新型コロナが流行しているせいで、会いたい人と直接会って話すことが難しくなってきているよね。こんな状況だからこそ、改めて「人とのつながり」の大切さを痛感するようになったという人も多いんじゃないかな?
心理学では、人と人とのつながりにおける肯定的な感覚のことを「コミュニティ感覚」と呼んでいるんだ。コミュニティ感覚は、人生への満足感、孤独感の低さ、仕事の満足度などと深い関連があるといわれていて、今の時代にこそ求められる概念かもしれないね。
コミュニティ感覚は心理学の専門家でも知らない人が多いくらいまだまだマイナーな概念だけど、とても大切な考えだからこれを機に一緒に勉強していけたら嬉しいな。
自分の所属するコミュニティはコミュニティ感覚が高いかどうか、あるいは、グループのリーダーや大切な存在がいる人は「どうやったらコミュニティ感覚を高めていけるだろう?」といったことを考えながら読んでみてね。きっと参考になるよ。
目次
コミュニティ感覚のいくつかの定義
「コミュニティ感覚って何?」という人がほとんどだと思うから、まずはコミュニティ感覚の定義から整理していくよ。代表的な2つの定義があるんだ。
サラソンの定義
心理学者であるサラソンはコミュニティ感覚を次のように定義したよ。この定義には4つの軸があるんだ。
- 他者との類似性の知覚
- 他者との相互依存的関係の承認
- 他者が期待するものを与えたり、自分が期待するものを他者から得たりすることによって相互依存関係を進んで維持しようとする気持ち
- 自分はある大きな依存可能な安定した構造の一部分であるという感覚
なにやら難しい定義だね。今は「ふーん」くらいに思ってもらっていればOKだよ。次の定義も見てから「結局、コミュニティ感覚って何?」というのを一緒に考えよう。
マクミラン&チャビスの定義
もう一つ、有名なコミュニティ感覚の定義を紹介するね。こちらは3つの軸があると考えられているんだ。
- メンバーが持つ所属感
- メンバーがメンバー同士あるいは集団に対してもっている重要性の感覚
- 集団にともにコミットメントすることによってメンバーのニーズを満たすことができるという信念の共有
さっきのサラソンのに比べれば多少わかりやすいかな? それでもやっぱりまだ難しい定義だね。
今挙げた2つの定義を元に、わかりやすく定義しなおしてみよう。
「結局、コミュニティ感覚って何?」に回答するとしたら、こんな風な回答になりそうだね。
「自分と価値観を同じくする2人以上の人との間でコミュニティが形成され、そのコミュニティに所属する人々は誰もがかけがえのない存在で、相互に信頼していることを何かしらの方法で感じ合っている」
この定義を見て、「アドラーの共同体感覚と似てるな」と思った人もいるかもしれないね。実際、立教大学の箕口氏など、早くからその点に気づき、共同体感覚とコミュニティ感覚の類似性を研究している人もいるんだよ。
コミュニティ感覚の「コミュニティ」と関係する心理学
今まで特に意識することなく「コミュニティ」という言葉を使ってきたけど、コミュニティってなんだろう? 「コミュニティ」についても考えていこう。
そして、「コミュニティ」を念頭においた新しい心理学も登場してきているから、それについても簡単に触れていくね。
そもそもコミュニティって?
一言で「コミュニティ」といっても、人によってイメージするものが異なってくるよね。ある人は「家族」と答えるかもしれないし、ある人は「今住んでいる地域」と答えるかもしれない。SNSのつながりを「コミュニティ」と答える人だっているはずだね。
「コミュニティ」には大まかに2つがあると言われているんだ。一つが「場所」を指す「地理的コミュニティ」、そしてもう一つが「機能的コミュニティ」だよ。
「地理的コミュニティ」はわかりやすいね。「日本に住む日本人」「東京で働く人々」などのように場所を単位としたコミュニティなんだ。
一方、機能的コミュニティは「関係的コミュニティ」とも呼ばれるもので、場所は問わず共通の規範や価値、関心、目標、同一視と信頼の感情を共有しているコミュニティだよ。インターネット上の交流は物理的な場所はないけど、例えば「同じゲームが好き」で集まった集団なら、それは立派な機能的コミュニティとなり得るんだ。
コミュニティ心理学
コミュニティ感覚の定義を作った先述のサラソンは、「コミュニティ感覚が今までの心理学には決定的に欠けている」と痛烈に批判して、コミュニティ感覚を研究テーマとするコミュニティ心理学の必要性を説いたんだ。コミュニティ心理学でいう「コミュニティ」は、先ほど説明した地理的・機能的両方のコミュニティを含んでいるよ。
確かに、従来の心理学は「個人」がどのような反応をするのかを研究していて、周囲の人との関係性はあまり重視してなかったんだ。
でも、よくよく考えると、人は「誰といるか」によって反応は大きく変わってくるよね。家族と一緒にいるときの自分と、先輩と一緒にいるときの自分、恋人と一緒にいるときの自分とでは振る舞い方は違ってくるんだ。
人が誰とどんなコミュニティ感覚を持っているか。そういう視点がないと本当に「その人を理解した」ということにはならないんだね。このような発想にたって、「人」と「その人を取り巻く環境」との相互作用を視野に入れた心理学をコミュニティ心理学というんだ。
コミュニティ感覚の構成要素
マクミラン&チャビスはコミュニティ感覚には4つの要素があるのではないかと提唱しているよ。その4つとは、メンバーシップ、影響力、ニーズの強化、情緒的結合と共有だよ。それぞれ説明していくね。
メンバーシップ
メンバーシップとは、一言で言うと、コミュニティ内での役割感覚のことだよ。
メンバーシップには「コミュニティの境界」「情緒的安全感」「所属感」「投資」の4つがあるんだ。
・コミュニティの境界…内と外を分ける境界線
・情緒的安全感…安心と安全の感覚
・所属感…アイデンティティの獲得
・投資…コミュニティへの貢献
例えば、学生の時に体験した文化祭の準備に積極的に参加するときの感覚だね。他のクラスとは異なることをし、仲間でワイワイし、制作係と買い出し係に自然に分かれ、時間も忘れて没頭していたあの感覚だよ。こんな風に関与できていたとしたら、「メンバーシップ」はとても高くなりそうだね。
影響力
影響力とは、コミュニティとそこに所属する各個人が相互に助け合いができている感覚のことだよ。要するに、「コミュニティは自分を助けてくれるし、自分もコミュニティに無くてはならない存在」という感覚だね。
例えば、「開発部はいい商品を作り出してくれる」「マーケティング部は潜在顧客に広報してくれる」「営業部は確実に売ってくれる」と各部署が信頼し合う関係があると、この会社の「影響力」は高いと言えそうだね。
ニーズの強化
ニーズの強化とは、そのコミュニティに所属することで自分のニーズが叶えられていると感じられることだよ。所属することにメリットがある、と言い換えてもいいかもしれないね。
例えば、オンラインサロンに登録してもサロンオーナーがあまり運営に積極的ではなかったとしたら登録者の「積極的に交流して運営者の考え方を学びたい」といった「ニーズ」は強化されないので、サロンのコミュニティ感覚は低いことが予想されるんだ。
情緒的結合と共有
情緒的結合と共有とは、ポジティブな交流がメンバー間で行われていることだよ。重要な出来事や問題を共有し解決できるんだ。
例えば、自分が好きな漫画の最終回の感想をSNSでつぶやいたとき、「わかる~」と返事が来てやり取りが盛り上がるようなつながりは「情緒的結合と共有」があり、コミュニティ感覚も高くなることが予想されるね。
コミュニティ感覚のチェックリスト
マクミラン&チャビスが開発したコミュニティ感覚を測る質問項目を、愛知淑徳大学の植村氏が翻訳したものを載せておくことにするね。全部で24問あるよ。
それぞれについて「全くそうは思わない」なら0点、「いくぶんかそう思う」なら1点、「だいたいそう思う」なら2点、「完全にそう思う」なら3点をつけてみてね。
回答するときに「コミュニティ」という言葉が出てきたら、自分がコミュニティ感覚をはかりたいコミュニティをイメージするんだ。「会社」でも「家族」でも「いつものメンバー」でもなんでもいいよ。
メンバーシップ
- 私はこのコミュニティの人たちを信頼することができる
- 私はこのコミュニティのメンバーのほとんどの人を認識することができる
- コミュニティのメンバーのほとんどが、私を知っている
- このコミュニティは、人々が認識することがで きる衣装や記号、芸術、建造物、ロゴマーク、 標識、旗などのようなシンボルやメンバーであることの表出物をもっている
- 私は多くの時間や努力を、このコミュニティの一部であることに用いている
- このコミュニティのメンバーであることは、私のアイデンティティの一部である
影響力
- このコミュニティに適合することは、私にとって重要である
- このコミュニティは、他のコミュニティに影響を及ぼすことができる
- 私は他のコミュニティ・メンバーが、私のことをどう思っているか気になる
- 私はこのコミュニティの在り方に対して影響力をもっている
- このコミュニティで何か問題が生じたとき、メンバーはそれを解決することができる
- このコミュニティはよいリーダーを持っている
ニーズの強化
- 私はこのコミュニティの一部であることで、自分の重要なニーズを叶えている
- コミュニティのメンバーと私は、同じ事柄に価値を置いている
- このコミュニティは、メンバーのニーズに応じることに成功してきている
- このコミュニティのメンバーであることが、私を快適な気持ちにさせている
- 問題を抱えている時、私はこのコミュニティのメンバーとそのことについて話し合うことができる
- このコミュニティの人たちは、類似のニーズや優先事項、目標をもっている
情緒的結合と共有
- このコミュニティの一部であることは、私にとって非常に重要である
- 私は他のコミュニティ・メンバーと運命共同体であり、彼らと共にあることを楽しんでいる
- 私はこれからもずっと、このコミュニティの一部でありたい
- このコミュニティのメンバーは、祝日や祝典、災害といったような重要な出来事をいっしょに共有してきている
- 私はこのコミュニティの未来について希望をもっている
- このコミュニティのメンバーは、互いを気にかけている
コミュニティ感覚があることのメリット
コミュニティ感覚があるとどんないいことがあるんだろう。次はそれをみていくね。
国際基督教大学の笹尾氏が『コミュニティ心理学ハンドブック』の中で述べていることによれば、コミュニティ感覚はさまざまな要素と強い関係があることがわかっているとのことだけど、ここでは「人生の満足感」「孤独感」「仕事の満足感」の3つとの関係をみていくよ。
人生の満足感が高まる
コミュニティ感覚が高いと、人生の満足感も高まることが知られているよ。
コミュニティ感覚が高いと、他者との交流やいい意味での相互依存関係が培われるんだ。人は「自分一人のため」にはなかなか頑張ることができないよね。「誰かのため」と思えるからこそ、頑張れることも多いんだ。
例えば、1人暮らしのときは「お腹に溜まればいい」と考えてそれほど真剣に自炊しなかった人でも、恋人や家族の分も作ると考えると手の込んだ料理を作れたりするんじゃないかな。当然、手の込んだ料理の方が栄養も高いだろうし、食べてくれた人から「美味しい」と言われたら満足感や喜びも高まりそうだよね。
こんな風に、「誰かとつながっている」「誰かの力になれる」と思えるようなコミュニティ感覚があると人生の満足感も高まっていくんだ。
孤独感が減る
コミュニティ感覚があると、孤独感が減っていくことも知られているんだ。
よく「孤独を埋め合わせる」と言ったりもするけど、実は孤独は何かが足りない状態ではなくて「何ともつながりを感じられない」状態なんだ。だから、つながりや絆を作ることが孤独を減らす上ではとても大事なんだね。
このつながりや絆がある感覚こそ、まさにコミュニティ感覚と言えるんだ。
コミュニティ感覚がないと孤独感の高まりゆえに、孤独死のリスクも自ずと高まってしまうよ。小林氏らの研究によれば、高齢男性で、隣人・友人などとしっかりとした絆を持っていない人ほど、たんぱく質、カルシウム、鉄、ピタミンなどの摂取の不足、肥満、身体活動の不足、多量飲酒などと関連を持つことなどがわかったんだ。
やはり、人は「独りぼっち」と感じると、自分自身に対しても気を使えなくなってしまうんだね。
ちなみに、孤独の対策についてまとめた記事もあるから、あわせて読んでくれると嬉しいな。
仕事の満足感が高まる
コミュニティ感覚と仕事への満足感にも強い関係があることが知られているんだ。このあたりは「心理的安全性」にもつながってきそうだね。
心理的安全性とは、「チームメンバーが互いに気兼ねなく意見を伝えあい、協力し合い、罰せられることがないと信じられる状態」のことで、心理的安全性が高いと仕事への満足感、つまりワークエンゲージメントが向上することがわかっているんだ。
心理的安全性を確保するためには、「話しやすさ」の雰囲気があり、「助け合い」が行われていることが大切と言われているんだけど、さっき挙げたコミュニティ感覚を測る質問項目にも「問題を抱えている時、私はこのコミュニティのメンバーとそのことについて話し合うことができる」があったのに気づいたかな。
心理的安全性にもコミュニティ感覚にも共通する「話し合って解決する」ことが、仕事への満足感を高めてくれると考えられるよ。
コミュニティ感覚を高める方法
では最後に、どうしたらコミュニティ感覚を高められるのかを考えていこう。
ギブから始める
まずは「ギブする人になる」を意識することだよ。
コミュニティ感覚を高めようと思っても、自分がどこかに所属している意識がないと高めようがないよね。その点、「ギブしよう」と意識するだけでも、人とのつながりを持ちたいと自然と思えるようになることが知られているんだ。
誰かにギブする人のことを「ギバー」と呼ぶのだけど、組織心理学者のアダム・グラントによればギバーは人と人とを結びつけたり、ためらわずに昔の関係に連絡を取れるとのことだよ。
ただ、ギバーはとても優しくて自分を犠牲にし過ぎて疲弊してしまうことも多いから、そこは注意して欲しいんだ。
アダム・グランドによれば、世の中には自分からは何も与えないのに得ることばかり考える「テイカー」もいて、テイカーにギブをし続けるとギバーは簡単に疲弊してしまうそうだよ。
健全なコミュニティ感覚を育てていくためには、「相互依存関係」が不可欠なんだ。「自分ばっかり…」と感じてつらくなったら、テイカーとは距離を取ることも時には大切になってくることを意識しておいてほしいな。
ただ幸せを願う
優しい人ほど「テイカーとはいえ放っておけない」と感じる人もいるよね。そんな人は「相手の幸せをただ願う」だけでもコミュニティ感覚を強めていけるからおすすめだよ。
アイオワ州立大学のジェンティルらの研究によれば、他人の幸せを一生懸命考えるだけで連帯意識が高まることがわかったんだ。連帯意識とはコミュニティ感覚そのものだよね。
この研究では連帯意識が高まるだけではなく、他人の幸せを考えた人の不安の減少、幸福感の増加、共感力・思いやりの向上もみられたそうだよ。
テイカーと直接的なかかわりをしなくなったとしても、ただ幸せを願うことで心理的なかかわりを持ち続けることは可能なんだ。もちろん、距離を取りたくて取ったわけだから、心理的にも距離を取りたいと思うなら、無理してまで相手の幸せを願う必要はないからね。
「ありがとう」で幸福を伝染させる
直接かかわりあう人とは、積極的に「ありがとう」を伝えることで、コミュニティ感覚を高めることが期待できるよ。
ノースカロライナ大学の社会心理学者サラ・アルゴ氏らが実施した、77組のカップルを対象とした研究によれば、自分がしてあげたことで相手から感謝されると、脳内にオキシトシンが分泌されることが分かったんだ。オキシトシンとは、絆が結ばれるのに働く物質として知られているものだよ。
この研究の面白いところは、「感謝された側」だけではなく、「感謝した側」にも同じくオキシトシンが分泌されたことなんだ。
「ありがとう」が飛び交うコミュニティは、みんなの「つながりたい気持ち」を強めてくれるんだね。そんな素敵なコミュニティに属するメンバーのコミュニティ感覚は高いことが予想されるよ。
心理的安全性を高める
心理的安全性を高めることも、コミュニティ感覚を高めることにつながっていくよ。
心理的安全性を高めるには、「多様性を認め合う」が効果的なんだ。これは「みんな違ってみんないい」ことを尊重し合うことなんだけど、このような「みんないい」という考えは、コミュニティ感覚の「誰もがかけがえのない存在」の感覚にもつながっていくはずだよ。
「普段から雑談する」ことも心理的安全性を高める効果があるんだけど、雑談をするからこそ「おや? いつもと違うな?」「困っていそう」といったことを素早く察知できるよね。相手の変調に気づければ、互いに救いの手を適切なタイミングで差し伸べ合えるよ。相互に信頼し合える関係はコミュニティ感覚を高めてくれるんだ。
コミュニティ感覚まとめ
コミュニティ感覚とは「自分と価値観を同じくする2人以上の人との間でコミュニティが形成され、そのコミュニティに所属する人々は誰もがかけがえのない存在で、相互に信頼感していることを何かしらの方法で感じ合っている」ことなんだね。
コミュニティ感覚の高さは様々なポジティブな事柄と強い関係があることが知られているんだ。コミュニティ感覚が高いと、その分人生の満足感が高く、孤独感が低く、仕事の満足感が高いことが知られているんだよ。
今はコロナの影響もあってなかなか直接多くの人と接する機会がなくなったよね。でも、たとえ物理的な距離があったとしても、コミュニティ感覚を高めていけるんだ。
今回取り上げた方法は①ギブから始める、②ただ幸せを願う、③「ありがとう」で幸福を伝染させる、④心理的安全性を高めるの4つだよ。他にもあると思うから、自分たちなりにも考えてみてくれると嬉しいな。
物理的つながりが得られなくなっているからこそ、心理的つながりを意識して過ごすようにしていこうね。