「傾聴」という言葉を知っているかな。
傾聴を簡単に言うと、「耳を傾けて、熱心に聞くこと」。
最近では国の推奨する社会人基礎力の一つとして「傾聴力」が挙げられ、ビジネスシーンを中心に広まりつつある言葉だよ。心理学においても傾聴はカウンセリングの基礎として重要視されているんだ。
人の話を丁寧に、かつ積極的に聞き取る傾聴は、カウンセリングやビジネスの場だけでなく、どんな人にも役立つスキルなんだ。傾聴のやり方や考え方を知ることは、人生を健やかに過ごす助けになるはずだよ。今回はそんな傾聴について解説していくから、一緒に見てくれると嬉しいな。
目次
傾聴の基本4ステップ
傾聴とは、ぼんやりと話を聞き流すのではなく、しっかりと耳を傾けること。
例えば目の前の人が「悲しい」「苦しい」と言ったとき、その背景には様々なものが考えられるよね。辛いことがあったのか、何も起きない日々が寂しいのか、自分のことが嫌いなのか、誰かが憎いのか。そういった複雑な気持ちは最初から明確に言語化されることは少なくて、大抵は「悲しい」とか「苦しい」といった言葉で表現されるんだ。
明確ではない未分化な気持ちや考え方を、ちゃんと聞いてくれる相手に語り続けることで、少しずつ整理されていき、受け止められるようになっていく。そのためには、相手を否定せず共感的に耳を傾ける「傾聴」が重要だということだね。
「傾聴」のような支持的な聴き方について、精神分析家の松木邦裕氏は以下の4つのステップを提示しているよ。順番に見ていこう。
ステップ①:批判を入れず、ひたすら耳を傾ける
支持的な聴き方の第一歩は、傾聴し観察しつつ相手の立場に立ち、相手の気持ちに批判なく添ってみることだよ。
「相談されたから良いアドバイスをしなきゃ」と肩に力が入って、相手の話を遮ってしまったり、沈黙を恐れて余計なことを言ってしまったことってないかな。そうでなくても普段の会話では相手の話す内容を批判したり、思い浮かんだ疑問を口にしたりということがあるよね。
だけどここでは、聴いている自分の中に湧いてくる疑問や批判にとらわれず、語られていることをそのまま受け取り、ひたすら聴くことが重要だとされているんだ。
ステップ①を実践するためには答えを出さずに立ち止まる力の「ネガティブ・ケイパビリティ」が重要だから、ぜひ一緒に記事を見てみてね。
ステップ②:離れて客観的に聴く
ステップ②では、目の前の人が語る内容を客観的な事実ではなく、あくまでその人自身にとっての事実、つまり主観的事実として聴くことが重要だとされているよ。
例えば「パートナーにひどいことを言われた。あの人の考え方はおかしい」という話を聴いたとするね。このとき、ステップ①を前提に、批判をせず耳を傾けながら頭の中で「……と、この人は思っているんだ」と付け加えてみよう。
「これは客観的な事実ではないかもしれない、でもこの人にとっての事実なんだ」という視点を確保しながら聴いて、過剰に入れ込んで同調してしまったり、批判的に反応することを避けるのが大切だよ。
ステップ③:自分の体験、思いと重ねて聴く
ステップ③では「語られた内容に耳を傾けながら、その思いや感情によく似た自分の中の思いや感情に触れながら聴く」ことがポイントだよ。
「一人ぼっちで寂しい」「他の人が羨ましい」といった話を聴いたとき「あぁ、自分もそんなことがあったな」とそれに並行して自分が感じたことのある寂しさや羨望の気持ちを想い出しながら聴く、といった感じだね。
【A】目の前の人の語りを、あくまでその人の中の主観的な事実として距離を保ちながら聴く
【B】自分自身の中にある似たような気持ちを味わいながら並走する
この2つのプロセスからなるのがステップ③なんだ。
ステップ④:同じ感覚にあるズレを細部に感じ取る
最後のステップ④は、自分と相手の感覚や思考の違う部分を細かく感じ取る、というものだよ。ここではステップ③を前提に、孤独や羨望といった似たような感覚を味わいながら、そのうえで生じる自分と相手との“ずれ”に注目するんだ。
「かつて自分はこの人と似たような孤独を感じたことがある。だけどこの人は今、当時の自分よりも深く暗く考え、危機に陥っている。なぜそうなるのだろう」のように、自分と相手の思いや考え方のずれから生じてくる“問い”を吟味しながら聴く、というのがポイントなんだ。
この4つのステップは心理臨床の専門家に必要な能力で、一朝一夕で身につくものでもないんだって。だからこのステップを一般的な傾聴力に適用するのは難しい部分もあるんだ。
まずは4つのステップのうち、ステップ①と②を中心に考えてみてね。ステップ①と②の考え方は、日常生活の中でとても役に立つものなんだ。
相手の話を遮らずに聴くことで信頼関係を構築できたり、あくまでその人の中の事実として受け止めることで必要以上に呑み込まれずに済んだりとメリットも大きいから、このステップを頭の片隅に置いておくのはオススメだよ。
傾聴の歴史
傾聴の重要性は1890年代、精神分析家のフロイトによって指摘されたんだ。フロイトはアンナ・Oという女性の治療ケースに注目し「治療の中で過去の出来事を思い出し、それに話すことで症状が軽減していく」ことを発見したんだよ。アンナ自身はこのプロセスを煙突掃除に喩えたんだ。
その後50年ほど経った1940年代に、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが自身が創設した「非指示的療法」の中で傾聴の大切さを強調し、広めていったよ。
ロジャーズは悩み、苦しんでいる人に対して、助言や指摘だけでなく「その人の良き理解者であること」が大切であると説いたんだ。
ロジャーズの考え方は今のカウンセリングの基礎にもなっていて、臨床心理士など多くのカウンセラーは「話を傾聴すること」を中心にクライエントを支援しているんだよ。
傾聴のメリット
上でも触れたように、傾聴の姿勢が身につくと様々なメリットがあるんだよ。
2006年に経済産業省は「人生100年時代の社会人基礎力」として前に踏み出す力や考え抜く力といった様々な能力を提唱したんだ。その中の「チームで働く力」の中では「傾聴力」が挙げられているんだよ。
ここでは簡単に、傾聴のメリットについて解説していくね。
信頼関係が構築できる
傾聴の姿勢で相手の話を聴くことは、相手の語る内容やその気持ちについて関心を持って情報を得ることだよ。すると相手は「真剣に話を聴いてもらえている」と安心し、信頼関係を築きやすくなるよ。
傾聴する側も相手の考え方について深く知ることができるため、安心感が得られると同時に相手をリスペクトするきっかけにもなるんだ。
ビジネスの分野では傾聴によって築かれた信頼関係を元に報告や相談がスムーズに行われ、円滑に業務が進むことが想定されているんだね。
話している本人が自発的に整理、解決できる
自分の相談に対してありきたりなアドバイスをされると「それができれば苦労しないよ」と感じることってないかな。悩み事は簡単に解決できないからこそ悩み事になっているんだね。
だけど傾聴的に話を聴いていると、話している本人が「あぁ、なんだ。そういうことか」と自己解決してしまうことも多いんだよ。
人は誰かのアドバイスや指示を受けるよりも、自分自身で考えて判断するほうが納得できるし、力を発揮できるんだ。傾聴はそうした力を引き出すのにも役立つということだね。
自己理解が進む
相手の話を遮らず、批判や疑問など思ったことをすぐに口に出さないようにすることで、自己理解が深まるよ。
「この人の言葉に対して自分はなぜ疑問を持ったのだろう」「この人の言うことを批判したくなったのはなぜだろう」と内省する過程で、自分自身の考え方や価値観についての理解が進むんだ。
すぐできる傾聴テクニック
次に日常生活の中ですぐに実践できる傾聴テクニックについて解説していくね。上の4つのステップでも触れたように、傾聴の考え方は奥が深いものなんだ。一方で簡単に試せるテクニックもいくつかあって、ここで紹介するものを実践するだけでもかなりの効果が得られるはずだよ。
ぐっと黙る
相手の話を聴いていて、何か言いたくなったときにはぐっとこらえて黙ってみよう。反射的に言いたくなったことも、少し落ち着いて考えると相手の話を遮るほどのことじゃなかったりするよ。
相手の言葉に対して自分の中に感情的な反応が生じたときには、自分の呼吸や感情に注目してみよう。否定や反論をしたくなった背景を見つめることで、より深い傾聴のきっかけが生まれたりするよ。
相手を見つめる
話している相手の目を見つめていると「この人は話をちゃんと聴いてくれているな」と感じてもらいやすいよ。目を合わせるのが苦手な人は相手の鼻のあたりを見てみたり、相手にしっかりと身体や顔を向けることからはじめてみよう。
目が合うのが苦手な人に対しては、対角線に座ったりすると、安心感を引き出しやすいよ。
バックトラッキング
バックトラッキングは「オウム返し」とも呼ばれる、相手の言葉を繰り返して会話を進めていく技法なんだ。
話し手「この前嫌なことがあって……」
聴き手「嫌なことがあったんだね」
といった感じだね。
この方法は一見不自然に思えるかもしれないね。だけどバックトラッキングをすることで相手は「話を聴いてもらっている」と安心感を覚えるし、お互いに考えをまとめる余裕ができたりと、簡単なわりに効果的なテクニックなんだ。
また関連するものとして「パラフレーズ」と呼ばれる、相手の言葉を繰り返すだけでなく要約したり言い換えたりするテクニックがあるよ。
パラフレーズは上手く使えれば相手からの信頼を得やすい一方で「なんでわざわざ言い換えるのかなぁ」と思われることもあって、使いこなすのが難しいテクニックなんだ。だからまずはバックトラッキングから試してみるのがオススメだよ。
質問と一緒に自己開示を挟む
これは特に日常的な雑談の中で効果的なテクニックだよ。
例えば「ここに来るのははじめて?」と質問すると、人によっては「どんな意図で聞かれているんだろう」と萎縮してしまうこともあるよね。そんなとき「私はここに来るのははじめてなんだけど、あなたは?」のように質問すると相手も安心して答えることができるんだ。
他にも相手の話を理解しきれなかったときには「私は今の話をよく理解できていないと感じるので、もう一回教えてもらえますか?」など“私”を主語にして聞き返してみよう。
自己開示を伴った質問は不自然になりづらく、傾聴を進めていく助けになるよ。
自分を主語にした話し方は“Iメッセージ”とも呼ばれ、アサーションの文脈で重視されているんだ。
傾聴の注意点
次に傾聴の注意点について解説していくよ。長くて疲れちゃったかもしれないけど、傾聴の注意点について知ることは大切なことだから、一息ついて読んでみてね。
自分を傷つける相手からは離れる
傾聴は専門家だけでなく、日常生活の中でも活用できる人間関係における基本的なテクニックなんだ。だけどその一方で家族関係や職場など集団の中で立場の弱い人が「黙って聞く役」を押し付けられることがあったりもするんだよ。
「相手の言葉を遮らないでただ受け止める」といっても、それが自分にとって耐え難いストレスになるようなら、その場面は避けたほうがいいよ。
「責任を持てる範囲」を事前に決めておく
傾聴の原則として「聴いたことを他の人に話さない」というものがあるよ。
特定の人にだけ話したことを他の人も知っていたら「あなただけに話したのに」となってしまうよね。一方で同僚から「会社の金を横領した」という話を聴いたら「自分だけに話してくれたんだから誰にも言わないでおこう」とはならないかもしれない。
つまり大切なのは「基本的に聴いたことは他言無用。だけどその範囲はしっかり決めておく」ことなんだ。たとえば臨床心理士の活動では一般的に「話した内容は他言無用。ただし自傷他害の恐れがあると判断した場合には行政や他の支援者へ情報を提供することがある」と事前に約束をすることが多いよ。
「絶対誰にも言わないでね」と言われたときには「もちろん誰にも言わないつもりだけど、内容によってはあなた自身のために誰かに伝えることがあるかも」のように前置きしておくのが、安全で誠実な対応だと言えるね。
傾聴は「自分の気持ちを知る」ところから
ここまでまとめてきたように、傾聴は誰でも簡単に取り組めるもので、人間関係を円滑にするのに役に立つテクニックなんだ。
今後さらに複雑になっていく社会の中で「お互いが何を考えているのか」を知り、「お互いを尊重していく」ために、傾聴の考え方は有効なはずだよ。
最近では「傾聴ボランティア」なんて形で、傾聴の講習や実践が行われている場合もあるから、そういったところを調べてみるのもいいかもしれないね。
傾聴についてさらに勉強したい、深く知りたいと思った人は、一度立ち止まって自分を見つめ直してみてね。傾聴の4ステップでも解説したように、人の心に寄り添うためには自分自身の気持ちをモニタリングして、それを参照枠として活用することが大事なんだ。
傾聴をうまく使って、豊かな毎日を過ごしちゃおう。