「せっかく勉強するのなら、効率よくやりたい」
「昔のことをあまり思い出せない」
「スケジュールを立てるのが苦手」
このような悩みを持つことって結構あるよね。一見バラバラな悩みのようにみえるけど、すべて「記憶」、特に「エピソード記憶」と呼ばれるものが関係しているよ。
記憶力の高め方からトラウマに関することまで、エピソード記憶に関する事柄について整理していくね。
ちなみに、記憶全体の分類については「記憶の種類」の記事が詳しいよ。
目次
エピソード記憶とは?定義と例
エピソード記憶とは宣言的記憶(言葉で思い出せる記憶)のうち、個人的体験に伴う記憶のことを言うよ。
「記憶」というと、「たくさん知識がある状態」をイメージしやすいよね。けど今日話していくエピソード記憶は「知識」ではなくて、何をしたかという「出来事」やその出来事を体験しているときの「感情」の記憶なんだ。
例えば、「昨日食べたカレーおいしかったな」とか、「中学の時、好きだった子に彼氏ができてきつかった」などといった類の記憶だね。
エピソード記憶は、半永続的に脳に保持され続ける長期記憶の一種で、言葉で思い出すことができるものだよ。
エピソード記憶以外の記憶の種類を知りたい人は、下のまとめ記事を参考にしてね。
エピソード記憶も、さらに「宣言的記憶」「展望的記憶」「意味記憶」に分かれるよ。これは後で説明するとして、先にエピソード記憶が含まれる「宣言的記憶」について解説するね。
言葉で想起できる記憶とは
じゃあ、エピソード記憶が含まれている「宣言的記憶」について説明するね。
「言葉で言い表せられない記憶なんてあるの?」と思った人もいるかもしれないね。実は記憶には言葉にできない記憶もあるんだ。例えば、自転車の乗り方やピアノの弾き方などが言葉にできない記憶の代表例だよ。
自転車に乗るとき、「まずは右手でハンドルを握って、次に左手でハンドルを持たないと。そしたら今度は車体を右足でまたいで…」という風にいちいち考えないよね。そんなこと考えなくても、身体が勝手に動いてくれるはず。
ちなみに、こんな風に身体が覚えていて、いちいち言葉にする必要がない記憶を手続き的記憶と言うよ。
意味記憶との違いは?
宣言的記憶には、今日のメインテーマであるエピソード記憶の他に、意味記憶と呼ばれる記憶もあるんだ。
意味記憶とは知識として保持している記憶だよ。「一日は24時間である」「一年は365日だ」「『吾輩は猫である』の作者は夏目漱石」といった記憶だね。
意味記憶とエピソード記憶は、同じ宣言的記憶の仲間だけど、意味記憶が一般知識に該当する記憶なのに対して、エピソード記憶は「いつどこで」といった物語に関する記憶である点が異なるよ。
エピソード記憶を利用して「思い出せない」を解決する【応用編】
実は、エピソード記憶を利用すると記憶に定着しやすいんだ。
何かを学ぶときは「意味記憶」として覚えることが多いよ。例えば歴史の授業では「鎌倉幕府を樹立したのは誰?」「それは何年のこと?」と覚えるよね。確かに意味記憶も長期記憶の一種だから、一度しっかり覚えれば基本的に忘れずに記憶し続けられるんだ。
でも、意味記憶は覚えにくく、思い出しづらいという性質があるから、意味記憶だけに頼るのは効率的とは言えないんだ。
そこで登場するのがエピソード記憶だよ。「鎌倉幕府を樹立したのは誰?」をしっかりと覚えたいのなら、一見遠回りに思えるかもしれないけど、源頼朝にまつわるドラマを観たり漫画を読むのがオススメ。源頼朝にまつわるエピソードとともに覚えられるから効率的なんだ。エピソード記憶の方が覚えやすく、忘れにくい性質があるからね。
もちろん、源頼朝を登場人物にした架空の物語を作成してもOK。「もしも源頼朝と鎌倉に旅行したら」みたいなストーリーがあったら、面白そうだね。
エピソード記憶の種類分けと各分類の例
エピソード記憶には、実はたくさんの種類があるんだ。今度はそれらについて紹介していくね。
自伝的記憶
1つ目は、自伝的記憶と呼ばれるものだよ。自伝的記憶とは、エピソード記憶の中でも自分の過去の人生にまつわる記憶のことなんだ。
「小学校のときは背の順で一番前だったな」とか「大学の卒業旅行で当時付き合っていた彼氏と沖縄に行ったわ」などが自伝的記憶に該当するね。
自伝的記憶に関して面白い研究があるよ。性格的に気分の波がある人は、そうでない人に比べて嫌な気持ちになった自伝的記憶をより鮮明に記憶している傾向にあるんだって。
記憶と性格には密接な関係があるんだね。
展望的記憶
エピソード記憶の2つ目は、展望的記憶と呼ばれるものだよ。「記憶」というと過去の物事を指すことがほとんどだけど、展望的記憶は未来の記憶なんだ。
「明日は原宿まで買い物に行く」「来年の今頃は一人暮らし」などが展望的記憶に該当するよ。
成すべきことを適切に思い出し,適切に実践するためには欠かせない記憶だよ。展望的記憶が機能しないと約束を忘れたり、スケジュールがくるってしまったりしてしまうよ。だから展望的記憶に不安がある人は、アラームをセットするなどをして展望的記憶が働く手がかりを作ってあげるといいね。
フラッシュバルブ記憶
エピソード記憶の3つ目は、フラッシュバルブ記憶と呼ばれるものだよ。
フラッシュバルブ記憶は自伝的記憶の亜種とも言える記憶で、自伝的記憶の中でも特に強烈な印象を持っている記憶のことだよ。社会的に重大な事件が起きた時に自分が何をしていたのかに関わる記憶もフラッシュバルブ記憶と呼ばれるだ。
フラッシュバルブとは、カメラのフラッシュのことだよ。まるで写真を見ているかのように鮮明に覚えているから、アメリカの心理学者ロジャー・ブラウン氏らによってフラッシュバルブ記憶と名付けられたんだ。
初めて好きな人に告白した場面とか、9.11が起きたのを知ったときの様子とかは、鮮明に覚えている人も多いかもしれないね。
中世ヨーロッパでは、重要な出来事を記録したいときには、その出来事を7歳くらいの子どもに目撃させて、そのあとその子どもを川に投げ入れていたらしいよ。そうすることでその子どもは目撃したことを一生記憶すると考えられていんだ。それくらい、感情が伴う記憶はしっかりと脳に定着すると考えられていたんだね。
ただ、後の研究でフラッシュバルブ記憶が「鮮明に覚えている」という本人の主観とは裏腹に、実はそれほど正確ではないとがわかってきたんだ。
重大な事件が起きた直後に「そのとき何をしていましたか?」と聞いた場合と、事件から3年後に同じことを聞いた場合とで比較した実験があるよ。その実験によると、直後と3年後とでは、想起する記憶の内容に大きな違いが生まれたんだ。直後は「その事件について教室で人から聞いた」と答えていたのに、3年後には「テレビの速報で観た」といったように、内容がよりドラマチックに変わっていたんだよ。
フラッシュバルブ記憶とフラッシュバック
フラッシュバルブ記憶の話を読んでくれた人の中には、トラウマやフラッシュバック、PTSDの話を連想した人もいるんじゃないかな。
実際、フラッシュバルブ記憶とトラウマ、フラッシュバック、PTSDなどとの関連性は心理学でも言及されているよ。
トラウマとフラッシュバックとは
心の傷をトラウマというのはみんなも知っていると思う。けど、精神医学や心理学ではもう少し厳密な定義があって「災害や事故、望まない性体験など、自分や他人の生死に関わる重大な事象を経験することで、長い間それにとらわれてしまう状態のこと」を指すよ。
生きるか死ぬかという程の強烈なダメージのことをトラウマと呼んでいるんだ。そして、このトラウマが予期せぬタイミングで突如として記憶によみがってしまう症状のことをフラッシュバックと言うよ。
フラッシュバルブ記憶とフラッシュバックの違い
フラッシュバルブ記憶もフラッシュバックしてくる記憶も、ともに「強烈な感情的体験を伴う記憶」である点が共通しているよ。でももちろん違いもあるんだ。ここでは2つの記憶の共通点と相違点を解説するよ。
なお、「フラッシュバックしてくる記憶」のことをトラウマ記憶と呼ぶことにするね。
まずは相違点について整理していくよ。
相違点
■フラッシュバルブ記憶
・意識的に思い出す
・海馬と扁桃体に記憶される
■トラウマ記憶
・思い出そうとしなくても勝手に思い出されてしまう
・扁桃体に記憶される
フラッシュバルブ記憶が意識的に思い出そうとしたときに思い出す記憶なのに対して、トラウマ記憶は思い出そうとしていないときに思い出されてしまう記憶である点が異なるんだ。いつ何時思い出すかわからないから、毎日の生活がとても苦しくなるんだよ。
また、情報が記憶される脳の部位がそれぞれ異なるとも考えられているんだ。フラッシュバルブ記憶は、脳の記憶の中枢である海馬と、情動や視覚情報を扱う扁桃体に記憶されると考えられているよ。
その一方、トラウマ記憶はほとんど海馬では記憶されず、扁桃体に記憶されると考えられているんだ。
次は共通点だよ。
共通点
・映像が頭に浮かぶ
・時間の経過とともに書き換わる
フラッシュバルブ記憶もトラウマ記憶も、映像として頭に浮かぶことが多いことが知られているんだ。「鮮明に覚えている」と認識されるゆえんかもしれないね。
ただ、先述したようにフラッシュバルブ記憶は時間の経過とともに書き変わってしまうんだったよね。そしてこのことは、トラウマ記憶にも同じことが言えるよ。
かつてトラウマ記憶は、あまりに強烈で鮮明に思い出されてしまうから「固定的で変わることはない記憶」と考えられていたんだ。
でも最近の研究ではトラウマ記憶も他の記憶と同様に、時間の経過とともに書き変わるということがわかってきたんだよ。
嫌なエピソード記憶の書き換え方
トラウマ記憶は急にフラッシュバックしてくる上にとても辛いものだから、できれば思い出しても辛くないものにしていきたいよね。
とても大変な作業だけど、トラウマ記憶も他の記憶同様に、書き換えていくことが可能だよ。その方法は、「定期的にトラウマ記憶を思い出す」こと。
実は記憶というのは「思い出すたびに何かしら作り替わっていく」ものなんだ。確かにトラウマ記憶は思い出すだけでも相当怖いし辛いよね。けど、思い出すことで少しずつ記憶が変容して受け入れることができるものになっていくよ。
もちろん、思い出すための条件は必要だよ。決して否定せず、過剰に驚くことのない安心安全な人に話を聞いてもらいながら思い出すようにしてね。そんな機会を設けられれば、きっと楽になっていくよ。
そして、これは冗談みたいな話だけど、思い出した直後にはテトリスをやるのが効果的だと知られているんだ。これにはちゃんとした科学的な裏付けがあるよ。記憶は思い出すと一時的に不安定な状態になるんだ。だからこそ、思い出すごとに記憶が書き変わるわけなんだけど、何もしないと同じ記憶が再び脳に再固定されるだけになってしまう。
そこでテトリスの出番なんだ。
テトリスは知視覚的・空間的な脳、つまり「扁桃体」を使う課題なんだけど、テトリスで扁桃体を忙しくしてあげることで、トラウマ記憶が扁桃体へ再固定されることを防いでくれるんだ。トラウマ記憶は扁桃体に記憶されるんだったよね。
トラウマ記憶に限らず、その他の嫌なエピソード記憶でも「安心安全な場で話を聞いてもらう」「テトリスをする」は有効だよ。
エピソード記憶まとめ
今日は記憶の中でも「エピソード記憶」に焦点を絞って解説したよ。
焦点を絞ったにもかかわらず、エピソード記憶の性質を使った効率的な勉強方法からトラウマの話まで、とても盛りだくさんの内容になったね。それだけ「記憶」は奥が深いんだ。
少しでも「記憶」について興味がわいた人は、こちらの記憶全体の知識まとめ記事も読んでみてね。