「女性は清楚じゃないといけない」
「弱音を吐くなんて男らしくない」
「日本人は勤勉」
たとえ悪意や深い考えがない場合でも、こんな風に無意識に思ったり言ったりしたことはないかな。
今回解説していく「アンコンシャス・バイアス」は、まさにそんな「無意識の偏見」のことなんだ。
アンコンシャス・バイアスは、Googleで人種や性別からくる差別を取り除くことを目的とした社員研修が行われたことで一気に注目を集めることになったよ。日本においても働き方改革の一環である「男女共同参画」のために、性別に関するアンコンシャス・バイアスの解消が目指されているんだ。
アンコンシャス・バイアスを知ることで、物事に対しての視野を広げていこう。
目次
アンコンシャス・バイアスとは?
アンコンシャス・バイアスとは、「本人自身も気づいていない無意識の思い込み」のことだよ。
「アンコンシャス(unconscious)」は「無意識」、「バイアス(bias)」は「偏見」を意味する英単語で、今までの人生経験や普段かかわる人たちなどから少しずつ形作られていくんだ。
アンコンシャス(無意識)に様々な判断がなされること、それ自体は悪いものでは決してないよ。人が生活する上であふれる多くの情報を、いちいち意識的に検討すると大変だよね。
例えば、サッカーをしているときに、瞬時に「サッカーボールをパスされた」と判断できるのは、無意識の持つ力のおかげなんだ。
でも、このアンコンシャスな判断が気づかないうちに人を傷つけたり、不利益をもたらしたりすると問題だよ。
アンコンシャス・バイアス 日常生活の例
アンコンシャス・バイアスにはどのようなものがあるんだろう。
アンコンシャス・バイアスはその名の通り、無意識的な考え。自分にどんなアンコンシャス・バイアスがあるのかは、言語化することで改めて明確になっていくよ。
ここでは内閣府によって令和3年度に行われた「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果」で、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答した割合が高かった質問を元に「家庭」「仕事」「人間関係」にカテゴリ分けして見ていくことにするね。
家庭
まずは「家庭」にまつわるアンコンシャス・バイアスについてみていこう。
「男は仕事をして家計を支えるべき」
「共働きで子どもの具合が悪くなった時、母親が看病するべきだ」
「家事・育児は女性がするべきだ」
「男性は結婚して家庭をもって一人前だ」
このような「男は仕事をする、女は家を守る」といったアンコンシャス・バイアスがみられやすいよ。最近は共働きが増えてきたとはいえ、まだまだ女性が家での作業を担うものとの考えが根強いみたいだね。
仕事
次は「仕事」にまつわるアンコンシャス・バイアスをみていこう。
「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない」
「共働きでも男性は家庭よりも仕事を優先するべきだ」
「組織のリーダーは男性の方が向いている」
「大きな商談や大事な交渉事は男性がやる方がいい」
このような「仕事は男性が中心」といったアンコンシャス・バイアスがみられやすいよ。「男女共同参画」や「男女雇用機会均等法」などで仕事における男女平等を目指して様々な活動や制度は構築されてきてはいるけど、人の無意識レベルの変革には、もう少し時間がかかってしまうのかもしれないね。
人間関係
最後に「人間関係」にまつわるアンコンシャス・バイアスをみていくね。
「女性には女性らしい感性があるものだ」
「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」
「女性は感情的になりやすい」
「男性は人前で泣くべきではない」
このような「男性は感情を控えるべきで、女性は感情的だ」「男性は強くあらねば」といったアンコンシャス・バイアスがみられやすいよ。
実際、映画視聴後の感情表現を研究した鈴木氏によると、女性が「~が好き」など自分の感情を主体的に話す一方、男性は「好きな俳優だ」など、映画を分析するような形で感情を表現する傾向がみられたんだ。
アンコンシャス・バイアスを持つ人の割合
上記で挙げたアンコンシャス・バイアスをみてどのような感想を持ったかな。
「えー、全然ピンとこない」という人もいるかもしれないね。けど、多いものでは5割以上の人が、少ないものでも2割近くの人が、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答しているんだ。
中でも「女性には女性らしい感性があるものだ」は男女ともに一番「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答した割合が高く、男性で51.6%、女性で47.7%という結果が出ているよ。
また男女とも仕事に関しては「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきではない」との意識が一番強いこともわかったんだ。
こんな感じで、男性が「女性はこう」とバイアスを持っている場合だけではなく、女性自身が「女性はこう」とのバイアスを持っていることもあるんだね。もちろん逆もしかりだよ。
アンコンシャス・バイアスが生じる心理学的な背景の例
どうしてアンコンシャス・バイアスは生じるんだろう。それは人間が持つ心理特性が関係しているんだ。どんな心理特性が背景に潜んでいるのか、代表的なものをみてみよう。
ステレオタイプ
ステレオタイプとは「○○人は××なところがある」というように、特定のカテゴリーに人を当てはめたイメージのことだよ。
例えば、「銀行員はまじめ」「女性は子ども好き」「シニアはスマホが苦手」などだね。
そのカテゴリーに当てはまらない人も必ずいるはずなんだけど、カテゴリー外の人を考慮に入れないことがアンコンシャス・バイアスにつながっていくんだ。
正常性バイアス
正常性バイアスとは、「自分にとっては正常なこと」「平気平気」「まだ慌てるような時間じゃない」といった感じで、本当は何か危機的なことが起きていても「自分は大丈夫」と過小評価することだよ。
どうして「自分は大丈夫」と言えるのか、その根拠がかなりあいまいなまま判断してしまうことが、アンコンシャス・バイアスにつながっていくんだね。
同調圧力
同調圧力とは、「みんながしているから」と、特に深く考えず流されることだよ。
例えば、みんなが「カレーが食べたい」と言ったので、自分も「カレーが食べたい」と言った、みたいな感じだね。
「皆がそうしているから」という理由でよく考えずに判断してしまうことがアンコンシャス・バイアスにつながっていくんだ。
ハロー効果
ハロー効果とは、ある一つの優れた特性があると、その他の関係ない特性も優れていると判断してしまうことだよ。
例えば、「東大生は頭がいいから誠実」というような判断だね。けど、よく考えると頭がいいことと誠実なことは本来は無関係。
「○○が優れている人は皆××」と大雑把に把握することがアンコンシャス・バイアスにつながっていくんだ。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分が「こうだ」と思ったらその判断に都合の良い情報ばかりを集めてしまう思考の偏りのことだよ。
例えば「関西人は面白い」と思っていると、面白くない関西人がいても「この人は例外」と無視して、「ダウンタウンもさんまさんもみんな関西人。だから関西人は面白い」と、都合のいい根拠ばかりを集めてしまうんだ。
「反対意見にも耳を傾ける」といったことなく「やっぱりそうだ」を積み重ねることでアンコンシャス・バイアスにつながっていくんだね。
確証バイアスについては「よく考えると怖い心理学用語10選」も参考にしてみて。
インポスター症候群
インポスター症候群とは、自分が成功したことを受け入れられず、「周りを騙しているんじゃないか」と思ってまう心理状態のことだよ。インポスター症候群は、男性にも増えてきているけど、女性に多いと言われているんだ。
「自分(女性)なんかが仕事でうまくいくなんてあってはいけないことだ」と考え続けると、どんどん主語が「自分」から「女性」にまで大きくなってしまい、結果としてアンコンシャス・バイアスにつながっていくことになるんだね。
インポスター症候群については「男性にも増加中?インポスター症候群とは」の記事も参考にしてみて。
ゴーレム効果
ゴーレム効果とは、周囲から期待をかけられない人は、その期待の無さの通りにパフォーマンスが低下してしまう現象のことだよ。
牧野氏の研究によれば、「女子は数学が苦手」と思い込んでいる教師に教わった女子中学生は本当に数学の成績が下がってしまったそう。
ゴーレム効果が実現すると「やっぱり思った通り」と感じる悪循環になるね。この悪循環がアンコンシャス・バイアスにつながっていくんだね。
アンコンシャス・バイアスへの対策
アンコンシャス・バイアスとの向き合い方として大切なのは、「人には必ず何かしらのアンコンシャス・バイアスがある」のを知っておくことと、気づいたときにどう対策するかということだよ。
では、アンコンシャス・バイアスにどう対策していければいいのか具体的にみていこう。
「普通」「どうせ」という言葉に注意
「普通はこうでしょ」「どうせ自分には無理」。このように「普通」や「どうせ」という言葉が頭に浮かんだり、口に出たりしたらアンコンシャス・バイアスが働いていないか気にしてみよう。
現在は「ダイバーシティ」が注目を集めたり、「VUCAの時代」と言われるくらい、「何が普通か?」が分かりにくくなっている時代なんだ。ダイバーシティとは多様性を意味して、VUCAとはVolatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもので、「変化が激しい時代」を意味しているよ。
だから「普通は…」という考えは、これからの時代に合わない価値観に基づく考えである可能性が捨てきれないんだ。
「どうせ…」の考えも一緒。今までの価値観からの判断に過ぎず、これからはまた違う可能性もあるんだ。今までの価値観でこれからの自分を縛る必要はないんだよ。
こんな風に「本当にそうかな?」と自分の考えに建設的に疑問を持つことはメタ認知を鍛えることで養われるんだ。アンコンシャス・バイアスに対策するためにメタ認知の記事もぜひ読んでみてね。
「相手のサイン」を大事にする
アンコンシャス・バイアスに基づく言動は、相手に納得できなさ、つまり違和感をもたらすよ。その違和感は表情や態度に現れるんだ。相手の表情や言動から自分のアンコンシャス・バイアスに気づけるように注意しよう。
もちろん、初めからアンコンシャス・バイアスに基づく言動をしないならそれに越したことはないよ。でもアンコンシャス・バイアスは無意識の考え方。余程意識しないとなかなか気づきにくいんだ。
「急に口数が減った」
「部屋を出るときにドアを勢いよく閉めた」
「貧乏ゆすりが始まった」
「腕を組みだした」
こういったサインがみられたら気づかずうちにアンコンシャス・バイアスに基づく言動をしてしまった可能性はないか内省してみよう。
「友だちの友だち」の話をきく
「友だちの友だち」の話を聞くだけでも、アンコンシャス・バイアスへの対策になると考えられるよ。
例えば、「サイヤ人は野蛮な戦闘民族だ」というアンコンシャス・バイアスがあった場合、クリリンにサイヤ人の悟空の話をしてもらうだけで、アンコンシャス・バイアスがかなり低減していくんだ。
こんな風に、自分の友だちに、自分が普段かかわりがない人と関わっている人がいることを知るだけで、その人への印象が好意的になる現象のことを拡張接触というよ。
協力し合う
自分とは所属や属性の異なる人と協力して課題にあたることは、アンコンシャス・バイアスへの対策になるよ。
人は「よく知らない」事柄に対して偏見を持ちやすく、それがアンコンシャス・バイアスへとつながっていくんだ。だから「よく知らない」といったことを解消すると、不必要なアンコンシャス・バイアスは解消されていくよ。
「よく知らない」をなくすのに効果的なのが、互いに協力し合うことなんだ。米国の心理学者シェリフが行ったロバーズ・ケーブ実験によれば、二つの対立し合う少年グループに、食料を買い出しに行く大型トラックが動かなくなるなど「協力し合わないとクリアできない課題」を与えると、対立が解消されていくんだって。「対立してる場合じゃない」状況になれば、自然と協力するのもうなづけるね。
アンコンシャス・バイアスまとめ
アンコンシャス・バイアスはその名の通り「無意識」に起きるバイアスなんだね。だから、本人もそれが間違っていたり、偏った判断だとなかなか気づかないまま生活していることも多いみたい。
特に、自分が「多数派」に属しているときには「当たり前のこと」として処理されやすいからなかなか気づきにくいんだ。逆に言うと、マイノリティになって初めて気づかされることもあるということ。
今後ますますダイバーシティが尊重されていく時代になっていくと思う。「誰にでもアンコンシャス・バイアスはある」という前提に立って、気が付いたときに冷静で現実に即した認識ができるようにしていく努力が大切だね。
他のアンコンシャス・バイアス一覧が気になる人は心理学用語のページを見てみてね。