正しくないんだ。
HSPについて、学術的な視点でより深く知りたい人は「Japan Sensitivity Research」を見るのがオススメ。環境感受性を専門とする心理学者が研究にもとづくHSP情報を共有してくれている信頼性の高いサイトだよ。
Q. HSPだと思ったらどうすればいいの?
A. 自分をHSPだと思ったきっかけや、自分固有の生きづらさを深めて言語化してみよう。それでも生きづらさが解消されないときには専門家の力を使ってみよう。
自分がHSPだと思ったときは、その背景にある生きづらさや「自分はHSPというラベルに何を求めているのか」を深く考えて、言語化してみてね。
自分の生きづらさをHSPだけに結びつけてしまうと、自分の困りごとや自分自身の考え方、価値観の輪郭が見えにくくなってしまって、自分の適性や能力を踏まえた環境作りが難しくなってしまうことがあるんだ。
そうは言っても、自分の生きづらさにHSPという名前がついたことで安心感が得られた人もいるよね。HSPという言葉で一度落ち着けたら、次のステップとして自分史の作成や自他境界を意識する取り組みを始めてみるのはどうかな。それでも生きづらさが解消されないときには、心療内科や臨床心理士といった専門家の力を借りるのも検討してみるのもいいと思う。きっと自分らしく快適に生きるための助けになってくれるはずだよ。
専門家を探すときの注意点は、「HSP専門カウンセラー」や「HSPの治療」を掲げている治療者は避けることだよ。上でも触れたようにHSPは医学的な診断基準がなく、病気や障害としては扱われていないため「HSP専門の治療者」という存在自体がありえないんだ。「HSP専門」を掲げる人は心理学的な知識を習得していない人が多く、苦しさの背景にある本当の悩みを分析しきれずわかってくれなかったり、傷つけられてしまうことがあるよ。
よいカウンセラーの選び方についてはココロジーでも詳しく解説しているから、ぜひ参考にしてみてね。
HSPの特徴まとめ
「hsp」に関するポイントは以下の3つだよ。
①HSPは医学的な診断基準のある病気や障害ではなく、診断や治療の対象ではない
②HSP的な苦しさの背景には、他の疾患や障害が隠れていることがある
③HSPというラベルと適切な距離感を保ち自己理解を深めていくことがHSP的な苦しさの解消にも繋がる
HSPはたくさんの人の心を引きつける概念であると同時に、ラベルに惑わされて自分を見失ったり、HSPビジネスのターゲットになって傷つけられる危険性もある難しい概念なんだ。だからこそ、きちんとした知識を知っておくことが大切だよ。
もちろん、自分をHSPだと感じた気持ちが悪いわけじゃないんだ。「どうして自分をHSPだと感じたんだろう」という問いを、自分自身をより深く知るためのきっかけにしてみてね。