みんなはモラトリアムという言葉を聞いたことがあるかな?
この記事を開いてくれた人のなかには自分のやりたいことがわからなかったり、進むべき道に迷っている人もいるかもしれないね。モラトリアムは決して悪いものではなく、有効に活用できるとアイデンティティ確立に近づけるかもしれないんだ。
今回は、「モラトリアム」の意味を心理学的にわかりやすく解説していくよ。モラトリアムの抜け出し方についても話していくから、最後まで読んでみてね。
目次
モラトリアムとは?
一般的にモラトリアムとは「一定期間の猶予」を意味するよ。もとは金融用語で、「支払い延期」の意味の英語“moratory”に由来しているんだ。
ただ心理学では、モラトリアムは「社会に出るための猶予期間」を指すよ。みんなにはこっちのほうが馴染みがあるかもしれないね。心理学でいう「猶予期間」とは、青年期(12歳〜20歳くらい)から社会人になるまでの、身体的には一人前でも社会人義務を果たさなくてよい期間のことだよ。
このモラトリアム期間のうちに、試行錯誤や経験を積みながら、たくさんの知識や内面の充実を図るんだね。
モラトリアムの心理学的由来
ではなぜ、もとは金融用語だったモラトリアムが心理学で扱われるようになったんだろう?
モラトリアムという言葉を使い始めたのは、人の社会の中での成長に関心を持っていたアメリカの心理学者E.H.エリクソンだよ。エリクソンはアイデンティティの確立時期(青年期)に進路や職業、生き方を自分なりに選択する作業が重要だと言っていたんだ1。とはいえ、自分の進路や職業は、なかなかすぐに決められるものではないよね。社会的責任が猶予された上で、自分がどの方向に進むかを試行錯誤する時期を、エリクソンはモラトリアムと呼ぼうと考えたんだ。モラトリアムの時期に、アルバイトやインターンシップ、部活動、その他自分が興味があることに主体的に打ち込むのがよいとされているよ。
モラトリアムって「怠けている」イメージを持たれがちだけど、自分なりに興味・関心を持って主体的に活動するという目的があるんだね。
学生時代は本当にモラトリアム期間なの?
「モラトリアムって学生時代のことでしょ?」と思う人も多いかもしれないね。日本人でモラトリアムを体感できる人は、実は少ないかもしれないよ。その理由は二つあるんだ。
一つ目は、競争の激しい社会環境だよ。青年心理学者の宮下氏・杉村氏は、最近の学生にはモラトリアムがほとんどなく、完全に形骸化していると言っているんだ2。授業が忙しい、アルバイトしないと学費が賄えない、資格試験の勉強をする必要があるなど、結構忙しい学生も多いんじゃないかな。目の前のことをこなすだけで精一杯で、自分についてゆっくり考える時間が取れない人も多いんだ。
二つ目は、モラトリアム期間の長期化だよ。社会学者の宮本氏は、先進国の特徴として、比較的選べる職業が多様であり、生き方の選択肢も多いと指摘しているよ3。特に日本は階級意識なども薄く、決まった職業に就かないといけないケースが少ないから、他国の若者と比べて選択肢は多いといえるんだ。逆に選択肢が多いからこそ、一人一人が主体的に自分の意志で職業を選択したり、人生設計を考える必要があるよ。エリクソンはモラトリアムとして過ごせる青年期を20歳くらいまでと言ったけど、今の日本では30代くらいまでが青年期として捉える意見もあるんだ。
日本の若者は、競争が激しい社会環境の中で自分について考える時間が持ちにくい反面、選べる選択肢も多いので主体性も求められている状況にあるよ。青年期にアイデンティティを確立するのは結構難しいし、社会人になってからモラトリアム的な気分が出てくる場合もあるかもしれないね。
モラトリアム症候群とは?
モラトリアムが長く続いている状態に対して、モラトリアム症候群とも言うよ。これは医学や心理学の正式な用語ではないけれど、「社会に出て大人として振る舞うことに対して抵抗を覚える状態」を指しているんだ。モラトリアムが長く続くと、無気力や、抑うつ気味になりやすい傾向も指摘されているんだよ。
モラトリアム状態の特徴
エリクソンは、興味・関心を持つことと、主体的に行動することをモラトリアムとしていたけど、日本では違ったタイプのモラトリアムもあるといわれているよ。東京大学の下山教授は、モラトリアム状態の特徴を職業決定に対する姿勢から四つに分け、日本人特有のモラトリアムも見出したんだ4。
回避
職業決定に対して、自分から意識的に回避している状態。学生では、意図的に留年をするケースなどもあるなど、「大人になりたくない」と本人が思っているケースもある。日本人特有のモラトリアムと言われている。
拡散
職業決定を行う意思はあるものの、職業をどのように探していいか分からない状態。本人の困り感は強い。抑うつ状態になりやすい傾向もみられる。
延期
学生時代を社会的責任の免除された時期とみなし、その間は職業に関する決定を延期し、自由に遊びを楽しむが、必要な時になれば社会参加するのが特徴。日本人特有のモラトリアムと言われている。
模索
職業選択の社会的重要性を意識して、主体的に職業決定に取り組み、社会的責任を果たすように努力している状態。自己分析やインターンシップなど活動的な状態。エリクソンのいうモラトリアムに近い。
下山教授は、日本人特有のモラトリアムについて、競争の激しい日本の社会環境が影響している可能性を指摘しているよ。また、回避や延期によって、アイデンティティ確立の時間を確保している可能性があるとも言っているんだ。ゆっくり立ち止まって考えたいという日本人の心情を表しているのかもしれないね。
最近の若者のモラトリアムは「リスク回避型」?
和光大学の高坂教授は、最近の若者の特徴として、「リスク回避型モラトリアム」を指摘しているよ5。
「リスク回避型モラトリアム」とは、何に対しても興味を示し活動するタイプのことなんだ。「興味を持って何でもやっているのに、どこがリスク回避なの?」って思った人もいるかもしれないね。この「リスク回避型モラトリアム」のリスクとは、「周りから置いていかれるリスク」のことだよ。リスクを気にしすぎた結果、不安や焦りが生まれ、あれもこれもと手を付けてしまうんだ。その結果、無理に行動しすぎて疲れてしまったり、抑うつ気分になりやすくもあるから注意が必要だよ。
モラトリアム期間の過ごし方は、自分の適性を見極めたり、やりたいことを探す作業を自分から主体的に行うのが大切なんだ。あまり周りを気にしすぎないように注意してね。
モラトリアム期間の抜け出し方
モラトリアムを抜け出して、アイデンティティを確立する作業は、自分にある可能性のいくつかを切り捨てることでもあるんだ。だからこそ納得のいく選択をするために、判断の材料を集めることが大切なんだよ。
期限を決めて色々挑戦する
モラトリアム期間は色々挑戦することが大切だけど、「いつまで」と期限を決めることも同じくらい大切なんだ。
京都大学の大倉教授は、大学で留年を繰り返す学生を対象に、数年にわたって追跡的にインタビュー調査を行ったよ。その結果、学生自身の中に期限への意識が芽生えることがモラトリアムを抜け出す要因の一つだと示されたんだ6。確かに期限を定めないと、自分の中でのメリハリが無くなって、いつまでもモラトリアムが続いてしまう可能性もあるよね。
今すぐ進路や職業を決められない人は、学校を卒業するまで、〇〇歳になるまでなど自分なりの区切りを持って、色々挑戦してみてほしいんだ。
自分の考えや価値観を整理する
アイデンティティ確立には、自分が納得した上での選択がとても重要なんだ。そのためには、自分が選択するときに軸となる価値観の整理が大切だよ。
エリクソンは、歴史的な成功者の伝記を分析した結果、成功するかしないかよりも、自分の選択に納得している方がその人にとっての充実感が高いことを見出しているんだ。広島大学の杉村教授も、アイデンティティ確立には自分の考えや主体性が重要だと言っているよ7。一つの道を選んだ結果、失敗する可能性だって否定できないし、希望通りに行かない場合もあるよね。だからこそ、自分が納得できる選択をしたと思えるのが大切なんだ。自分が何を大切に思うのか、どういう人になっていきたいのか、日記を書いてみるなど時間をかけて整理してみるといいよ。
具体的には、その日の中で感じた「よいこと」と、それがなぜ「よいこと」だと感じたのか理由を重ねて記録してみてね。自分が「よい」と判断する中にも、自分の価値観が含まれているよ。続けていくと、自分の判断の傾向や、自分の価値観が見えてくるよ。さらに自分史を書くのもおすすめなんだ。自分がこれまでどんな人生を送ってきたのか、どんなことを大切にしていたのかが整理されるから、よかったらやってみてね。
普段から自分の中で価値観の整理をしておくと、大事な場面での選択もしやすくなるんだ。
モラトリアムのまま生き抜くのも1つの手
ここまでをまとめると、モラトリアムとは、アイデンティティを確立するまでの試行錯誤の期間だよ。モラトリアムから抜け出す方法には、「期限を決めて色々挑戦してみる」「自分の考えや価値観を整理する」があるんだ。
ただし、最後に付け加えておくと、モラトリアムを無理やり抜け出そうとしなくてもいい場合もあるからね。実は、一つの選択肢に絞らずに、いくつかの選択肢を持ちながら生きることも大切な能力だったりするよ。AI技術の台頭で、何年か後には無くなってしまう仕事もあるといわれているよね。時代の変化に備えるために、自分の軸となるものを複数持っておくのも大切だよ。また、一度職業を選択しても、昔と比べて、キャリアが柔軟になり、学び直しの機会なども増えているから、あとでやり直しも可能だから安心してね。