仕事で使えるポジティブ心理学

2022.06.04 Sat
シンくん
案内人 シンくん
ライター
執筆 鈴木 ふみのり 精神保健福祉士
ポジティブ心理学
仕事で使えるポジティブ心理学

ポジティブ心理学と聞いて「気持を前向きにしていく」というポジティブ・シンキングを想像してしまう人も多いよね。

ポジティブ心理学の本当の意味は、単にポジティブな思想を指しているのではなく「何が人生を最も価値あるものにするか」を科学的に研究する学問で概念的な意味合いが強いのが特徴だよ。

ポジティブ心理学では理想化している言葉が多いから、現実社会で様々なストレスを抱えて働く人にとっては「とてもじゃないけど、そんなこと言われても無理だよ」と反発が来そうな内容だよね。

そこで、働く人の「会社に行きたくない」「上司がしんどい」「仕事つまらない」という現実的な悩みにポジティブ心理学を活用して答えていくよ。

働くって大変なことだよね
 

ポジティブ心理学とは?

ポジティブ心理学は、1998年に心理学者のマーティン・E・P・セリグマン博士によって開発された「良い生き方とはどのような生き方か?」をテーマに研究されている概念のことだよ。その後もアメリカを中心に多くの心理学者たちによって研究が推進されてきたんだ。

ポジティブ心理学は、一人ひとりの人生や、属する社会の「良い状態」を構成する要素について、科学的に研究を試みる心理学の概念なんだよ。現在でも研究は続けられているんだけど、絶対的な理論は確立しているわけでなく、あくまで研究概念であり、正解・不正解を導くためのものではないのが特徴だよ。よく誤解されやすいポジティブ・シンキングは「ネガティブを排除しよう!」という積極的な前向き思考の考え方で全く別物の概念なんだ。

「良い状態」って何だろうという疑問が生じると思うけど、それについては下で説明しているから見てみてね。

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ポジティブ心理学で重要なウェルビーイングの考え方

ウェルビーイングとは、自分や社会における「良い状態かを表す指標」のことだよ。

良い状態かを評価するといっても個人や家庭、地域や文化によっても「良い状態」かの捉え方が違うから一概に判断することは難しいよね。

OECD(経済協力開発機構)では、良い状態かどうかを「良い暮らし指標」と設定して、以下のような11分類により測定しているんだ。

(物質的生活状況)
①住宅 ②所得と富 ③雇用と収入

(生活の質)
④社会とのつながり ⑤教育と技能 ⑥環境の質 ⑦市民生活とガバナンス ⑧健康状態、⑨主観的幸福 ⑩個人の安全 ⑪仕事と生活のバランス

11分類を見てみると、「個人的な考えに基づく良い状態」と「社会的な考えに基づく良い状態」のふたつに分けることができるよね。

そこで今回は、ポジティブ心理学をもっと理解していくために、「主観的ウェルビーイング」と「社会的ウェルビーイング」の2種類を解説していくよ。

これが俺のいい状態
 

主観的ウェルビーイング

主観的ウェルビーイングは、個人の主観的幸福感や生活の満足度を、自己申告によって判断される指標のことだよ。

たとえば自分自身が「幸せだ」と感じることはなんだろう。スポーツをして身体を動かしているとき、映画を観て感動したとき、家族で食卓を囲んでいるとき、色んなタイミングで幸せを実感できるよね。

こんなふうに「幸せだ」と感じる状況そのもののこと、または幸せと感じるまで至ったプロセスを解明していくことが主観的ウェルビーイングなんだ。

忙しいことが俺の幸せ…
 

社会的ウェルビーイング

社会的ウェルビーイングは、社会の良さを客観的に評価する指標のことだよ。

指標の具体例としては、GDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)、GNI(国民総所得)があるよ。国や地域の経済活動の水準をもとに数値化することが可能なんだね。

社会的ウェルビーイングは、前述した主観的ウェルビーイングを含めて総合的に評価されることが多いのが特徴だよ。総合的に評価するといっても、国や地域によっても何が幸せかの考え方は違うし、誰かが一方的に幸せか幸せじゃないと判断できるものではないから、明確に「何が幸せなのか」を評価することはとても難しいんだね。

我が王国を好きに評価するがよい
 

ポジティブ心理学の幸福「5つの要素(PERMA)」

上記で「何が幸せなのか」を評価することはとても難しいことだと説明したけど、ポジティブ心理学を提唱したマーティン・E・P・セリグマン博士は、ウェルビーイングの考え方を5つに細分化し、自身が提唱するポジティブ心理学の理念に当てはめているんだ。この5つの要素は、いずれも個人が自らの意思で選択可能であり、他者からの強制がないことが特徴だよ。5つの種類の頭文字を取ってPERMA(パーマ)と呼ばれているんだ。

順番に説明していくね。

Positive Feeling(ポジティブ感情)

主観的な前向きな感情のことを指しているよ。楽しみや喜び、心地よさなど自分が感じるプラスの感情のことだよ。

この一杯のために生きてる…
 

Engagement(エンゲージメント)

仕事や趣味に時間を忘れて集中している状態のことを指しているよ。

たとえば何かに集中しているときって時間が過ぎ去るのがとても早く感じるよね。

時間を忘れるほど集中できることって、雑念が出にくいから幸せを感じやすいんだ。でも、Engagementは、物事に集中している最中ではなく、「あの時は楽しかったな」みたいに後から振り返って感じることが多いのが特徴だよ。

え…もう10時間もこの作業やってた
 

Relationship(関係性)

家族や友人などの人間関係において幸福を感じる状態を指しているよ。

過去の「楽しかったこと」を振り返ってみると、いつもそこには自分以外の誰かの存在があったよね。

直接的に家族や友人と楽しい時間を共有したときに幸せを感じるのはもちろんだけど、間接的にもSNSなどのインターネット上の対人交流をしていても幸せは感じられるんだ。

きみたち二人の存在ありがたや~
 

Meaning(意味・意義)

貢献するなど生きる意味により幸福を感じている状態を指しているよ。

取り組んでいる仕事や趣味の活動が、自分にとっての主観的に意味のある活動だと思えると、幸福感が得られるよね。

今やっていることがその時はあまり意味がないように感じることでも、あとから振り返ってみたら「あの時は大変だったけど意味のある活動だった」なんて感じることもあるんだよ。

たとえば受験勉強は、地道な勉強をしている最中にふと、「こんなに勉強してるのに出題されなかったら無駄だな~」なんて思うものだけど、試験に合格したら「あの時あきらめずに勉強して良かった」と後から感じられるよね。

こどもが喜ぶならそれでいい…
 

Achievement(達成感)

達成感により幸福を感じている状態のことを指しているよ。

目標を決めてそれが達成できた場合には幸福感が得られるよね。

たとえば新しいゲームを買ったとき、最初は操作方法がわからず苦労するけど、上達するにつれ達成感が得られる感覚だよ。

今日の配達終わりや~
 

日本におけるポジティブ心理学の有効性

ポジティブ心理学の解釈が日本社会では異なるとの意見も存在しているよ。もともとポジティブ心理学はアメリカで伝えられ、欧米諸国で広がった概念だから、日本でもそのまま実践できるかどうかについては困難が生じる場合があるんだ。

日本でポジティブ心理学のハードルが高いと思ってしまう理由については、下記で説明しているよ。

欧米人との気質の違い

東京成徳大学の杉原一昭氏は、ポジティブ心理学に対して、「アメリカ文化の中ではそれでいいのかもしれないが、(ポジティブを追求していくことが)わが国では放漫さや慎みのなさの表れと捉えられるかもしれない」と述べているよ。

確かに日本社会の場合だと、自分だけがポジティブ感情でいることが、逆に不利になってしまう状況が作られやすいんだ。それは、日本社会の集団における協調性や規則性を重んじる文化が関係しているよ。

たとえば、主観的ウェルビーイングに基づいて、「今日は定時であがって、録画してた映画観よう」と思っても、周りの上司や同僚が忙しそうに仕事をしていたら、定時で帰ることに気が引けてしまうよね。

こんなふうに、周囲の目や協調性を重視しなければならない状況下では、ポジティブ心理学を推進するのがとても難しいんだ。

自分の仕事は終わったんだけどな~
 

ネガティブ感情に慣れている日本人

Markus&Kitayama(1991)の研究によると、日本人には、自己卑下的・自己批判的傾向があると説明しているよ。

日本で生活していると相手と良好な関係を維持するために、あえて自分をさげすむような言葉の表現をすることがあるよね。

相互独立的文化を特徴とする欧米では、お互いに賞賛・承認を持ち、それが個人の確立につながるけど、相互協調文化を特徴とする日本では、相手に同調したり共感したり、あえて自己卑下をすることで相手との関係性を維持していくような文化の違いがあるんだ。

日本人は、全面的なポジティブ感情を表現するよりもネガティブ感情の表現ほうが、良好な対人関係維持のためには有効な場合があるということがいえるね。

あえて落ち込んでみる…
 

仕事で使えるポジティブ心理学3選

ポジティブ心理学って理想化した内容が多いから親近感が湧かないって思ってしまうけど、じつはネガティブ感情が主体な日本人にも身近に感じられるメッセージも残しているから、厳選した3つを紹介するから参考にしてね。

①いまの働き方を認めてあげる

小さな目標設定を達成して、いまの働き方を自分で認めてあげよう。

ポジティブ心理学を専門とする臨床心理学者の竹中哲夫氏は、「小さな進歩こそが大きな進歩の基礎である」と述べているんだ。小さな進歩とは、自分が持っている健康な部分を、それがどんなに小さくとも可能性を発見して尊重していくことが重要なんだって。

たとえば仕事に行くために朝起きることや、電車に乗ることも十分な目標設定になり得るよ。こんなふうに、目標設定の基準を低くしてそれを達成していくことで徐々に、自分の働き方を認められるようになっていくよ。

でも職種によって、意識せずとも目標設定が高水準になってしまう人の場合は、無理をしないで下記の③の考え方を参考にしてみてね。

とりあえず着替えることはできた
 

②「ウザい」は自分を守るためのサイン

ポジティブ心理学では、自分を危機から守るためにネガティブ感情が発生していると考えられているよ。

「君は何回言ったらわかるんだよ」
「〇〇ちゃん、わたし明日休みだから代わりに会議資料つくっておいて~」

こんなふうに自分が苦手な上司や同僚から言われたことで、「ウザい」と感じることってない?

苦手な上司や同僚とは、「性格」「育ってきた環境」「趣味嗜好」全部が異なるから、完全に自分と分かり合えることは難しいんだ。相手の意図せず発言された言葉が、自分に対しての批判や、軽視されている感覚につながっている可能性があるよ。

「ウザい」と感じるのは、自分の心の健康を維持していくために必要なことだと理解して、苦手な人とは「業務上必要な内容に特化して会話するように心がける」「業務上関係のないことは無理に話さない」を意識してみよう。

でも、苦手な人から、明らかに仕事上とは関係のない内容で文句を言われたり、中傷してくるような言動がある場合は、「会社のハラスメント担当部署に相談する」、「労働基準監督署に相談する」などの対処が必要な場合があるよ。

「ウザい」が生じたら自分に危機が生じているサインだと認識して、取り払うよりも共存していく方法を考えてみよう。

やっぱりこの人とは話が嚙み合わない…
 

③いつでも自分に選択権がある

いつでも自分にも選択権があることを知れば、仕事の「つらい」に対処しやすくなるよ。

たとえば、仕事でネガティブ感情が発生すると、自信が無くなって、まわりの相手の評価がよけいに気になってしまうよね。

相手の評価を気にする日々がつづくと、自分の気持ちを抑えることに慣れてしまって、漠然とした「つらい」がつくられやすいよ。漠然とした「つらい」が徐々に増えた結果、自分がいま何につらいのかわからなくなってしまうんだ。自分の本当の気持ちがわからないから、影響力のある相手に選択権を委ねてしまうんだね。だから、たくさんある「つらい」気持ちのなかからひとつだけでも、つらい理由を知ることができたら、自分の選択権を増やすきっかけになるかもしれないよ。

選択理論は、アメリカの精神科医ウィリアム・グラッサーが提唱した「つらい瞬間の自分の気持ちに気づき、どうすればいまよりも幸せになれるかセルフコントロールできるようになること」なんだ。自分のつらいに気づく方法として前述した「ひとつだけでも理由を知る」方法があるよ。自分の本当の気持ちを知ることが、主体性をもって行動するうえでの大事な要素になってくるんだ。ひとつだけでも理由を知る方法として、下記のように漠然とした「つらい」がなんでつらいのか自分なりに理由を探ってみる方法をおすすめするよ。

漠然としたつらい→後輩がいつも上から目線で話してくるから→たしかに後輩のほうが仕事の成績は良い→自分も成績をあげたいけど後輩みたいに器用にできない→まわりの人に後輩と比べられてしまうのがつらい

こんなふうに自分の本当の気持ちの一部でもわかったら、いまの気持ちがどうやったら幸せに近づくのか選択肢を見つけてみよう。

たとえ実行できなくても、選択肢が見つかるだけで、目標にむけて主体性を持って行動しやすくなるよ。主体性を持つことで、自分で人生をコントロールできているという実感が湧くんだね。つらい理由が曖昧でも、ひとつずつ注目していくことで複数の選択肢が見えてくるんだ。でも、自分の「つらい」に向き合うことが大きな負担に感じてしまう場合もあるから無理はしないでね。

選択理論で重要なことは、自分の本当の気持ちを知って、自分が幸せになるための方法を考え、自分で選択することなんだ。

仕事でつらい瞬間の、自分の意思で選択可能な具体例として「人を頼る」「逃げる」「遊ぶ」「休む」などの対処法があるから下記を参考にしてね。

「人を頼る」

仕事で抱えている不安や悩みを、信頼できる人に相談してみよう。

家族や友人、信頼できる会社の上司や同僚でもいいよ。自分の悩んでいることを吐き出すことでも気持ちが楽になるし、解決策を教えてくれる場合があるよ。

「逃げる」

仕事中につらくなったらその場から離れてみよう。

その場から逃げることで、問題から距離を置くことができて気持ちが整理されやすいよ。でも、仕事中になんの断りもなく逃げ出すことは、そのあとの自分の状況が更に不利になる可能性があるから、会社の就業規則に沿って、有給を消化するなど適切な方法でその場から離れることをおすすめするよ。

「遊ぶ」

趣味や自分の好きなことに没頭する時間が必要だよ。時間を忘れて没頭できるような活動があるといいよね。上記で説明しPERMAのEngagement(エンゲージメント)に該当するよ。

時間を忘れて没頭できると雑念が生じにくいから、一時的な仕事のストレスから解放される場合があるんだって。没頭できる趣味や活動がないという場合は、自宅でのんびり過ごすことでも効果が得られるからね。

「休む」

仕事のストレスが自分にとってかなり大きい場合は、しっかり休息をとることを考えてみよう。

しっかり休んでいるのに、仕事のことを考えると眠れない、動悸がする、気分が落ち込むという症状が出た場合は、無理しないで精神科や心療内科などの専門機関に相談することをおすすめするよ。場合によっては「休職」をすることで、治療的に休むことが必要な場合もあるからね。

大切なのは、会社や周囲の人のバランスを見て判断するのではなく、自分が主体的に選択できる方法「幸せになる近道」を見つけていくことだよ。

上記の「人を頼る」「逃げる」「遊ぶ」「休む」の中から、いま自分が仕事中に取れそうな選択権を選んで、どんな行動ができるか想像して書いてみよう。

あくまでも自己選択をしやすくするための意識づくりが目的だから、かならず職場で実践する必要はないからね。

いま自分に存在する選択肢はなに?

まとめ

仕事で役立つポジティブ心理学で大切なことは①いまの働き方を認めてあげる ②「ウザい」は自分を守るためのサイン ③いつでも自分に選択権があるだよ。

仕事をつづけていくことってたくさんのネガティブ感情と出会うからとても大変だよね。

今回紹介したポジティブ心理学の良いところを職場で実践してみて、最終的には「色々大変だけどとりあえず明日も仕事に行ってみよう」と少しだけ心が軽くなると良いな。

つらいときは無理にポジティブになろうとしなくて良いからね
 

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