みんなはアイデンティティという言葉を聞いたことがあるかな?
曲のタイトルや歌詞、テレビやゲームなどで聞いたことがあるって人もいるかもしれないね。だけど意味についてはよくわからないという人も多いんじゃないかな。
今回はアイデンティティという言葉の意味や、アイデンティティ確立の方法についてわかりやすく説明していくよ。
心理学的な知識をわかりやすく解説するから、ぜひ読んでみてね。また、アイデンティティ確立の度合いを測るチェックリストも用意したから、よかったらやってもらえると嬉しいな。
目次
アイデンティティとは?
まずアイデンティティの定義から説明していくね。アイデンティティ(Identity)とは、他人や社会との関わりの中で、自分が自分であるという感覚を持つこと、自分がどういう人物であるかを認識すること、その自分が過去も未来も変わらない感覚のことを指すよ。
社員証や学生証、免許証など、自分についての情報が書いてあるものをIDカードと言ったりするよね。IDカードは、アイデンティティ・カードの略なんだ。自分が自分であることを誰かや社会に向けて、証明するカードという意味が含まれているんだよ。
アイデンティティは、自我同一性、自己同一性、同一性などと日本語に訳されることが多いんだ。
アイデンティティの意味
定義だけじゃわかりにくいから、もっと感覚的にアイデンティティの意味を具体的に説明するね。アイデンティティは「他者や社会との関わりの中での自分らしさ」のことでもあるよ。「自分らしさ」というと、自分一人で作るイメージする人もいるかもしれないね。でもそうではなくて、他者や社会との関係の中でアイデンティティは作られていくんだ。
実は、私たちの毎日の生活の中でも、アイデンティティが作られているんだ。例えば、仕事中に故郷の実家にいる姉から「今度いつ実家に帰ってくる?」とメッセージが入って、返事を退社後にしたとするよね。そのときに、「仕事中だからあとで返信しよう」と社会での役割を意識するとともに、「自分には姉がいて、自分は弟だ」と家族での立場も再確認しているんだ。普段は意識しないけど、こうした毎日の生活の中で、周りに置かれた環境や、人と人との関わりの中で、自分が誰かということを何気ない作業の中で確認しているんだよ。毎日の生活の積み重ねや人と人との関わりがアイデンティティを作っているんだね。
「アイデンティティ」の使い方
言葉の使い方としては、「自分らしさ」「自分の個性」といった意味合いで使われていることが多いんだ。「色々悩んだ結果、アイデンティティを確立する」「自分のアイデンティティが持てなくて、将来何をしたらいいかわからない」というように使ったりするよ。
またその他には、「あの国の民族アイデンティティは〇〇だ」「企業としてのアイデンティティを確立する」といったように、民族や文化、あるいは会社などの組織や集団の個性や特徴を表す意味でも使われることがあるよ。
アイデンティティの提唱者エリクソン
アイデンティティは、E.H.エリクソンというアメリカの心理学者が提唱した言葉1だよ。人間が社会の中で成長していくことに関心を持っていたエリクソンはライフサイクル論という理論を作り、人間の成長プロセスを8段階に分けたんだ。8段階のそれぞれに、人生を充実して過ごすために必要な発達課題を設定しているよ。その中で、アイデンティティの確立は、ライフサイクルの5番目にあたる青年期の発達課題なんだ。
青年期はだいたい中高生くらいの年齢から20代くらいまでを指すよ。ちょうど青年期は進学や就職あるいは転職など、「自分が何になりたいか?」など職業について考える時期でもあるよね。青年期に、自分なりに進路や職業、生き方を選択する作業を通して、「他者や社会の中での自分らしさ」を確立していくことが必要とされているんだ。
それでも、アイデンティティ確立が必要なのは青年期だけではないんだ。エリクソン自身もアイデンティティ形成の作業は一生を通じて行われると言っているよ。学校を卒業して社会人になる、転職や転居などで異なる環境に飛び込むなど、環境の変化や人生の節目で自分のアイデンティティをとらえ直す必要が生じる場合があるんだ。だから、アイデンティティは一度確立したら終わりというものではなく、何回も作り直していく必要があるんだよ。
日本と欧米諸国のアイデンティティのあり方の違い
でも、エリクソンはアメリカの人だよね。果たしてエリクソンの言うアイデンティティが日本にも当てはまるかどうかは、日本の心理学者の間でも議論がなされているんだ。
日本と欧米諸国でアイデンティティのあり方が違う原因として、人間観の違いが影響していると言われているよ。社会心理学の研究では、欧米諸国は「独立した個」が重視される傾向にあるとされているんだ。簡単にいうと、自分の意見を主張することが良しとされる文化なんだよ。その一方で日本は、「周囲と協調すること」が重視される傾向にあり、自分の意見を主張するよりも、空気を読む行動などが良しとされるんだね。周りに気を使いやすい日本人にとっては、なかなか「自分らしさ」や「個性」を持つようになるというのは、難しいかもしれないんだ。
文化の違いも踏まえた上で、広島大学の杉村教授は、他者との関係性をより重要視したアイデンティティのあり方を提唱しているよ具体的には、親や友人の考えや価値観を尊重し、時には受け入れながら、自分なりの考えや価値観を選択していくプロセスを重要視しているんだ2。
アイデンティティ確立ができるとどうなる?
エリクソンは、提唱したライフサイクル論の中で、アイデンティティの確立をとても重要視していたんだ。その理由を話していくね。
対人関係に自信が持ちやすくなる
1つ目は、アイデンティティを確立することで、対人関係に自信を持ちやすくなるんだ。神戸大学の谷氏の研究によると、アイデンティティの確立が、「人が怖い」「人と関わりたくない」という対人恐怖症心性を軽減する効果があるとされているんだ3。
アイデンティティを確立すると「自分はこういう風に見られやすいから気をつけよう」と振る舞い方に気をつけたり、「こうしておけば大丈夫」とコミュニケーションに自信が持てることが影響していると考えられるんだ。また、「自分はこういう人と仲良くなりたい」と親密な対人関係の持ち方のイメージが明確になることも理由としてあげられるよ。
レジリエンスが高まる
アイデンティティを確立できると、レジリエンスを高めることもできるんだ。レジリエンスは、精神的な強さを表す用語として近年着目されていて、「回復力」「復元力」と訳されるよ。レジリエンスが高い人は、ストレスが降りかかるような困難な状況でも、環境への適応が早かったり、立ち直りが早いとされているんだ。
アイデンティティが確立できている人は、自分の気持ちのコントロールや、新しいことにチャレンジすることを恐れない気持ちなど、レジリエンスに必要な要素が備わっている傾向があるよ。アイデンティティを確立できると、社会で生きていく自信もつくから、困難な状況にも立ち向かいやすくなるということだね。
アイデンティティ・クライシスとは?
アイデンティティ確立が困難で、自分を見失っている状態のことをアイデンティティ・クライシスというよ。
クライシス(Crisis:危機)という言葉の意味にあるように、「自分が何者かわからない」「どういう仕事を選んだらいいかわからない」といった悩みや混乱のことを指すんだ。特にアイデンティティを確立する青年期には、「自分ってどういう人間なのだろう?」と見つめ直す機会も多いから、一過性のクライシス状態になることは少なくないよ。
それでも、アイデンティティ・クライシスは、ネガティブな意味ではなく必要なプロセスでもあるんだよ。自分のあり方をじっくりと見つめる機会を持つことで、「自分らしさ」を深めることに繋がるし、悩んだときの心の拠り所となる自分の大事な信念や考えを確認できることもあるからね。
アイデンティティ確立度チェックリスト
ここまで話してきて、「じゃあ自分はアイデンティティが確立できているのかな?」と思った人もいるかもしれないね。東京大学の下山教授が作成したアイデンティティ尺度の一部を抜粋してみたよ4。あくまで、今の状態を表すものだから、気になる人は参考程度にやってみてね。
- 自分の生き方は、自分で納得のいくものである
- 私は、十分に自分のことを信頼している
- 私は、自分なりの生き方を主体的に選んでいる
- 自分は、何か作り上げることのできる人間だと思う
- 社会の中での自分の生きがいがわかってきた
- 自分にまとまりが出てきた
- 私は、自分なりの価値観を持っている
- 私は、魅力的な人間に成長しつつある
どうだったかな?あまりチェックがつかなかった人も、たくさんチェックがついた人もいるかもしれないね。謙虚で、周囲に気を使う傾向にある日本人は、自信を持ってチェックしづらい項目もあると思うよ。ここにチェックが全部つかなかったとしても、アイデンティティ・クライシスというわけではないから安心してね。あくまでアイデンティティを確立するための目安として考えてほしいんだ。
それではここから、アイデンティティを確立する方法をお話していくよ。
アイデンティティを確立する方法
アイデンティティを確立する方法は、大きく分けて3つあるんだ。それぞれ説明していくね。
自分に合ったコミュニティを見つける
1つ目は、自分に合ったコミュニティを見つけることなんだ。アイデンティティを研究している東京工芸大学の小沢教授は、人が居場所があると実感できるときは、「自分が自分らしくいられること」と「その自分らしい自分を周りが受け入れてくれる」状態だから、「他者の間で自分らしく」いられるアイデンティティを確立した状態に近いといっているよ5。
とはいえ、そんな心地の良い居場所は無いという人も多いと思うんだ。職場や学校があまり居心地が良くなかったとしても、「毎日行く必要がある」所属があったり、「課題をしなければならない」役割の積み重ねが「自分が自分である」という感覚を支えるんだよ。それは誰にでもできることだっていいんだ。「その場所で」必要とされていることだからね。
自分が今所属しているコミュニティを大切にしつつ、居心地のよい居場所も少しずつ見つけていけるといいよね。
あなたにとって役割のある居場所はある?
色んなことに挑戦してみる
エリクソンは、いろいろなことに取り組んでみる「役割実験」がアイデンティティの確立に重要だと言っているよ。
日本でアイデンティティ研究をしている京都大学の大倉教授も、一人で悩むと行き詰まるので、行き詰まったら動き出して、何か新しいことに取り組んでみることを勧めているんだ新しいことへの取り組みや、新しい人々との関わりを通して、自分の個性や特徴について考える材料が手に入りやすくなるからと言われているよ。
もしかすると、新しいことに取り組むと失敗することもあるかもしれない。でも、アイデンティティ確立にとっては、失敗はネガティブなものではなくて、自分の限界を受け入れて納得してあきらめることができるメリットがあるんだ。だから、色んなことに挑戦する作業は上手くいっても、行かなくても、アイデンティティ確立につながるから安心してね。
周りの人と関わる機会を増やす
アイデンティティを確立したいと思うときこそ、周りの人と関わってみることをおすすめするよ。自分の知らなかった自分の個性や長所について、気付きが得られることがあるからなんだ。実は自分自身でも知らない面を、近くでみている周りの人が知っている場合もあるよ。もちろん、これは実際に会っている人だけではなくて、SNSやオンライン上の対人関係でもいいんだ。
自分を知りたいと思った人は、ジョハリの窓をやってみるといいよ。ジョハリの窓とは、自己分析の方法の1つなんだ。これは「自分は知っている/気づいていない」領域と「他人は知っている/気づいていない」領域の二つの軸で構成された4つのマトリックスを元に自己分析をしていくものだよ。
ジョハリの窓の考え方としては、開放の窓の領域を増やしていくと自己理解が深まると言われているよ。盲点の窓の領域を活用して、周りの人が知っているけど、自分を知らない自分についてフィードバックをもらうと、開放の窓の領域を増やすことができるんだ。詳しい説明は、ジョハリの窓の記事を読んでみてね。
「自分探し」のために旅に出るという人もいるけど、身近な人が自分を知ってくれている可能性も高いから、まず周りの人と意識的に関わってみることをおすすめするよ。
アイデンティティ確立を焦らなくてもよい
ここまでアイデンティティの意味や使い方、アイデンティティの確立の方法についてお話してきたよ。
アイデンティティとは、「他者や社会の中での自分らしさ」。アイデンティティを確立するには、「居場所を見つける」「色んなことに挑戦してみる」「周りの人と関わる機会を増やす」ことが必要だよ。
それでも実は、アイデンティティ確立を焦らなくてもよいとも言われているんだ。京都大学の大倉教授は、一つにとらわれず、多くの物事への可能性を残しながら生きることが現代において必要な能力だと言っているよ6。確かに、一つの会社に勤め続けることが少なくなり、副業を認める会社が多くなってきたことなど、社会的な流れからみても自然な考え方なのかもしれないね。一つに絞るとしても、いろいろなことに取り組み続けた結果、最終的に残ったものが、僕たちらしいアイデンティティともいえるのかもしれない。だから、今アイデンティティを持てていないと感じていても心配しなくていいんだ。目の前を一生懸命生きた結果、自分のアイデンティティが見つかるかもしれないからね。